居酒屋で経営知識

18.汝の時間を知れ

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。毎度」

「暑い暑いって言ってたら、もうお盆休みの時期ですね」

「そうですねえ。そういえば、由美っぺはお袋さんの墓参りに行かせないと」

「大将のお姉さんでしたね」

「ええ?マスターは由美さんの叔父さんなんですか?」

「亜美ちゃん、知らなかったんだ。それで、学生時代から面倒見てるんだよ」

「ははは。どちらかというと、あっしの方が由美っぺに面倒みてもらってますがね」

「由美さんって、両親ともいないんですか?」

「そうなんだ。2人一緒に事故で亡くなってしまったんだ」

「そんな風には全然見えないですよね。由美さんてすごいなあ」

「いらっしゃい。毎度」

「お、ジンさん、今日は早いね」

常連の大森さんだ。

「ええ。こう暑いと外回りも早めに切り上げないと熱中症になるって、会社も暗黙の了解ですね」

「やっぱり、サラリーマンはいいなあ。我々は塩舐めながらでも頑張らないと。途中で切り上げるなんて難しいからね」

「大森さんって、塩舐めながらお酒は飲んでますけど・・・」

「亜美に言われちまった。確かに、毎日ここで飲んでるからサラリーマンより余裕に見られるか^_^」

「大森さんもジンさんも、時間管理のプロフェッショナルってことですよね。おかげで、みやびも助かってるってことで」

「黒さん、いいこと言うねえ。そういえば、ジンさんの商店街経営講習でも、時間管理から話が始まりましたね」

「大森さん、覚えていてくれましたね。時間だけはすべての人に公平ですよね。その時間が管理できないと、結局は成果に繋がらない雑事に追い回されて、生産性があがらないということになります」

「それが難しいんだよね。自分なりに計画を立てても、緊急の連絡や突然の来客、入荷が遅れたとか、とにかく、計画通りにならないというのが本音だね」

「そうですね。たぶん、多くの人がそう思っていると思います。だからこそ、やっぱり、成果をあげるという目標を明確にして、時間からスタートすべきだということになるんですよ。ピーター・ドラッカーは、この時間管理についていろいろな形で語っています。例えば、計画を立てるより前に、まず、何に時間が取られているのかを明らかにして、非生産的な要求を退けることを考えなさいと言ってます」

「うーん。自分の時間を奪っているものか。つまり、その実際の業務と離れた付き合いでの来客とか、電話・メールということかな。それらを退けるってのは大変だ」

「これは、私のやり方ですけど、成果をあげるための仕事というのは、それなりにまとまった時間が必要ですから、電話を受けない時間を作り、その間の電話は別の人に受けてもらいます。本当の緊急事態以外は取り次がないようにしているんです。携帯も運転モードにすることもあります。メールも同じです。メールを処理すると決めた時間以外にはチェックしないし、チェックするのも、重要なもの以外は先送りにします」

「さすがジンさんは徹底しているね。考える必要があるかもしれないなあ」

「時間は買えない、借りられない、貯めておけないし、どんな人でも1日24時間しか無いんです。その中で、どう時間を使って成果に繋げるかを考えなければ、どんどん重要なことを先送りにしてしまいます」

「そうだなあ。忙しいからと言っても、他人から時間をもらう訳にはいかないし、下手をすると、あると思っていた時間が、病気や事故で使えなくなることすらある。そう考えると、時は金なりとは名言と言うことかな」

「そうですね。時間を管理するだけで成果が上がる訳ではないですが、本来やるべき仕事に集中することが出来なければ少なくとも良い仕事はできないということです。まとまった時間を作って、考えるという行為が原点にあります」

「考えるというのはなかなか先が見えないから、目の前の処理に時間を使って満足してしまうのかな。実際、どんなことに1日の時間を使っているのか、思い出してもわからんし」

「大森さんの言うとおりですね。処理しなければいけない書類などは目の前にありますし、TODO管理などでもやらなければならないことが並んでいれば、まずはそれを処理しようとしてしまいます。まずは、自分が何に時間を取られているかを記録して、己を知ることから始めなさいとも言ってます。時間管理をするためには、日々の時間の使い方を記録し、どう時間をまとめて使うかを常に検討することが必要なようです」

「うへー。時間と行動の記録ってことかね。なかなか大変だな」

「最近は、自分の活動を自動で記録してくれるツールも出来ていて、24時間身につけていると座っているとか、歩いているとか、寝ているとかをパソコンやスマホに取り込めるらしいです。これを利用して、その時間帯にやったことをメモして置いたものから転記することが出来そうですよ」

「へえー。世の中変わるもんだ。でも、ツールがあるんだったらそれを最大限使ってやってみるかね」

「さすが、大森さん。是非やってみてください」

「それじゃ、時間がもったいないから飲もうかね」

「はい。かんぱーい!」

(続く)


《1Point》
汝の時間を知れ

 ピーター・ドラッカーの「経営者の条件」の第2章は「汝の時間を知れ」というテーマに30ページ強を割いています。

その初めの言葉を若干長めに引用してみます。

「私の観察では成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。計画からもスタートしない。時間が何にとられているかを明らかにすることからスタートする。次に時間を管理すべく、時間に対する非生産的な要求を退ける。そして最後にそうして得られた自由になる時間を大きくまとめる。
したがって、時間を記録する、整理する、まとめるの三段階にわたるプロセスが、成果をあげるための時間管理の基本となる。」

(ドラッカー名著集1「経営者の条件」P45 P・ドラッカー 上田惇生訳 ダイヤモンド社)
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24時間身につけて記録するガジェットとして有名になっているのが、Jawbone という本当にシンプルな機器です。見た感じはブレスレットです。

興味があるのですが、まだ買ってません。誰か使った人がいたら是非感想を教えてください。