居酒屋で経営知識

19.意見の不一致の必要性

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。あついねえ」

「いつから日本は熱帯地域に入ったのかって思いますよ」

「最近、観測史上最高とか、最大とか、景気の話だったらバブルを疑うようなニュースが多いですからね。最低気温が最高なんて、突然言われても何のことやら???ですね」

「やっぱり、こうなってくると地球温暖化は進んでいるという意見が優勢になりますよ」

「そういや、地球温暖化なんて進んでいないという意見を言う人もいるらしいですね」

「こういうことは反対者がいても不思議はないですよ。自然の変化なんかは、必ずしも統計とか、分析で単純解明できるわけないですから」

「そりゃそうですね。今日の天気ですらしょっちゅう外れているんですから」

「はーい。ジンさん、暑い中お疲れ様でした~」

 タイミング良く、亜海ちゃんが生ビールを持ってきた。

「ありがとーう。じゃあ、乾杯」

 汗が引ききっていない身体にビールの冷たさが染み渡る。

「うまいなあ~。やっぱり止められないよなあ、最初の生ビール」

「なかなか、最近の若い人たちはそう思わないようですよ。苦いだけで何がうまいのかって思うらしいです」

「こういうのも慣れなんでしょう。思い起こせば、最初にビールを飲んだときは、確かに、なんでこんなのが旨いって言ってるんだろうって思ってましたよ」

「へえー、ジンさんでもそうでしたか。我々の頃は、ビールって一杯が高かったですから、なかなか飲めなかったような気がしますよ。客の残したぬるい瓶ビールでも、こっそり飲むのが楽しみでしたから、単純にありがたがって飲んでたかもしれませんね」

「今は、豊かになったこともあるかもしれませんけど、いろいろな考えや感じ方にしたがって生きられるようになったのかもしれません。大げさな言い方ですけど」

「確かにそうかもしれませんね。上司や先輩に飲ませてもらわないとなかなか飲みに行く経済力がなかったですから、好き嫌いなんて言っていられなかったし、飲むという行為に保守的でしたね」

「昔読んだ柳田國男だったと思いますが、ハレとケという区別が曖昧になってきたという分析があったのですが、その考え方を引きずっている部分もあるのかもしれないと感じたのが飲み方でした。たぶん、昔の庶民は、日常的には酒を飲むと言うことはあまりなかったんだと思います。ハレの場でだれはばからず飲むことが許されますから、無礼講などと言ったんだと思います」

「みんな同じように、会社終わったら、みんなで飲みに行って、飲め飲め言われるような時代は終わっているのかもしれませんね。それはそれで当然の流れなんでしょう」

「みやびもそんな変化に対応しようといろいろな手を打ってきてますから、大丈夫でしょう」

「ジンさんにそう言っていただければ、心強いですがね」

「そういえば、会社の会議も、変わってきていますよ。日本の企業の会議というのは、決定すべきことはあらかじめ根回しが済んでいて、ほとんどは報告会でしかないって言われてました。でも、この情報ツールなどがどんどん進んでいる状況で、そんなことをしている企業は、化石化していくしかないでしょうね」

「良く聞きますね。発言する人はトップや報告すべき人だけで、他は頷いていることが参加する意義だなんてね」

「スピードと決断が必要な時代に、そんな会議をしている暇はないでしょう。それも、アメリカなどでは70年も前に言われていたんです。日本では調整型の会議が長く続いていたと言われますがそれはそれで意味はあったのだと思いますが、さすがに今も日本型経営だなどと言う訳にはいかないようです」

「70年前とは・・・第二次世界大戦の頃ですか?」

「ええ、そうですね。これも、ドラッカーの著作で読んでいた話なんですが、GM(ゼネラル・モーターズ)の当時の社長アルフレッド・スローンなどが会議で満場一致となるようなときには、決定を延期することをしたそうです。リンカーンやフランクリン・ローズベルトなどの大統領についても同様だったと言います」

「ええ?満場一致なのにですか?」

「つまり、トップマネジメントが直面するような問題については、満場一致で決められるようなものはないという考えです。相反する意見の衝突や異なる視点、異なる判断があって、初めて選択し、よりよい決定が出来ると言う考え方です」

「うーん。いろいろな見方を出すことで、間違った認識や誤解を防ぐと言うことですかね。何となく、わかります。違った考え方の人の話を聞くことで、違ったポイントに気づくことがありますね。どんなに優秀な人であっても、自分の見方、考え方だけだと大きな間違いを犯すことがあるのかもしれません」

「大将。その通りだと思います。日本型経営と言われた根回しの重要性は、その根回しの間に多くの意見を調整できることにあったのかもしれません。それが、いつしか強力な根回しのノウハウが弱まったのに、会議では相変わらず、トップや声の大きい人によって決められる状態では、何の決断もないまま、流され、気づいたときには座礁したり、場合によっては沈没するかもしれません。さすがに、気づきだしたというのが現状ではないでしょうか」

 大将と経営について話し合ったのは久しぶりだった。でも、相変わらず、実績から連鎖反応を起こすように閃いていく姿には驚かされる。

(続く)


《1Point》
意見の不一致の必要性

1)組織の囚人になることを防ぐ
2)選択肢を与える
3)想像力を刺激する

 上の3つの理由について、以下のページに載っています。是非、読んでみてください。

(ドラッカー名著集1「経営者の条件」P198~204 P・ドラッカー 上
田惇生訳 ダイヤモンド社)
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