居酒屋で経営知識

50.八つの習慣

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「いらっしゃい。ジンさん、毎度」

「さすがに夜になると冷えますね」

 みやびの縄のれんをくぐると、焼き物の香ばしさと煮物・鍋物の甘みを帯びた柔らかさが店の中を漂ってくる。
 
 いつもの常連、大森さんと近藤さんは、いつものカウンター奥に並んで徳利を傾けていた。
 
 テーブル席にも、老若のサラリーマンがジョッキを片手に語り合っている。
 
 居酒屋だなあ。

「ジンさん、はい、生ビールです。え?何か言いましたあ?」

「あ、亜海ちゃん。すまん、独り言言ったかも」

「なんて言ったんですかあ?」

「居酒屋らしい風景だなあとか何とかだと思うよ。やばいなあ。歳取ったかなあ」

「でも、詩人みたいでジンさんらしいかも」

「いやいや、ジンさんって結構そんなとこあるんだぞ、亜海。気をつけた方がいい。鳶野君に高校時代のことを聞いたら、ラブレターを書かせると右に出るものはいなかったって言ってたからな」

「また。大森さん!雄二の言うことなんて信じないでくださいよ。まったく、あることないこと、どんどん話が大きくなってしまうんですから」

 カウンターの入り口側のいつもの椅子に腰を下ろした。

 肉豆腐のお通しで、生ビールを半分くらい空けた頃に噂の張本人がやってきた。

「オッス!お、肉豆腐がうまそうだな」

「いらっしゃい。鳶野さん。今、大森さんとジンさんが噂してましたよ」

「なんだって。また、褒め殺しか」

「まったく。まずは、飲んでから話す。さ、お疲れ」

 今日は、雄二からの誘いでやってきていた。特別なことがないと誘い合ってくることはないので、何かあるなとは思っていた。

「大将。今日は、雄二の誘いなんで、いい酒頼みます」

「おい。いかん。大将も、調子に乗って、前みたいに古酒だとかなんとか言って、とんでもなく高い酒を出すんだから」

「おっと、鳶野さん。残念ながら、最近は古酒は置いてないんですよ。個人的に自宅では飲んでますがね。今日は、久々に菊姫でもどうですか?」

「いいですね。純米ですかね」

「原酒はまだ入らないので、メインの山廃純米でいかがですか」

「もちろん。雄二。値段は全く心配ないぞ。大吟醸とかになると一升で数万円するものもあるけど、残念ながら」

「まったく。脅かすなよ」

 蛇の目のきき猪口を出して貰って、一升瓶から注いで貰った。いい色だ。

「あ、そうか、色が付いている奴な。前にジンに勧められて飲んだな」

「ところで、酔う前に聞いておくけど、今日は飲みたい他に何かあったか?」

「いつも通りではあるがな。最近。俺の仕事も順調には進んでいるんだ。ただ、なあ。処理に明け暮れているってのが、若干不安になってきた。お前に何度か助けて貰ったから、組織のマネジメントというところはいいと思っているんだが、どうも、社員が思うように動いてくれない」

「ある意味、会社らしくなってきたのかもしれないな。起業した時は、社長のお前も必死だったし、その思いに共感した社員を引っ張ってこれたから、俺の指導でもいい方に滑って行けたんだろう。ここからが本番で、本当の経営者にならなければいけないんだろうな」

「だから、そこがわからんのだ。小さいながら組織化も出来たし、結構権限委譲して、責任を持たせている。だけど、それが心配でもある。俺が、もっとリーダーシップを発揮して欲しいという若い社員もいるんだ。任せてしまっていいのかってのも不安だ」

 社長である雄二自身が自信を持ってやらなければいけない時期なのかもしれない。

「そういえば、前に貸したドラッカーの『経営者の条件』は読んだか?」

「もちろんだ。マネジメントもエッセンシャル版を読んだし、イノベーションとなん鱈も読んだぞ」

「じゃあ、『経営者の条件』で最初に言っているリーダーが成果をあげる習慣は覚えているか?」

「え?いや、今言えって言われてもなあ。七つの習慣だったっけか」

「それは、スティーブン・コヴィーだよ。八つの習慣さ」

「あ、それそれ。まさか、お前、それを暗誦しているのか」

「大体はな。手帳に書いてあるんだ。ちょっと、読むぞ。

(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)「私は」でなく「われわれは」を考える

の8つだな」

「ふむふむ。確かにな。でも、なかなか具体的に結びつかないというのが本音だ。これは、なんのための習慣だった?」

「ドラッカーは、多くの成功したと言われるリーダーや経営者を見てきて、いわゆるリーダータイプというのはないと言っている。ただ、成果をあげたのは、この8つのことを習慣化したというんだ。つまり、リーダーシップは学ぶことが出来る」

「学ぶことが出来るんだな。よし、じゃあ、教えろ」

「それが学ぶ姿勢じゃないって言うんだ。真摯に捉えれば、そんな態度にならんぞ」

「うーん。いや、俺が悪かった。頼む、ジン」

「俺の解釈になるけど、なるべくドラッカーの言葉に沿って説明してみるから、素直に聴けよ」

「わかった」

(続く)


《1Point》

 ドラッカーの著作の中でも、まず読むべきものとして挙がるのがこの「経営者の条件」です。
http://amzn.to/rXd8ai
 
 成果をあげるために自らをマネジメントする方法について書いたとドラッカー自身がまえがきで書いています。
 
 成果をあげるのは、才能とか適性ではないと明確に言っています。
 
 この次のコンテンツでもドラッカーを取り上げていますが、また、違った形でドラッカーの言葉を解説するつもりでいます。
 
*新・居酒屋で経営知識の目次にリンクします(メルマガ内容が
反映するのは若干時間がかかります)
http://bit.ly/ezFKNJ