居酒屋で経営知識

69.マーケティングの定義の変遷

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「いらっしゃい。毎度」

「いやー、突然暖かくなって、桜も慌てているんじゃ無いですかね」

「そうですよね。まあ、3月も中旬ですからねえ。桜より梅が大慌てでしょう。水戸の偕楽園なんか、どうしているんですかねえ」

 今日くらいなら、何も考えず、生ビールでいけるだろう。

「うまいなあ。これで枝豆が出てくると夏なんですがねえ」

「ジンさん、やめてくださいよー。これ以上、日の経つのが早くなっちまったらヨボヨボになっちまいますよ」

「大将は大丈夫ですよ。やっぱり、うまいものとうまい酒を適量で、ハードな立ち仕事ですからね。バランス良さそうですよね」

「ありがとうございます。その上、みなさんのおかげで、ストレスも無いですからねえ」

「おおー。また、ジンに先を越されたか」

 雄二がのっそりと入ってきた。

「雄二か」

「亜海。俺も生な」

「はーい。鳶野さん、用意してまーす」

「おい、ジン。由美が受けるって言うんで、俺も中小企業診断士の勉強を始めたんだが、大変だあ」

「雄二は、学校に通ってるんだろ?由美ちゃんは独学で行くって言うんだから、教えてやれよ」

「ああ・・・ちょっと自信がなくなってきた」

「へえー。雄二らしくないなあ」

「暖かくなってくるとやることが増えて、先に進まないんだ。実は今日はマーケティングの最初の授業だったんだが、気づいたら寝ちまって、こんな状態だ」

「どれどれ。マーケティングコンセプトと定義の変遷・・・後は読み取れん」

「と言うわけだ。テキストはあるが、簡単に言うと何を教えてくれていたんだろうか」

「・・・お前なあ。まあ、仕方ない。ビールは奢りだぞ」

「やむを得ん」

「生産志向→販売志向→消費者志向→社会志向ということだと、市場の変化にしたがって企業の考え方やスタンスが変化するということを言っているんだろうな。

生産志向という時代は物不足で作れば売れた時代と言えるだろう。この時代には、いかに効率的に生産活動を行うかということを追求するということだ。一種の技術重視の時代と言えるだろう。

それが、販売志向に移ったのは大量生産の仕組みができあがった頃だと言えるだろう。大量につくったモノをいかに効率的に販売するかという視点に変わってくる。販売業者を重視した時代と言えるだろう。

消費者志向とは、経済が成熟化して、消費者の嗜好が多様化してきた時代だな。つい最近までがそうだった。この時代になって、マーケティングは売れる仕組みを作る手法になって、マーケット中心になったというわけだ。

そして、今、動いているのは社会志向という流れだ。CSRやコンプライアンスの重視、社会に対する企業の責任が問われる時代になりつつあるんだ」

「ふーむ。何となくわかるかな。チャップリンが描いた生産効率性を目指した時代から、徹底した広告などでの販売強化、それが終わると、ニッチな市場を求めてきたということと考え方は同じだろう」

「そういうことだな。そして、マーケティング自体それに合わせて変わってきた。マーケティングの定義の変遷が書いてあるだろう。例えば、

アメリカマーケティング協会の1960年の定義『マーケティングとは、生産者から消費者もしくは使用者に至る商品およびサービスの流れを指揮する事業活動の遂行である』となっているだろう」

「うーん。マーケティングとは思えないベタな定義だなあ。1985年の定義は・・・なかなかマーケティングらしくなってるぞ。

『マーケテイングとは、個人目標および組織目標を満たす交換を創造するためのアイデア、商品、サービスのコンセプト、価格設定、プロモーション、流通の計画と実行のプロセスである』

ん?これは、マーケティングの4Pを文章化しただけか?」

「おお、雄二。いいところに気づいた。商品・サービス、価格、プロモーション、流通で4Pになってるな。じゃあ、最新はどうだろう。

2007年の定義:『マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである』

ほら、社会というのがキーワードに入っているだろう」

「それが社会志向に合わせたものということか。日本のマーケティング協会も書いてあるぞ。

1990年の定義だ『「マーケテイングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合活動である』

公正な競争というのが日本のオリジナルかなあ」

「よっぽど公正な競争が成立しづらいんだろうな。たぶん、定義を覚える必要は無いけど、最初のマーケティングコンセプトの変遷としては覚えておいた方がいいぞ」

「なるほど。睡眠学習の効果は無かったから、明日は復習しておくよ」

「まあ、頑張ってみてくれ」

(続く)


《1Point》
・マーケティングコンセプトの変遷

 アメリカの時代背景にしたがって変遷しています。
 
1900年~1930年位『生産志向』
→いかに効率的に生産活動を行うか。生産性の追求

1930年~1950年位『販売志向』
→技術革新による大量生産が可能になり、所得水準が上昇していった。そのため、いかに大量生産品を効率よく販売するかというテーマが中心となった。販売効率の追求

1950年~最近『消費者志向』
→経済が成熟化し、嗜好が多様化した時代。顧客のニーズの追求がメインになってくる。

最近~将来『社会志向』
→企業が社会全体に与える影響力が大きくなり、企業の社会的責任が重視される時代。社会的責任や社会貢献を実行することが必須となる。

 マーケティングの定義は、本文中にありますので割愛します。