居酒屋で経営知識

22.ロダクト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」

「なかなか残暑が終息しないですねえ」

「ジンさん、暑い中お疲れ様」

「あ、由美ちゃん、早いね。珍しいね」

「ええ。これまで取り組んできたプロジェクトが経営会議に上程されたので、ひとまず余裕が出来たの」

「それは、おめでとう。さっそく、乾杯しようか」

「ええ。ありがとう。じゃあ、かんぱーい」

 終わりに近くなってきた枝豆を味わいながら、生ビールで落ち着いてきた。

「暑さ寒さも彼岸まで、というくらいだからもう少し暑さは残るのかなあ」

「そうね。外回りのジンさんにとっては涼しい日中が待ち遠しいでしょ」

「そりゃそうさ。活動量も低いままだから、結構焦ってくるよ」

「暑い夏商売のビアガーデンなんかは、延長営業するみたいね。こちらは、うれしい悲鳴なのかなあ」

「それはあるかもね。ところで、由美ちゃんの取り組んできたプロジェクトって新規事業だったっけ?」

「ううん。組織名は新規事業プロジェクトチームだけど、今回は、PPMで言えば、問題児の拡大戦略ってとこね」

「あ、なるほど。そういえば社内分析で問題児事業が多く停滞してるって言ってたね」

「そうなの。古くからの事業は金のなる木にはなってるんですけど、花形が育ってないので、次の事業として問題児から絞り込んで集中投資しようという企画が通ったの」

「やるねえ。由美ちゃんのリーダーシップみたいだね」

「えへ。中小企業診断士の勉強が後押ししてくれてるのね。用語に負けることはなくなったって大きいわ」

「そうだね。ただし、ちょっと釘刺しておくけど、用語にとらわれてしまって、単純化しすぎないように。特に、PPMは、内部のキャッシュの配分とか、個別のシェアに偏る傾向があるから、外部環境や事業間のシナジー効果、場合によってはイノベーションによる激変を無視してしまうからね」

「それは課題としてみんなに悩んでもらったの。特に、問題児になっている本当の理由があるんじゃないかとか、実は負け犬に分類された事業にも復活の種が残ってないのかってこともテーマに取り上げたわ」

「うん。さすがだね。問題児・花形・金のなる木・負け犬という4つに切り分けてしまうから、その切り分けた条件も常に見直す必要があると思うよ。特に、成長性というのは将来性ということだから未来予測になってしまうからね」

「シェアも悩ましかったわ。単純にでるかと思ったけど、視点を変えてみると違ってくるので、どこで割り切ればいいのか、結構議論になったわ」

「きちんと議論のテーマになっているようだから、心配はいらないようだね」

「感謝してます。ジンさんの日頃の指導のおかげですからね」

「由美ちゃんの努力の成果だよ。こちらが教えられることが多いよ」

 数年前まで、由美ちゃんとこんな会話が出来るなんて思わなかったなあ。

(続く)


《1Point》
プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)
 ボストン・コンサルティング・グループが開発した手法。

 これも居酒屋シリーズで何度も取り上げたキーワードですが、今年の中小企業診断士の1次試験問題を眺めていたら、いきなり「企業経営理論」の2問目で出てきていました。

 企業内でも、事業の分類と戦略計画によく使われるようなので、取り上げてみました。

 過去のメルマガでも文章だけではわかりづらいのでホームページでマトリクスの表を画像にして貼り付けていますので是非確認してください。

http://bit.ly/15h0gdZ

 一応、文章での概要を以下に記載します。

 簡単に言うと、複数の事業や個別製品の位置づけを成長性と優位性で評価したものです。

市場成長率:「高」・「低」
相対的市場シェア:「高」・「低」

それぞれを縦軸・横軸にとって、4つの箱(マトリクス)に分類し名前がつけられてます。

・シェア(低い)×成長率(高い)=問題児
・シェア(高い)×成長率(高い)=花形
・シェア(高い)×成長率(低い)=金のなる木
・シェア(低い)×成長率(低い)=負け犬

 一般的には、問題児→花形→金のなる木→負け犬→撤退というライフサイクルで複数事業を生み出し・育てていくことが求められるのですが、もちろん簡単ではないし、場合によっては、全く逆の成果になることもあり得ます。

 一つの議論のたたき台を作る程度に利用した方がいいと思うのは私だけでしょうか。