居酒屋で経営知識
21.マーケティングの復習
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」
「8月も終わりだけど、まだまだ暑い日は多いみたいですね」」
「ホントですね。朝晩は涼しくなったとは言え、もうしばらく枝豆のシーズンも続きますね」
「はーい、ジンさん。生ビールとお通しの枝豆デース」
「おおー。最高のお通しだね。乾杯」
生ビールと枝豆を交互に口に入れて、夏の1日を味わい尽くすというところかなあ。
「枝豆好きのジンさんに一品サービスです」
「ええー。いいんですか。あ、枝豆が鮮やかですね」
「豚肉となすを揚げて、さやから出した枝豆を香味じょうゆで和えてみました」
「いいですね。生姜とニンニクがきいていてさっぱりと食べられますね。ますますビールが進みます」
しばらく枝豆と大将のサービス品でビールを飲んでいると、亜海ちゃんが興味津々という顔をしてやってきた。
「ジンさん、ジンさん。時々来ているあの2人、知ってますよね」
「え?ああ、地下鉄の駅に面した確か中堅メーカーの営業所の人たちだよね。商店街のセミナーを受講しに来たことがあったから一緒に話したことがあったんだけど、気づかなかったよ」
小上がりから身を乗り出していたので手を振ると会釈を返してきた。
「2人がね、マーケティングってどうやるんだって話してたの。ふと、前にジンさんが『マーケティングとは売れる仕組みを作る』って言ってたのを思い出して言ってみたのね。そしたら、それはどういう意味だって襲われそうになったので、ジンさん助けて」
「ははは。でも、良く覚えていたね。ほら、向こうから襲いに来たぞ」
2人が済まなそうにやってきた。
「あのー、北野先生でしたよね。前に、商店街のセミナーの後、お話しさせていただいた伊勢です。ご無沙汰しています。実は今、会社からマーケティングに力を入れろって言われてるんですが、そもそもマーケティングってどうすればいいのかって、わからないって話をしてたんです。お恥ずかしい話ですが、亜海ちゃんから北野先生に聞いてみたらって言われたんです」
「お久しぶりですよね。今、亜海ちゃんから聞いていたところですよ。亜海ちゃんがキーワードを覚えてたらしいですね」
「ええ。売れる仕組みだって言うんで、面食らっていたんです」
「お二人はマーケティングをどう考えていたんですか?」
「それは、市場調査をして、地域や顧客類型別に現状を分析して、それぞれの戦略を考えていくことになるんだろうなあって。でも、いつやっても同じような一覧表を作っているだけのような気がして、二人で悩んでたんです」
「そうですよね。もちろん、市場調査をすることは間違いじゃないんでしょうけど、マーケティングもそこだけで考えていると本来の意味でもある亜海ちゃんの言っていた売れる仕組みにはつながらないから悩んでしまうんですよね」
「北野先生。その『売れる仕組み』というのはどういうものなんでしょうか」
「そうですね。概念的に言ってしまうと顧客ニーズの変化に対応することがマーケティングの目的になると思います。つまり、そこを明確にして対応できれば、売れる仕組みが作れると言うことになります」
「顧客ニーズの変化ですか。やはり、アンケートなどから市場調査をすることになりますね。でも、どこまでやっていいのか」
「ミクロで考えると一度調査した結果を定期的にフォローしてマーケティング戦略を修正することが必要だと思います」
「マーケティング戦略ですか?」
「市場のニーズに対して、どんな製品・サービスを提供するのか、価格はどうするのか、どういった流通・経路で提供するのか、どうPRするのかという4つの戦略が有名です」
「4Pというものでしたか?確か、プロダクト、プライス、プレイス、プロモーションですよね」
「その通りです。ただ、これだけだと近視眼的になってしまいますので、本来のマーケティングのためには、会社としての理念やビジョンから考えて市場を見ていく必要があります。つまり、自社にとって強みを活かして、理念に沿ってチャンスを捉えるためには、どのような市場に、何を、どうやっていくかという事業ドメインを決める必要があります。つまり、今やっていることをどうするかだけではなく、企業の存在意義から常に世の中の変化をみていくのがマーケティングなんです」
「難しいですね。でも、何となく、なぜ悩んでいたのかはわかってきました。目の前のことだけを形式的に調べているだけだったんですね。もっと根本的な事業そのものの意味を考えていく必要がある訳ですね」
「そうですね。マーケティングの第一人者と言われているフィリップ・コトラーは、『マーケティングの一番短い定義はニーズを満足させることである』と言っています。更に、『価値を加えて』と入れるとよりよい定義になるそうです。そうすると、『マーケティングとは販売(Selling)を不要にする』ことになります。これは、ドラッカーの言葉ですが」
「売り込まなくても売れるって言うことですか」
「そうですね。それを目指すことがマーケティングになると考えていいと思います。もちろん、言うは易く行うは難し、ですが」
「難しいですが、でも、すっきりしました。直接聞いて良かったです。お邪魔してしまってすいません」
「いいんですよ。こんな話をすることが楽しみでやってますから。どうですか、一緒に飲みませんか」
「いいんですか。是非お願いします」
また、仲間が増えた。これが、居酒屋のいいところだと思うんだ。
(続く)
《1Point》
・マーケティング
実は、この居酒屋シリーズで一番回数多く取り上げたキーワードだと思います。
よく使われる言葉なのに、浅くしか取り組まれていないような気がするのです。
マーケティングとは、ある意味企業活動の大きな一面とも言えます。もう一面は、イノベーションだと思っています。
つまり、現在の事業の維持発展のための活動がマーケティングであり、新たな事業発掘がイノベーションだというのが私の解釈です。
だからこそ、言うは易く行うは難しなのですが。
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