居酒屋で経営知識
31.マネジメント基礎講座:ビジネス・スクリーン
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「へい、いらっしゃい。毎度」
「大将、また、パラパラきましたよ」
「やっぱり季節には勝てないねえ」
「じゃあ、季節をもっと感じさせてくださいよ」
「今日は、スズキとイサキが良いもの入ってますよ。スズキを焼きましょうか?」
「そりゃ、いいですね。そういえば、6月の野菜といえば、トマトですよね。トマトは入ってます」
「もちろんです。ジンさんの大好きな平取はまだですがね」
「あー、平取のトマトいいなあ。もう少し待たないといけないですね」
「ビラトリのトマトってすごいんですかあ。ビラトリってなんですかあ」
「亜海ちゃんはまだ食べたことないんだね。平取っていうのは、北海道の地名なんだけどね。二風谷というアイヌの聖地があるんだけど、ここのトマトが絶品なんだ。大将に無理言って取り寄せてもらっているんで、もう少ししたら食べられるよ」
「ははは。うちの常連さんは、あちこちからおいしいもの情報をもってきてくれるから、取り寄せメニューが増えてしまって、由美っペのピー・ピー・エムじゃあ、単純すぎて難しいですよ」
「大将、申し訳ありません。でも、おいしいものはおいしいから仕方ないですよね。そういえば、由美ちゃんもPPMが単純すぎると悩んでいたし、ビジネススクリーンでも紹介しておきましょうかね」
「うわ。また、経営用語ですね。スズキ焼いてきます。亜海、早くジンさんにビールを出して・・・」
「大将。そんな、逃げなくったって。ま、由美ちゃんに聞いておいてください」
ビジネス・スクリーンはPPMの問題点を解決するという視点で開発されました。
しかし、現実には、未だにPPMが中心のようですので、参考程度に見ていただければと思います。
特に、PPMの問題を意識するためにも役立ちます。
ビジネス・スクリーンは、ゼネラル・エレクトリック社とコンサルタントのマッキンゼー社で開発しました。
基本的な考え方は、長期的な収益性を見るために、「事業の魅力度」軸と「事業地位(事業強度)」軸で、それぞれ3段階に評価していくものです。
単純に見れば、PPMが市場成長率と相対的市場シェアだけで4象限に切り分けているのに対し、軸に選択肢を持たせ、かつ、9象限に分けることでより精密に検討することを狙ったものと言えるでしょう。
しかし、逆に、軸に何の評価を持ってくるかを検討することが重要になり、かつ、恣意的になりやすいことから比較も難しいと言われます。参考程度で見ておくことにしましょう。
全体像を投影した。
それぞれ3つのレベルに分けているので、組み合わせは3×3で9つの箱(象限)に別れます。
軸の評価については、以下のような例が一般的のようです。
事業の魅力度:(例)競争構造、市場の規模・成長性、事業の収益性、など
事業地位(事業強度):(例)管理者能力、市場における地位、相対的収益率、など
さて、それでは、これらの軸の評価の仕方はわかりますでしょうか。
元々、PPMの割り切り(評価基準)が単純すぎるという問題を解決するために、ある程度、企業で評価指標を選択し、複合的に見ていこうとしたものであると言えるでしょう。
PPMの問題点を解決したといわれますが、より主観的になり、評価軸が企業に任されるため、気軽に使うわけにはいかなくなってしまったことがそれほど普及していない原因だと思います。
図のそれぞれの象限には「1~3」の数字が振られています。
「1」:「高」×「高」または「高」×「中」の組み合わせ
「2」:「高」×「低」または「中」×「中」の組み合わせ
「3」:「低」×「低」または「低」×「中」の組み合わせ
つまり、それぞれ3つずつありますね。
考え方としては、「1」に位置づけられた事業に優先的に投資をし、「2」は見極めによる選択的投資、「3」は利益回収・撤退などの評価を行うとします。
PPMと同様に事業(製品・サービス)を評価・配置して検討することになります。
サンプルとして表に大小の円を記入した図を投影した。
円の大きさは売り上げの大きさとなります。
それでは、当社の事業をこのビジネス・スクリーンに配置して議論してください。
あらかじめ、データ表と評価基準をいくつか選べるようにしておいたので、それらをグループでディスカッションしながら作成させてみた。
「由美ちゃん、いらっしゃい」
「ジンさん、お待たせ」
「おお、由美っペ、やっと来たか。ジンさんが、ビジネス何とかを教えてくれるらしいから、よーく、勉強しろよ」
「え?はい、はい。最近、おじさん逃げ腰よね。そのくせ、私には次々に質問してくるんだから」
「なーるほど。自分の説明がちょっと難しくしてるんですね。由美ちゃんにかみ砕いてもらっているってことですかね」
「いや、ジンさん。そう言うわけでもないんだが、まあ、由美っペがジンさんからよーく教わった方がいいかなってね。まあ、まずは、スズキの塩焼きでどうぞ」
「お、うまそう。由美ちゃん、カンパーイ」
旬の魚は塩焼きが一番だ。やっぱり、日本酒に替えよう。
「それで、ジンさん。ビジネス何とかってなーに?」
「この間のPPMを改善した理論と言われているビジネス・スクリーンのことなんだ」
「前回の講義のテーマね。ちょうど良かった。テキストもらってなかったので、今日貰おうって思ってたんだ」
簡単なテキストの図を使って、概略説明した。
「なるほどね。でも、評価軸を考えるのが、大変そうね」
「そこは近道はないよね。PPMがあくまで現在の事業評価で行うのに対して、ビジネス・スクリーンは現在と将来の両面から分析できると言われているんだ。でも、そのためには、将来を見る切り口や仮説もしくは想像力が重要になってくるよね」
「経営に近道はないってことね。常に悩むことからは逃げられないのね」
「それだけは間違いないね。ドラッカーも、未来について、『第一に、未来はわからない。第二に、未来は現在とは違う』と言っている。わからないから、常に不安があるし、悩まなければいけない。その上、未来は現在と違うから、同じことをしていてはいけない、と経営者の悩みはつきないんだ」
「そうねえ。未来はわからないものね」
「ただ、ドラッカーはこうも言っているよ。未来を知る方法として2つの方法がある。一つは『既に起こったことの帰結を見る』ことで、もう一つは、『自ら未来をつくることである』ということなんだ。未来に向けてすでに起こったこと、たとえば、子供が生まれれば、その子たちは20年後に二十歳になる。その数は、先進国なら、ほとんど確からしい数値で予測できるというようなことなんだ」
「そして、自ら未来をつくるって言うのは、目標に向かって一歩ずつ進むってことね」
「そのとおり」
大将が何か言いかけて止めたのが気になるが、問い詰めるとこちらが気まずくなりそうなので止めた・・・
(続く)
→(32)マイケル・ポーターの競争戦略