居酒屋で経営知識

88.パレートの法則

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「へい、いらっしゃい。毎度」

「お、ジンさん。ちょっとご無沙汰だね」

 大森さんがいつものカウンター奥の席から声をかけてきた。

「大森さんも、忙しそうですね」

 亜海ちゃんが超特急で持ってきた生ビールを持ち上げる。

「まあ、問題山積でね。とりあえず、乾杯・・・・」

 大森さんはいつものように日本酒の枡を目の高さに上げ、軽く口をつけた。

「商店街活動が活発になったせいでしょうね。活発になれば、それだけ、課題も目に見えるようになりますから」

「そういうことなんだろうね。ただ、不平不満がたまっているようで、難渋しているんだよ」

「不平不満は、会長の大森さんが背負っていると言うことですか。そうなると、安易にアドバイスはできなくなってしまいますね。どんなことが原因なんですか?」

 お通しのオクラの酢の物をつまみながら、耳を傾けることにした。

「うちの組合には理事が30人いるんだけど、実際に手や頭を使って活動しているのは、5~6人なんだよ。他の人の大部分は、イベントなどでは手伝ってくれるけど、その準備の大半も結局中心的な5~6人に任せられてしまうんだ。それが、どうしても不平不満につながってしまう。しかし、彼らが率先してやらないと何も進まないから私も彼らに頼ってしまうという繰り返しだね」

「うーん。パレートの法則の例みたいな話ですね。やっぱり、そうなってしまうんですね」

「なんだい、そのパレットって。物流かい?」

「パレートという人の名前ですよ。一般的には、2:8の法則などと言われますが、元々は所得配分のばらつきの法則で、その後、いろいろな社会現象に当てはめられてきました」

「2:8っていうのは何が2:8なんだい?」

「例えば、商店街の理事の話で言えば、成果につながる仕事をしているのは、全体の20%くらいの理事になってますよね。このように、一部が全体に大きな影響をもっているということが社会現象や自然現象に多いということを表しているようです」

「30人の2割っていうと6人か。それじゃ、法則だから仕方がないと諦めろって言うことかな」

「まあ、現象を表現したものですから、それをどう考えるかというのは別の話だと思いますよ。

例えば、ビジネスの世界で有名な話といえば、書店ではまさに売れ筋の2割の書籍が売上の8割を稼ぎ出しているという分析がありました。だから、売れ筋を早めに見つけて大量に仕入れ、死に筋の書籍を返品するというのが、一般的にパレートの法則を当てはめた対応と言われます。

ところが、Amazon.comはそれを逆に使ったんです。

インターネットや倉庫管理や物流管理の効率化が進んでいることを見て取るとこれまで死に筋として店舗に置かれていなかったような書籍も販売するようにして大きな躍進の力となったと言われます。

これが、これまで個々には売上に貢献してこなかった商品が予想外の需要につながるなどの成果をもたらしたとしてロングテール効果などと言われます」

「うーん。今度はロングテールかい。またわからんカタカナ語が出てきた」

「そう毛嫌いしないでくださいよ。ロングテールは長いしっぽですから、これまでは販売数量が少なく種類が多い部分を表してます」

「それで、これまではトカゲのしっぽ切りみたいに切り捨てていたけど、それを我慢して逆に貢献させたということだな。と言ってもうちの悩みは8割を切るなんて元々できないから、どうやって貢献させるかという元の悩みに戻ってしまうよ」

パレートの法則は現象を表すだけですからね。あとは、負荷のかかっている業務を整理して、負荷の分散を図ることでメインで動く人を増やすことと多くの人が少しずつ分担する定型業務を増やすことでマネジメントするしかないと思います」

「そうかあ。安易は解決策はないとは思っていたけどな。でも、確かにメインのメンバーが取り組んでいる業務のうち定型業務を分散して、かつやる気のあるメインメンバーを少しずつ増やしていくというのが一番のやり方かもしれないな。よっしゃ、ジンさん。それでやってみるよ。また、具体的なアドバイスはよろしくな。報酬はみやびの生ビールだ」

「大森さん、大丈夫ですか。ジンさんのビール代は尋常じゃないですよ」

 大将が楽しそうに入ってきた。

「それで、ますますジンさんがビールを飲みやすくなれば、みやびもサッポロビールも潤うだろ。Win-Winだよ」

「大森さん、本当にその言葉に甘えてしまいますよ。亜海ちゃん、生よろしく!」

「はーい。おまちどおさまー」

「大森さんとジンさんが協働してもらうとうちが助かりますね。お二人がみやびの売上の大部分を占めているっていうのもそのパレートの法則ですかね」

「あ、大将。ちゃんと聞いてますね。その通りです。ただ、そこまで我々呑兵衛じゃあありませんが。ただ、常連さんで占める割合は多いかもしれませんね」

「ロングテールも考えて近隣のオフィスへのビラ配りもしてますよ」

「大将、お見事。降参です。ロングテール軍団に負けないように我々常連も頑張りましょう」

「うーん。みやびの大将がジンさんをうまく乗せているように見えるなあ・・・・」

 大森さんのつぶやきは的を射ているかもしれない。

(続く)


《1Point》
パレートの法則

 イタリアの経済学者V・パレートが、所得分布について発表した法則。彼は、1880~90年代のヨーロッパ諸国の統計を分析して、各個人の所得金額と所得金額以上の所得者累計との間にある関係を見いだしたもの。

 そのばらつきがおおよそ2:8になることからその部分が有名になり、ビジネスでは売上や利益が一部の社員や顧客に依存するということで、選択と集中の根拠とされたようです。

 その他、蟻や蜂の研究でも、猛烈に働く2割とそれ以外の8割という割合が観察されるなどしています。

 割合の理論では、派生したのかもしれませんが、2:6:2というのも良く使われます。

 働き蜂の観察だったと思いますが、どんな集団でも働かない2割が観察できることから、これも労働者に当てはめられたりしているようです。

 このあたりも、実際の対応には必ず反論がありますので、単純化しすぎないことが重要かもしれませんね。

(87)SFA