居酒屋で経営知識

87.SFA

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「へい、いらっしゃい。毎度」

「いらっしゃい」

「あ、由美ちゃん、久しぶり。どう、試験勉強は捗ってる?」

 中小企業診断士試験を間近に控えた由美ちゃんが、久しぶりにカウンターに座っていた。

「そうねえ。完全な苦手はなくなったところかなあ。先週末、模試を受けてきたわ」

「へえ。どうだったの」

「平均で60点ギリギリ。課目によって随分差がついたわ。でも、40点を切ったものがなかったので本番なら何とか合格ね」

「そりゃすごい。そうなってくると、そろそろ2次試験も意識しながら勉強した方が良いね」

「あ、ジンさん。ビールが来てるわ。乾杯!」

「由美ちゃんの合格に。あ、雄二もついでに」

「そんなこと言ってると来ちゃうわよ」

「大丈夫。あいつは今海外だ」

「え、早めの夏休み?」

「まあ、仕事みたいだけどな。それにしても、今日飲んでると言うことは息抜きが必要になったみたいだね」

「そうね。まず、模試で境界線は越えたみたいだけど、もう一歩やっておかないと、確実な合格は望めないから、スイッチを入れ替えようと思ってきたの」

「そういうことなら、久しぶりに付き合うよ」

「ありがとう」

 2杯目を頼んで、旬の味の濃い枝豆をつまむ。

「でも、模試を受けて気になったってところはある?」

「実は、自宅で2次対策の問題もやってみたんだけど、この間の1次試験模試にも似たような問題が出ていたの。営業部門の生産性向上がテーマだと思うんだけど、模範解答がはっきりしないの」

「へえ。営業の生産性向上ね。どんな内容だった?」

「そうね。営業が顧客を訪問しているけど、その情報が上司や経営層に伝わっていなくて、問題を起こしていいるような状況ね。ITシステムを使うことで解決を図るというのはわかるんだけど、場合によって、グループウェアを使うとか、顧客情報システムを使うとか、いろいろなのよね」

「うーん。営業の生産性向上と経営層などへの情報提供によるマーケティング支援というところかな。そうなると、この手の問題では伝家の宝刀があるよ」

「え?何何。教えて!」

「1次試験だと選択肢が出されるから一番近いと思われるものか、関係ないものを探し出すから、それが出てるかどうかによるけど、2次試験なら、まず減点にならないだろうと思うのが、『SFA』だよ」

「SFA?えーっと、何となく記憶があるわ。セールス、なんとかオートメーション・・・」

「Sales Force Automationだね。日本語では、営業支援システムなんて言われるけど、実際には様々なタイプのものがあるから、一概にこれだと言えないんだ。でも、だから、テーマが営業の情報が伝わらないと言う点なら、使えるから、まず、考えてみるといいね」

「わかったわ。ところで、実際にはどんなものなの」

「まずは、営業活動の記録機能がメインだね。例えば、顧客情報のデータベースとつながっていて、いつ・誰が・誰と・何の件で・どんなステップで会ったか、そして、その結果はどうだったかなどを簡単に記録するものが多い。最近は、携帯やスマートフォンを使って、タイムリーに簡単に記録できるようになっているようだね」

「ふーん。日報を簡単にしてるような感じね」

「でも、顧客情報や案件とつながっているから、他の人が同じ案件や同じ顧客へアプローチするときには、以前の状況がすぐわかるよね。また、注文履歴などと連携すると、その顧客や商品を分析して、マーケティングツールにもなるんだ。営業活動を見える化でき、どんな営業活動が効果的なのか、また、受注・失注の原因分析も数字化してできるという効果もある」

「へえー。そんなにいろいろな展開ができるなら、万能ツールね。うちの会社でも入れればいいのに」

「ところが、うまく活用できず、何となく日報程度にした使っていない企業も多いと言う話も良く聞くんだ。機能が多すぎる最近のシステムの問題かもしれないし、目的や活用イメージがはっきりしないまま導入しているからかもしれないね」

「そうかあ。ITツール全般に言えることね。使える機能はたくさんあるけど、使いこなしている人はほんの一部ってことね」

「そういうこと。だから、問題にしやすいのかもしれないし、回答で使い易いとも言えるね。現実の課題は解決しないけどね」

「もっと明確で、単機能のツールに集中した方が良いのかもね」

「確かに。そこが、こういうツールを導入しようとする人は、課題がよくわかっている人が多いので、いろいろな場面を想定するから、たくさんの機能を要求してしまうし、会社も投資するからには、できるだけ高機能にという色気がでてしまうんだね」

「じゃ、今日は、SFAからお酒に焦点を移して集中しようかな」

「オーケー。じゃあ、久しぶりに飲み明かそうか?」

「うん!」

(続く)


《1Point》
・SFA(sales force automation)

 営業活動を支援する情報システムを言います。

 初期の頃は営業プロセスを管理し、離職率の高かったアメリカなどでも一定の営業活動の品質を保とうというコンセプトで開発されたようです。

 今では、携帯やスマートフォンから簡単に記録・閲覧ができ、社内のグループウェアや各種データベースにつながるものが多いようです。