居酒屋で経営知識
77.サイクルタイムと総作業時間
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「へい、いらっしゃい。毎度」
「ジンさーん。助けてー」
「由美ちゃん、どうしたんだ。メールからも悲鳴が聞こえていたよ」
「ごめんなさい。生産管理に苦戦していて」
「なるほど。由美ちゃん、真面目だから、一つ一つ理解しようとして煮詰まっているんだろうね。確かに、生産管理は突き詰めて考え出すと複雑な部分に入り込んだりしてしまうんだ。言葉を覚えることを優先していったほうがいいよ。現実の工場をイメージしすぎると余計わからなくなってしまうかもしれないから」
「由美っペ。悩むのは仕方が無いけど、ジンさんにビールくらい出してもいいんだろう?」
「あ、ごめんなさい。おじさん、お願い」
テンパッている由美ちゃんも珍しい。
「具体的には、どこで悩んでるんだい」
「この間の続きなんだけど、ライン生産方式についてラインバランシングを考えて、工程を設計するってところ。複数の工程がある場合、それぞれの工程にばらつきがあると一番時間がかかる工程が全体のスピードを決めてしまうというのはよくわかるの。でも、その設計のために使うサイクルタイムと総作業時間がなぜ違ってくるの?編成効率もよくわからないの」
「なーるほど、なるほど。そこは俺もつまづいたところだよ。たぶん、由美ちゃんも同じ勘違いをしているんだと思う」
「え?ジンさんもつまづいたの?良かった。じゃあ、仕方ないわね」
「安心してもらっても困るけど。たぶん、ここだね。
サイクルタイムっていうのは、簡単に言うとラインから製品ができあがってくる間隔のことなんだ。それに対して、総作業時間とか、総組立時間というのは、一つの製品ができあがるのにかかる時間という意味なんだ。単純なラインで考えると、原材料を最初の工程に投入してから製品として完成するまでということだね」
「え?そういうことなの・・・また、わかんなくなっちゃった」
「じゃあ、こう考えてみよう。ラインは一つのベルトコンベアになっていて、一つの製品が作られるとするね。例えば、製品が、四角い箱の4ヶ所にボルトを取り付けると完成する簡単なものを考えよう。ボルト一つ取り付けるのに3分かかるとする。この作業を4人で行うと最初の一つができるのに12分かかるけど、製品としては、2つ目以降は一つ前の3分後できあがってくるというのはわかるよね」
「そうね。3分で次の人に渡せば、3分毎に1個できるわ」
「そうそう。その製品ができあがってくる間隔がサイクルタイムなんだ。ただし、2つ目も最初に材料をベルトコンベアに乗せてから12分かかってできあがることは変わらないだろ。それが総作業時間とか、総組立時間と言うんだ」
「あ、そうか。そうすると、総作業時間っていうのは製品1個作るのにかかる時間で、サイクルタイムって言うのは、できあがるスピードってことね」
「ついでに、今の例でもう一つ考えてみよう。今度は、作業員を2人にして1人が二つのボルトを取り付けるとしよう。すると、総作業時間とサイクルタイムはどうなる?」
「ええっと。総作業時間は結局4つのボルトをつけるのは12分かかるから同じね。あ、でも、2人目がボルトを2つつけてからしか、製品にならないから、サイクルタイムは6分になるのね」
「そういうこと。つまり、ラインの設計をするときには、仕事をいくつに分けてラインに流すかという検討も重要なんだ。これを工程っていうんだよ」
「今の例で言うと、一人ひとりが一つの工程ってことね。そうか。ボルトだけじゃなく、手間が違う穴空けや切断が入ってくるとそれぞれの工程でのスピードが影響を与えるからラインバランスを考えることになる訳ね」
「そういうこと。この辺は、さっき使ったような単純なモデルをイメージして考えるのが大事だよ。複雑なものを考えると全くわからなくなるからね」
「わかったわ。工程って言うから、どうしても複雑な作業の積み重ねって考えてしまっていたのね。それで、難しいって思い込んだのかもしれない」
「多くの人がつまずくみたいだから、ここで差をつけるつもりで過去問に取り組んでみるといいよ」
「ありがとう。じゃあ、今日は飲まないで勉強を続けるわね。だんだん、試験日が気になってきてしまって」
「うん。その気持ちがあれば大丈夫」
由美ちゃんは言葉通り、大将の作った特別弁当を抱えて自宅へ向かった。
「ジンさん、何か申し訳ないねえ。由美っペの勝手に付き合っていただいて。自分だけ先帰ってしまうなんてねえ」
「大将。それは、そういう約束をしたんですから。今はまず、由美ちゃんが合格することが第一です。自分は、いつも通り飲んで帰るだけですよ」
「そう言ってもらえると気が休まりますが。早く終わって欲しいもんです」
(続く)
《1Point》
・サイクルタイムと総作業時間
結構細かい点ですがつまずく人が多いようです。
サイクルタイム=製品がラインから作り出されていく時間間隔
総作業時間=1単位の製品を作るのに要する時間
計画時の計算では、サイクルタイムは1日の稼働予定時間を1日の生産計画量で割って計算します。
また、この計画のサイクルタイムと総作業時間を使って最小作業工程数を計算して、ラインの設計をするときに使います。
最小作業工程数=総作業時間÷サイクルタイム
今回のような単純な例では当たり前ですが、複雑なライン構成では、目標工程数ということで使われますので、用語と式を単純な例で覚えておいてください。
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