居酒屋で経営知識

76. 生産形態の種類

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「へい、いらっしゃい。毎度」

「やっぱり、連休中日でどこも空いてますね」

「まあ、うちの常連さんは連休でも関係ない人が多いので助かってますよ」

「そうかあ。もし休みだったらって思ったんですが、確かにカレンダー通りの人も多いですからね」

「ジンさんの会社はずっと休みですか?うらやましいですねえ」

「ものづくりの工場とか、工事現場は連休を大事にしますからね。連休に離れている自宅や実家へ帰省するというのは、まだまだ古き良き伝統じゃないでしょうかね」

「そういえば、ジンさんも連休には帰省してましたよね」

「ええ、明日は帰省して、田植えを手伝う予定ですよ」

「そりゃあ、いいことですねえ。そうだそうだ。これ、カツオの角煮なんですが、持っていってください。2・3日は保ちますから」

「ええ!こんなにもらっていいんですか?」

「さすがに明日からうちも休みになるんでね。一気に作ったんですが多すぎて、はけないんですよ」

「じゃあ、遠慮無く。ありがとうございます」

「いらっしゃい。お、由美っペかい。ジンさん、来てるよ」

「ジンさん、お久しぶりですって、花見以来かなあ」

「どう、勉強は進んでる?」

「うん、そうねえ。ジンさんの言うように、まずは、得意なところから始めたので、マーケティングとか財務会計、中小企業政策なんかは一通りやってみたわ。でも、そろそろ他の課目に取り組む時期なので、一息入れて、GWの後半から本格化するつもり」

「さすが。計画通りだね。これからはちょっときつい時期かもね」

「そうね。さっきまで運営管理の生産関係をざっと見ていたんだけど、馴染みがないのでなかなか入ってこないの」

「良く言われるね。運営管理は、商業系の内容と工業系の内容が残っているからね」

「そうみたいね。コンビニとか、服飾系の販売店なんかの問題もあるみたいなので、これは分かりやすいんだけど、工場管理になると想像もつかないものね」

「だから、ポイントは割と絞られていると考えられるかもしれないよ。たぶん、イメージできないのと馴染みのない言葉に面食らってしまうんだろうけど、問われているのは割と簡単なんだ」

「じゃあ、ビール一杯目は勉強会をお願いします」

「オッケー。じゃあ、乾杯」

 由美ちゃんからは、みやびで会った時にはビール一杯程度の時間でポイントを説明するという約束をしたんだ。彼女なりに気を遣っているようだ。

「生産関係だったよね。どの辺にしようか」

「最初の頃の、そうねえ、生産形態をお願いしたいわ」

「この辺だね。個別・ロット・連続、か。懐かしいな。この辺は基礎の基礎だから、絶対抑えておいた方がいいね。まずは、注文と生産の時期の関係、生産する数量規模と種類の数、そして仕事の流し方の関係は良く出るかもしれない」

「ええっと。注文の時期っていうのは、見込み生産と受注生産ね。これはわかりそう。事前に販売数量を見込んで作っておくというのと、受注してから作るってことね。見込み生産の例って言うと、普段コンビニやスーパーに並んでいるものはみんなそうよね」

「そうだね。見込み生産は、大量につくるものが多くて、買う方も、すぐに欲しいものなので、販売数量を予測し、販売店や営業部門との連携が重要だね。受注生産だとどんなものが考えられる?」

「注文を受けてからつくるものね。高価なものかな。あれ?車はどっちかな。家なんかは受注生産よね」

「車は一般的には見込み生産だけど、人気車なんかは、見込み生産が追いつかずに時期的に受注生産になることもあるよね。住宅でも、建て売り住宅は見込みと考えられるし、ユニットとか、部材は標準化していて、それらは見込みで作っておいて、最終の設計に応じてすぐ出せるようにするなど、やはり、受注生産と見込み生産を組み合わせているよね」

「そうかあ。単純じゃあないのね」

「まあ、試験ではある程度割り切って考えた方がいいかもね。一般的に受注生産は、多品種少量生産や中品種中量生産のものを個別生産、もしくはロット生産によって流すと言われている。受注→設計→手配→調達・生産→検査→納品・輸送が典型的な流れだ。

それに対して、見込み生産は、少品種多量生産や中品種中量生産を連続生産やロット生産で対応する。流れとしては、設計(デザイン)→手配→調達・生産→検査→受注→納品・輸送となって、つまり、受注の位置で分類しているということだね」

「言葉通りに理解すればいいのね。それ以外に内容として受注生産と見込み生産の違いを簡単に言うとどうなるかしら」

「課題で考えてみると良いかもしれないね。受注生産は、受注してから設計や生産を行うから、注文者にとって一番気になるのは納期だよね。生産者側にとっては、受注量と生産能力のバランスが、常に気になるところだ。

それに対して見込み生産では、予測誤差が気になるだろう。過剰在庫は経営を圧迫するし、品切れは機会損失と言うことになる」

「どちらも簡単じゃないわね。確かにものづくりはすぐにコストアップや機会損失に繋がるし、対応が悪ければあっという間に顧客を失うことにもなりかねないということね。でも、受注生産は先が読めないからより大変かもね」

「ジンさん、由美っペ。うちなんかどうなんだろうね。仕入れは見込みだけど、結局は受注からスタートだよな」

「大衆車や建て売り住宅に近いかもしれませんね。調達までは、需要予測をし、また、マーケティングで販売促進をしておいて、最後の部分は注文生産で仕様確定し、早期に製品提供をするって言うところでしょうね」

「なるほど。そう考えれば、大型チェーン居酒屋なんかは、半製品を自社工場などで見込み生産して、過剰在庫になりそうなら本日のサービスとか称して在庫処分をするという経営をしていると言えるのかもしれないなあ。うちは過剰在庫は常連さんへのサービスとしているけど」

「あ、今日は過剰在庫のサービスありがとうございました」

「うーん。ジンさん、自分で言い出したことだけど、前言撤回しますよ。常連さんへの感謝をしたくて、追加生産した分ですよ」

「あ、調子に乗りすぎました。大将スイマセン・・・せっかくのカツオの角煮を」

「あ、おじさん。私にも在庫処分をくださいね」

「だから、由美っペまで。人聞きが悪いって」

「じゃあ、注文しまーす。カツオの刺身と旬の空豆ね」

「おお。そう来なくっちゃ。見込みがバッチし予測通り。毎度あり!」

 飲み会突入。ゴールデンウィークを楽しもう。

 
(続く)


《1Point》
・個別生産と連続生産の特徴

 ここでは、個別生産と連続生産の特徴を比較してみます。
 
 (1)仕様:一般的に個別生産では製品の仕様を顧客が決定し、連続生産では生産者が決定します。
 
 (2)数量:個別生産では顧客からの注文量に基づいて生産しますが、連続生産では、予測した需要量に基づいて生産を行うため、個別は少量、連続では多量が対象となります。
 
 (3)設備:個別生産では注文ごとに異なる仕様の製品を生産することが多いため、どのような仕様の品種でも生産できるような汎用性の高い設備を設置しますが、連続生産では効率的な生産のため専用機械設備を設置することが多いようです。
 
 (4)計画:個別生産では、受注後の計画に重点が置かれますが、連続生産では、事前の工程計画がより重要になります。
 
 (5)在庫:個別生産では受注後生産するため、製品在庫は持ちませんが、受注から納入までの期聞を短縮するため仕掛在庫を持つことがあります。連続生産では、生産水準をできる限り一定にし、かつ需要変動に即応するために製品在庫を持つことになります。(これを効率化したのがカンバン方式ということになります)
 
 (6)保全方式:個別生産では工程の一部が稼働しなくても全工程に影響を与えることが少ないため、故障が起こった後に修理をする事後保全に重点が置かれます。連続生産では、一部工程の不稼働が全工程をストップさせてしまうため、予防保全が重要です。