居酒屋で経営知識

20.BCP再考

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「あ、ジンさん、いらっしゃい。お疲れ様でした」

「大将、ご無沙汰してしまいました」

「いえいえ、ジンさんの会社も今回の震災で大変だって聞いてま
したから」

「幸い会社としての直接の被害は無かったんですが、取引先が大
変な状況だったのでその対応でバタバタしてますね」

「ジンさん、大丈夫だったんですね。みんなで心配していたんで
すよ」

「亜海ちゃん、ありがとう。みんなのことは雄二から無事だって
連絡を受けていたんで安心はしていたんだけどね」

「まあまあ、まずはいつもの席にどうぞ。何はともあれ、落ち着
きましょう」

 震災の影響も東京では落ち着いてきている。
 ただし、連日のニュース報道で世の中が精神的に落ち込んでい
るというような気がしている。

「花見やお祭りまで中止が続いていますからね。もちろん、被災
した人たちのことを考えると、そんなコトしているなら、支援金
を送るなり、ボランティアに行くなりすべきだという意見に反論
はできないですがね」

「ある程度はやむを得ないですが、日本全国が精神的に停滞して
しまうことが恐ろしいです。まずは、被災していない人々がしっ
かりと仕事をして、基盤を作り直さなければ、支援さえできなく
なってしまいます」

「うちも今は東北地方の酒蔵の酒を中心にしてます。うちができ
ることと考えたら、そのくらいしか無いんです」

 会津の酒「天明」がカウンターに載っていた。
 
「天明行きますか」

「もちろんです」

「近藤さん、いらっしゃい」

 建設会社に勤める常連の近藤さんがやってきた。
 
「お、ジンさん、やっと出てくるようになったんだね」

「近藤さんも大変でしょう」

「まあ、私は直接現場へ行くわけにもいきませんので、連絡役に
徹してますよ」

 天明を冷やで飲み出した。

「ところでジンさん。2年くらい前でしたか、BCPの策定を手
伝ってもらいましたよね」

 2本目の徳利にかかる頃、近藤さんが思い出したように言い出
した。

「そうでしたね。あの頃は、新型インフルエンザの脅威から地震
などの天災も含めたBCPを作るのがはやりましたね」

「うちは、それのおかげで随分助かったと思っているんですよ。
特に、資材などの分散と緊急時の優先的な手配契約が残っていた
んで東北地方への救援も早い時期に開始できたそうです」

「さすが大義建設さんですね。トップがしっかりしていると違い
ますね。今回、実は、BCPで策定した情報管理や業務再開のス
テップが全然ダメだったという意見が多いんです」

「一つ、はっきり失敗したのは社員の安否確認システムだったら
しいです。私は気づかなかったんですが、東北地方や東京でも安
否確認が全くできず、結局、公衆電話などを使って関西支社へ第
一報が入ったらしいです」

「それも大騒ぎになってますね。メジャーな安否確認システムは、
携帯や自宅の固定電話、メールを中心にしていたので、災害の中
心だった東北地方だけじゃなく、本社が多い東京でも電話が使え
ず、登録も確認もできなかったらしいです」

 想定外と盛んに言われてはいるが、想定内であったはずの地域
でも対応できなかったところは無かったのだろうか。

「今更と言わずに、自社のBCPを見直すなら今ですね。地震は
これで無くなったわけではないですから、目の前にある実績をも
とに新たなBCPを作る必要があると思います」

(続く)


《1Point》
 確かに2年前、新型インフルエンザを契機に各社ともBCP対
策を練ったはずです。
 
 起こってしまったとはいえ、落ち着いてきた企業は再度見直す
べきだと思います。
 
 私もビジネスリスク研究会という診断士の研究会に所属してお
り、2年前にセミナーやマニュアル作り、WEB講座などを行っ
てきました。
 
 せっかくですので、この機会に再度見直してみたいと思います。
 
「事業継続」をテーマとして私が書いたBCP講座は以下のリン
クに残っています。前半はパンデミック対策で後半は地震災害と
なっています。
http://sme.fujitsu.com/tips/enterprise/