居酒屋で経営知識
12.組織形態
【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
(前回まで:組織論の成立と基本原則を見てみました。実際の組織形態にはどのようなものがあるでしょう)
冬将軍という言葉があるが、この冬は正にその冬将軍がやってきたという実感がある。
東京では乾燥した寒さが続いている。
「いやー、寒い」
「いらっしゃい。ジンさん、ストーブ出しておいたから、まずは暖まってくださいよ」
「おおー。やっぱり、このあったかさがいいなあ」
「ジンさんもそう思うだろう。最近は、エアコンで暖房する店が増えたから、こんなホッとするあったかさが無くなったよね」
「そういえばそうですね。手をかざしてあっためたり、お尻を向けて背中から全身をあっためるともう一丁がんばるかって思ったもんですね」
みやびでは、寒くなると入り口横のスペースにダルマストーブを出している。ちょうど、俺の定位置でもあるカウンターの近くだ。
「最近、何でも電気電気だけど、炎の暖かさを忘れちゃいけないような気がするな」
亜海ちゃんが出勤してきた。
「みなさん、いらっしゃいませー。あったかーい。へえー、こんなストーブ初めて見ました」
「そうかあ。亜海ちゃんの年になるとこんなダルマストーブは知らないんだ」
「ダルマストーブっていうんですかあ。でも、あったかーい」
「最近は、灯油ストーブやガスストーブでも、ファンヒーターになっていて、炎の暖かさじゃないですからね。たぶん、停電するとストーブもつかないんじゃないかな」
「あっ、そうか。確かにうちの石油ストーブもコンセントにつながないとつかないなあ。昔のようなストーブにした方がいざというときには良いかもしれないなあ」
大森さんが驚いたようにつぶやいた。そうなんだ。停電でも使える暖房機器自体が少なくなっている。
「ストーブの上で餅を焼いたり、するめをあぶったりしなくなったもんな。それこそ、常にヤカンをのせてお湯を作っていたから加湿器もいらなかったんじゃないか?」
昔話に花が咲き出す。
「いらっしゃい。鳶野さん、まずは暖まってください」
雄二がやってきた。
「おおー。今年もストーブが出たか。寒い外から帰ったときは、このあったかさがいいなあ」
「ははは。みんな同じ感想だ」
雄二もカウンターに落ち着いて飲み出した。さすがに、燗酒で始めた。
「昨日はいけなかったけど、研修はどうだった?確か、組織論に入っているんだよな」
「教科書的な内容にして、グループディスカッションでは、現在の組織をどうしたら効率的にできるか、その時の問題点は何かについて話し合ってもらった。組織をどうするかは、考え出すと問題だらけだから、白熱したよ」
「そうだろうな。元々、原島さんの会社は、親会社べったりで、出向者や天下りの終着駅みたいだったからな。原島さんも、社内が変化してきたって喜んでいたよ」
「どんな組織にも、やる気のあるものはいるんだ。ただ、それを引き出してやるのが難しい。往々にして、組織の壁がその障害になったりするんだな。少なくとも、トップが組織の壁を乗り越えるほどの方向性を示しておかないと内向きの職場になってしまう」
「それは、よくわかる。俺も昔は官僚的な組織に所属していたからな。ただ、ミッションがはっきりしていたから動いていた」
「ミッションの重要性は、一度、徹底的に取り上げようと思っているんだ。その時は、雄二の出番だぞ」
「了解。腹減ったぞ。鍋いこうや」
前回は、組織の基本原理までお話ししました。
ディスカッションでは、既に、現在の自分たちの組織について議論が白熱していましたが、今日は、教科書的な組織形態について学んでみます。
その後、再度、自分たちの組織のメリットとデメリット、よりよくするには、どの形態がふさわしいのか、を考えてみたいと思います。
そういう頭で聞いてください。
それでは、組織にはどんなものがあるでしょうか。代表的なものを見てみましょう。
1)職能的組織(ファンクショナル組織)
テイラーの科学的管理法に沿ってつくられた組織形態と言われています。
専門的な職長の下に作業者を配置し、専門的な機能グループで形成されています。
【長所】
・専門的な機能が強化されていくため、専門分野での強みを発揮できる
・専門家を短期で育成可能。また、専門の監督者の育成も早い
・部門間での機能の重複がないので経営効率が高いと言われる
【短所】
・業務遂行上、他の専門機能の監督者からも指示命令を受けることになり担当者は混乱する
・全体最適より部分最適となる
・マネージャーが育ちにくい
・最終的な意思決定がトップ・マネジメントに委ねられてしまい時間がかかる
2)ライン組織
ライン組織はいわゆるピラミッド型の組織を言います。典型的な例として、官僚制組織が挙げられますね。
社長の命令が担当者まで一筆書きで到達するという組織になります。
【長所】
・命令系統が明確で重複しない
・責任や権限が組織表上でも分かりやすく、統一性が維持しやすい
【短所】
・専門的な職能が育ちにくい
・組織が大きくなるとトップの負担が過大になる
・横との連携が悪くなりセクショナリズムが生じる
3)ライン・アンド・スタッフ組織
組織が複雑化し、顧客のニーズが多様化する中、ライン組織だけで対応するのは現実的に困難となってきました。
つまり、将来へ向けて開発をする研究所や増大する組織内での課題解決、間接的な業務に対しては、専門的な機能が必要とされ、それをスタッフ組織として組み合わせたライン・アンド・スタッフ組織が生まれました。
現在の多くの企業が採用する形態の基礎になっていると言われています。
【長所】
・市場ニーズに直接対応するライン組織で命令の一元化を図り、迅速な対応に専念できる
・同様に、スタッフ組織では、将来への技術開発や法的対応、人事・経理など専門化した人材を育成し、業務を行うことができる
【短所】
・ライン組織とスタッフ組織のバランスが崩れると組織の効率化が大きく損なわれる
・スタッフが専門化しすぎると市場ニーズと離れ、間接費の増大に繋がる
4)事業部制組織
これまでの組織(職能的、ライン、ライン・アンド・スタッフ)は、トップマネジメントに集権化される形態です。それに対し、事業部制組織は「分権型」組織の典型です。
日本では、主に製品別(技術別)や地域別に事業部を組織し、それぞれの事業部長が利益責任を持つ形で大企業を中心に採用されてきました。最近はより独立会社的にしたカンパニー制をとる企業も多いようです。
【長所】
・市場ニーズへの迅速な対応が可能となる
・事業部長へ分権化することでトップマネジメントが全体の経営に専念できる
・事業部間の競争により活性化する
・トップマネジメント人材を事業部で育成することが可能になる
【短所】
・機能の重複が発生する(事業部毎に同じような組織が必要となる)
・事業部間でのセクショナリズムが強くなる
5)マトリクス型組織
職能別組織や事業部制組織と目的別(プロジェクト)組織を組み合わせ、より柔軟にそれぞれの長所を組み合わせた組織です。
ただし、現実には採用され、かつ成果を挙げた例は少ないようです。
【長所】
・専門性を維持しながら、横断的なプロジェクトを遂行することが出来る
・プロジェクトの中で人材の交流やセクショナリズムの解消につながる
【短所】
・ツーボスによる命令の混乱
・調整に時間がかかる
以上、特に代表的な組織形態を見てきましたが、決定的な組織形態というものは現れていないというのが現実です。
いつも通り、グループディスカッションに入った。
ちゃんこ鍋をつつきながら、雄二が大きく頷いた。
「これから、あの会社が活性化するにはどんな形態がいいんだろうな」
「正直言って、形態にこだわりすぎると逆効果かもしれない。今は、まず、自分たちの事業は何なのか、ミッションとビジョンを明確にする段階だと思う。そういう意味で言うと、社員の意識は変わってきたんだから、トップである原島さんの出番だ」
「なるほど。やっと、本当のマネジメント教育になるわけだ」
それが、本意であることは、雄二が一番わかっていたようだ。
(続く)
《1Point》
・組織形態
本文の中で整理していますので、改めて書き出しません。
重要なのは、組織というのは人事と同様、トップもしくはその組織のマネジメントの意志をあらわすのと同じだと言うことです。
何をしようとしているのか、誰に、どのような権限を与えているのか、が明確な組織である必要があります。
その形から一人ひとりの責任が明確になれば、人は動きます。
少なくとも、動かなければいけないことに気づきます。
つまり、やることが変われば、組織は変わります。組織に引きずられるのではなく、組織を利用して、成果を上げることが目的なのです。
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