(13)ネクスト・ソサエティ

(13)ネクスト・ソサエティ

冒頭の「日本の読者へ」において、経済よりも社会の問題の方が大きいと言っている。
社会的な制度・雇用の問題や教育制度に警鐘を鳴らしているように読めるが、この時は2002年だった。それから、何かが根本的に変わっているだろうか?

第1部:迫り来るネクスト・ソサエティ
 第1章:ネクスト・ソサエティの姿
 第2章:社会を変える少子高齢化
 第3章:雇用の変貌
 第4章:製造業のジレンマ
 第5章:企業のかたちが変わる
 第6章:トップマネジメントが変わる
 第7章:ネクスト・ソサエティに備えて
第2部:IT社会のゆくえ
 第1章:IT革命の先に何があるか?
 第2章:爆発するインターネットの世界
 第3章:コンピュータ・リテラシーから情報リテラシーへ
 第4章:eコマースは企業活動をどう変えるか?
 第5章:ニューエコノミー、いまだ到来せず
 第6章:明日のトップが果たすべき五つの課題
第3部:ビジネス・チャンス
 第1章:起業家とイノベーション
 第2章:人こそビジネスの源泉
 第3章:金融サービス業の危機とチャンス
 第4章:資本主義を越えて
第4部:社会か、経済か
 第1章:社会の一体性をいかにして回復するか
 第2章:対峙するグローバル経済と国家
 第3章:大事なのは社会だ-日本の先送り戦略の意図
 第4章:NPOが都市コミュニティをもたらす
ドラッカーの言葉該当ページと独り言
ところが、いまから20年後あるいは25年後には、組織のために働く者の半数は、フルタイムどころかいかなる雇用関係にもない人たちとなる。特に、高年者がそうなる。したがって、雇用関係にない人たちをいかにマネジメントするかが、企業だけでなくあらゆる種類の組織にとって中心的な課題の一つとなる。P4
雇用問題は現代の一番の問題になっているように思える。流動的でもあり、固定的でもある。未だ、終身雇用に代わる制度は生み出されていないように思う。
ところが、今日の知識労働の仕事はフェミニズムとは関係なく、男女いずれでも行いうるがゆえに中性である。P22
確かに、社会的に活躍し、成功している女性が目立っている。それにもかかわらず、未だに、日本の主要企業は男社会であることが多い。
コンピュータ、製造、教育のテクノロジストも、今後2、30年の間に、さらに増加するはずである。・・・(中略)・・・やがてこれら多様なテクノロジストが、あらゆる先進国において最大の層となり、50年代、60年代の組織化された工場労働者の地位を占めることになる。P24
この後、ドラッカーはこれらの状況に対して、教育の重要性を説いている。特に、テクノロジストとなった後の継続教育が不可欠であるという。教育のイノベーション自体が遅れている。
いまや、知識労働者が、資金の提供者と同じように資本を提供している。両者は完全な相互依存関係にある。こうして知識労働者が企業にとっての同僚、パートナーとして同格になった。P40
人を資本と考えるためにも、人的な強みを知的資本として財務諸表に載せることも試行すべきだ。
情報をもつ者が力をもつ。こうして、いまや最終消費者であろうと企業であろうと、買い手に主導権が移行した。要するに、供給者たるメーカーは、売り手であることをやめ、消費者のための買い手にならなければならなくなったということである。これはすでに起こっていることである。P43
正に今の状況は、バイイングパワーがすさまじく、それを後押しするのは、インターネットでの個人の口コミ的な情報にあると思う。
知識労働者にとって重要なことは、第一に組織が何をしようとしており、どこへ行こうとしているかを知ることである。
第二に、責任を与えられ、かつ自己実現することである。もっとも適したところに配置されることである。
第三に、継続学習の機会をもつことである。
そして、何よりも敬意を払われることである。彼ら自身よりも、むしろ彼らの専門分野が敬意を払われることである。
P48
この重要なポイントにしっかりと対応した企業が今日の成功している企業だと感じる。
しかしわれわれは、組織のマネジメントをスーパーマンの出現に頼むわけにはいかない。かかる人材はあまりに少なく、いつ現れるかもわからない。組織に必要とされるものは、真摯に仕事をする有能なトップマネジメントであって、超人ではない。今日何人かのスーパーマン的なトップがいるということ自体が、トップマネジメントの危機を表している。P56
トップに求められるのは、真摯さである。
会社としてのこの確立である。ネクスト・ソサエティにおけるトップマネジメントの最大の仕事が、組織としての個の確立である。P58
それぞれの会社が人まねでない、自らの個を確立するというのは、個人においては自我の確立というのと同じ感覚でいいのだろうか。
これらのことは、eコマースのインパクトについてもう一つ重要なことを教える。
流通チャネルは、顧客が誰かを変える。顧客がどのように買うかだけでなく、何を買うかを変える。消費者行動を変え、産業構造を変える。ひとことで言えば、経済全体を変える。これがいまアメリカで起こりつつあり、他の先進国でも起こりはじめていることである。また、中国その他の新興国でも起こっていることである。
P82
これが書かれたのは1999年となっている。
そして、Amazonが変え、Googleが変え、Appleが変えている。
だが、実りには時間を要する。今日のような短期的な株主利益を目的とし目標とする経営では10年ももたない。P90
実りは知識労働者によってもたらされる。いつまでも年度決算によって企業を評価し、また、自らの目標を修正する基礎とする企業経営をしていてはいけないのだが、現実はあまりに短絡的だ。
CEOは、道具としてのコンピュータの使い道を決めるのは自分だということを知らなければならない。与えられた情報責任を果たさなければならない。「CEOとしてどのような情報をもたなければならないか。誰から手に入れなければならないか。どのような形で手に入れなければならないか。それはいつか」、さらには「どのような情報jを与えなければならないか。誰に与えなければならないか。どのような形でか。そしてそれはいつか」を問い続けなければならない。P107
ITについては、IT責任者に任せればいいと考えているCEOが多いという内容だ。CIOは道具をつくる者であって、使うのはCEOだと強くいっている。まさしく。
グローバル経済が事業だという人がいたら、そのような事業は成立しないとみてよい。できるはずがない。グローバル経済については情報がない。P110
グローバルを自社のミッションに入れる企業は多い。それが何を意味するのかを明確にしているとは思えない。
世界市場を相手に事業をしているという人の会社の株は手放したほうがよい。知らないことについて事業はできない。われわれは世界中のことをすべて知ることはできない。知りうることを知るのみである。P111
同様に世界市場という市場は無い。中国市場とかなら考えられるが。歴史も文化も法律も価値観も経済力も違う国や地域をまとめて世界市場ということは不可能だ。マーケティングなどできない。
いかなる事業であっても焦点を絞らなければならない。多角化が成功するのも情報があるときだけである。P111
その市場についてよく知っているから進出するというのが当たり前の感覚だと思うが、自分の力を過信するのか。それは無謀という言葉の事例だ。
あらゆる企業、組織が会計システムに基づいて意思決定を行っている。それがいかようにも操作できる代物であることを承知しつつ、そうしている。P115
初歩的な会計テキストを学んだだけでも、損益計算書は操作できることを理解できる。
それなのに、経営者はそこから得られる数字で評価し、意思決定しようとする。求める評価に合わせて数字を操作できるにもかかわらずだ。
つまり、経営者を操作することすら可能だと言うことではないか。
時代の変化とともに、われわれ自身が変化しなければならない。読み書きとかけ算に毛の生えた程度の最低限のコンピュータ・リテラシーから、情報を使ってものごとをなしとげるという情報リテラシーの域に達しなければならない。それは面白く価値のある挑戦である。
われわれはそのような時代の流れのなかにいる。その流れは速い。
P119
流れが速ければ、対応によって大きな差が出てくる。それも競争となる。
沈没の危機にあっては、会議ではなく命令が必要である。理由は簡単である。「もたもたするな。こうしろ」と誰かが言わなければならない。意思決定を行うべき者がいなければ、意思決定は行われない。P138
大企業病の簡単な指標は、会議の数と時間だと言う。そして、自ら大企業病だと言いながら、問題が起こるたびに会議を増やしている。
したがって、考えるべきはトップマネジメントの消滅や弱体化ではなく、意志決定者たるトップマネジメントの役割についてである。P138
役割を考えることだ。
ここにおいて、決して犯してはならないまちがいが問題を避けることである。現実には問題を避けつつ、利益の呪文を唱えるだけのCEOが少なくない。もうそれではすまない。CEOたる者は、毎日の株価が新種の株主にとっての利益ではないことを知らなければならない。P140
バランスを取ることがCEOの仕事である。
第二に、外の世界で起こることを理解しなければならない。ところが、情報が入っていない。せいぜいが実例集である。外の世界の情報の定量化は始まったばかりである。いまのところ、それができたという話は眉つばものばかりである。P143
実例集すら真剣に検討しているのか・・・
【明日のトップが果たすべき5つの課題】
(1)15年後には、コーポレート・ガバナンス(企業統治)が今日とは大きく違うものになる。
(2)外の世界で起こることを理解しなければならない。
(3)明日のCEOたるものは、いつ命令し、いつパートナーとなるかを知らなければならない。
(4)CEOが真剣に取り組まなければならない課題が、知識労働の生産性の向上である。
(5)CEOたる者は、みながともに生産的に働けるようにすることを考えなければならない。
P138~147抜粋
体系としてのイノベーションで重要なことは何か?
-事業、人口、価値観、科学技術の世界で、すでに起こった変化を体系的な作業によって見つけることである。それらの変化をチャンスとして捉えることである。そのために、昨日に属するものを廃棄することである。
P153
インタビューに答えたもの
日本企業や韓国企業は体系的に捉えていると言っている。
第一のわなは、想定していなかったところで成功したときに生ずる。多くの起業家が、市場よりも自分を信じたために消えていっている。P154
予期せぬ成功は機会であるが、それを捉えないことは危機へ導く。
彼らは利益が第一だと考える。利益は第二である。キャッシュフローが第一である。P155
何度も出ているが利益は虚構に近い。
イノベーションとは、市場に追いつくために自分の製品やサービスを自分で変えていくことである。P161
発明でもなんでもない。変えていくこと。
起業家精神を発揮している大企業とはどういう企業か?
-よりよく行うこと、つまり日本語のカイゼンに秀でた企業がある。次に、すでに行っていることを展開していくことに秀でた企業がある。そしてイノベーションに秀でた企業がある。大企業の場合は、この三つのこと、つまりカイゼン、展開、イノベーションのすべてを同時に行っていかなければならない。
P162
大企業であることからも、バランスをとって、かつ、すべてを行うことが必要だ。そのための組織は別に作る必要がある。
労働人口の四割をしめるにいたった知識労働者は、上司はいたとしてもその部下ではない。同僚である。自らの専門とする分野では、何を行うべきかを言う立場にある。P174
自分の部下を強みにおいてはリーダーとして扱うこと。それは、ラグビー型の基本。
引き継いだものを最高のものに変えなければならない。そこで優れた指揮者は、各演奏者、各パートとの接触を深める。雇用関係は与件であって、メンバーは変えられない。したがって、成果を上げるのは指揮者の対人能力である。P180
オーケストラの立て直しを頼まれた指揮者の例。
したがって、今日われわれに課された課題は、都市社会にかつて一度も存在したことのない任意のものでなければならない。それでいながら、都市社会に住む一人ひとりの人間に対し、自己実現し、貢献し、意味ある存在となりうる機会を与えるものでなければならない。P271
地域コミュニティの役割が重要となるが、一部の中心人物だけのコミュニティとなってしまうことが多い。コミュニティというものの見直しが必要。
知識社会においては、企業は生計の資を得る場所ではあっても、生活と人生を築く場所ではあり得ないからである。P272
多くのサラリーマンが、仕事場中心となっている。外の世界へ積極的に関わろうとする人はまだ少ない。
ここにおいて、社会セクター、すなわち非政府であり非営利でもあるNPOだけが、今日必要とされている市民にとってのコミュニティ、特に先進社会の中核となりつつある高度の教育を受けた知識労働者にとってのコミュニティを創造することができる。P273
日本のNPOは、方向性が違ってきてしまっているかもしれない。
もっと、自由なNPOができていかなければいけない。