居酒屋で経営知識

122.ダイバーシティ・マネジメント

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

 CSRの話が収まったあと、しばらくいつもの飲み会が続いた。

「みやびの看板娘がこうしてスーツ姿で座ってるなんて世の中変わるもんだよなあ」

 おかしいくらいまじめに雄二がつぶやいた。

「なあに、鳶野さん。誉めてるの、けなしてるの」

「ばっかだなあ。どっちでもないだろ。変化することに時の流れを感じているんだ。哲学的だろ」

 突然、由美ちゃんが閃いた顔をした。質問が来るなあと身構える。

「そうそう。ジンさん。今度の社内研修のテーマが、ダイバーシティ・マネジメントっていうみたいなの。ダイバーシティって言えば、多様性ってことなんだろうけど、何か事前情報はないかしら?」

「へえー。ダイバーシティ・マネジメントか。そうだね。多様性で間違いないけど、元々は、アメリカでの黒人や女性などの弱者救済という考え方から始まったものだと言われている。その後、マイノリティと言われる人たち全般の人権擁護の問題も含まれていったんだ」

「え?人権問題が中心の考え方なの?」

「いや、そこから社内に集まってきた多様な人たち、つまり、人種や性別、年齢、障害などの外見だけでなく、価値観や生き方、もちろん宗教などの内面の違いも受け入れ、それぞれの個性を生かした組織運営をするという考え方に変わっていったんだ」

 雄二も乗ってくる。
 
「日本の企業は、同質の人間を採用しようとしたり、入社後、一定の価値観で一つになろうとする傾向があるよな。アメリカほど、人種問題なんかで悩んでないし、元々、組織の中でまとまろうという意識が強いからそれほど根付いていないんじゃないか」

「雄二の言うとおりかもしれない。特に、日本の生産現場は、小集団活動や多くのカイゼン活動で、ボトムアップのマネジメントが進んでいることもある。とはいえ、既に、生産現場や営業への外国人の進出やもっと積極的に『多様な人々』の採用をすすめる傾向が強まっていることから、それらを経営にプラスにしていくマネジメントが注目をあびているとも言えるね」

「そういえば、あれもそうか?大手企業では、障害者の雇用人数の目標率が決められているだろう。あれなんか、単に人数を雇用すればいいというお上からの指導に従うという考え方になって、お互いおもしろくないよな」

「障害者雇用納付金制度は大手企業に限らないんだけど、考え方は重要だな。一定数まで雇用しなければいけないという考え方だけでは、義務として採用しているにすぎない。でも、障害者についても、個々の強みを活かすという考え方をすすめて、積極的に採用する企業も増えているというんだ」

「何となくわかってきたわ。元々は人権問題だったかもしれないけれど、今では、個々人の個性をそのまま活かして企業を活性化しようというマネジメントを言うのね」

「そうだね。組織の中で多様な人々が自由に活動することで、多くの問題も発生するかもしれない。でも、それを活かして、まさに、多様な考え方がぶつかり合うことで、イノベーションにつながると捉えるといいかもしれない」

「お、ジンのお得意が出たな。確かに外部の変化だけじゃなく、自社内も変化に対応することでイノベーション経営がより可能になるのかもしれないな」

 みんなの考え方が同じ方向を向き始めたところで、今夜の中締めとした。次回くらいには、鍋の締めになる頃だなあ。

(続く)

ダイバーシティ・マネジメント(Diversity Management)

 若干言い方を変えると、多様性を競争優位に活かしていくマネジメントと言われます。
 
 これまでは、消極的な人権問題と捉えていたものから、違った個性を認め、積極的に組み合わせていこうというアプローチです。
 
 日本では、まだまだ表面的な採用問題レベルかもしれませね。 
 ただし、今後はさらに積極的な対応をした企業が優位性をもっていくことになると思います。
 
 (参考)
 「障害者雇用納付金制度」:現在は(各事業所の)従業員数の1.8%以上の障害者を雇用することを義務づける制度となっています。少ない場合は、その人数に応じて納付金を納め、越えて採用した場合はそこから交付金として受け取れるという制度となっています。
 1人未満は切り捨てで計算する関係上、従業員が56人以上の事業所が対象になります。(56×1.8%=1人) 
 →H22年度7月から常時雇用従業員200人以上の事業主が対象になっています。
 (私の手元資料ですので参考程度としてください)