居酒屋で経営知識
40.診断士試験・集中戦略
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
原島さんの会社の田中君がみやびへ来ている。彼は、先日の中小企業診断士試験(1次)を受験し、自己採点で合格点だったこともあり、ジンに2次へ向けた質問をしているのだ。
「2次にとって、特に重要なのは、この企業経営理論と財務・会計だろうね。事例が4問有り、それぞれ大きくは、事例1『人事・組織』、事例2『マーケティング・流通』、事例3『生産・技術』、事例4『財務・会計』というように4つのテーマから出されることになっているんだ。事例4の財務・会計は、1次知識が直接出されることは想像つくよね。企業経営理論の知識は、4つの事例に関係するし、事例1では直接出されると考えていいだろう」
「今回の1次試験で一番難しいと思ったのが、経済学・経済政策と経営法務だったんですが、これらから出ることは無いんですか?」
「自分の経験では、直接問われることは無いと思って良いと思うよ。財務・会計については、1次の知識と実際の計算が出たりするけど、後はSWOT分析とドメインの明確化がしっかりできることが重要だと思う」
「なるほど。事例の与件文をしっかり分析することですね」
「そうだね。まずは、与件文をしっかり読んで、設問が求めていることを読み取ること。後は、時間内に決められた文字数に合わせて書ききることの訓練は、避けられないね」
「それが難しいところですね。国語の試験みたいです」
「うん。俺も実はそう思っていたんだ。背景に、企業経営へのアドバイスという意識は必要だけれど、必要なポイントは文章になっているわけだから、読解力は最低限でも必要だ。ただ、それも過去問を何度も何度も解くことで訓練できると思うので、徹底的にやることに尽きる」
「はい、がんばります。ところで、もう一問いいですか?」
「いいよ。どれどれ。同じ企業経営理論だね」
【企業経営理論】2011年度1次試験
第6問
中小企業ではニッチ市場に特化したり、特定の市場セグメントに自社の事業領域を絞り込んだりする集中戦略がとられることが多い。そのような集中戦略をとる企業の戦略対応として、最も不適切なものはどれか。
ア 自社が強みを発揮している市場セグメントに他社が参入してきた場合、自社のコンビタンスをより強力に発揮できるようにビジネスの仕組みを見直す。
イ 自社製品の特性を高く評価する顧客層に事業領域を絞り込むことによって、これまでの価格政策を見直し、プレミアム価格を設定して差別化戦略に取り組む。
ウ 自社の得意とする市場セグメントに事業領域を絞り込むことによって、業界大手の追随を振り切ることができるばかりか、好業績を長期に維持できる。
エ 絞り込みをかけた事業領域の顧客ニーズが、時間の経過とともに、業界全体のニーズ、と似通ったものにならないように監視するとともに、顧客が評価する独自な製品の提供を怠らないようにする。
オ 絞り込んだ、事業領域で独自な戦略で業績を回復させることができたが、そのことによって自社技術も狭くなる可能性があるので、新製品の開発やそのための技術開発への投資を強めることを検討する。
「これも、不適切なものが1問だけだから、後は集中戦略を説明していると言えるだろうね」
「ええ。何となく、『ウ』を選んで正解だったんですが、ニッチ市場に特化することで大手の追随を振り切ることができるというのは正しいような気がして迷ったんです」
「たぶん、ニッチな市場というものが、大手が参入しない、もしくは魅力を感じない市場だから、追随を振り切るという考え方は無いということが一つ。また、好業績を長期に維持できるというのは、あまりに安易な言い方だよ。まあ、楽観的すぎるだろう。よく考えればサービス問題だね」
「そうですね。中小企業のニッチ戦略は成功要因と勝手に考えていたかもしれません。業績はその市場でどんなマーケティングを行って、タイムリーに実行できるかなどもありますね。冷静に考えれば悩むことではありませんでした」
「言い方は悪いけれど、理論ばかりを追いかけていると文章の雰囲気に踊らされることになるよ。特に、2次試験では、与件文で表現される企業の状況と設問文が求めるポイントが思いこみで勝手に関連づけられたりすると全体を忘れてしまうんだ。例えば、設問文で多角化について問われていて、与件文に新しい事業について書かれていると多角化戦略へ向かっていると思いこんだりするんだ。全体を見れば、組織に問題があったり、事業を絞り込むことが解決の糸口でも、多角化と思いこむとそんな視点が無くなってしまうことがあるから要注意だね」
「やっぱり、全体から見ることが必要なんですね。わかっているんですが、時間が無いので設問に答えることに必死になってしまうんです」
「2次の受験勉強では誰もが悩むところだから心配いらないよ。まずは、過去問を時間通り何度もやることと、模範解答は一つの受験指導校や解答解説集ではなくて、できる限り複数のものを見比べながら、自分の書いたものとの比較をしてみることだね」
「はい。また、疑問が出てきたら質問させてください」
「了解。週末で空いている日をメールしておくから、スケジュールが合ったら、勉強会しよう」
「ありがとうございます」
(続く)
《1Point》
・2次試験の特殊性と受験指導校の指導
中小企業診断士の試験を受けた方や勉強した方はわかると思いますが、2次試験はとらえどころがないというのが大方の感想でしょう。
そのため、受験指導校も特徴を出すために多くのテクニックを教えてくれますが、中には意味不明のものも多くあります。
それはそれなりに根拠か、統計的な検証もあるのかもしれませんが、この試験は、与件文に登場する経営者の身になって、かつ、コンサルタントとしてアドバイスするシミュレーションだと思うべきだと思います。
採点のため、設問文として、アドバイスの内容に条件をつけていると考えてください。
素直に設問文に応えることが大切ですが、同時に、経営者に対し、責任を持ってアドバイスをするわけですから全体に一貫性が重要です。
これは、今後も何度か説明しますが、たぶん、合否を分けるポイントは全体として一貫したアドバイスになっているかどうか、ではないかと思います。
作文の試験ではないので、あまり、文章の書き方的なテクニックばかり指導するところは避けた方がいいというのは、個人的感想です。
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