居酒屋で経営知識

50.経営資源と市場

(前回まで:検討の切り口として、短期的視点と長期的視点を取り上げました。バランスをとった目標・評価が重要ですね)

 生ビールから日本酒にかえた。菊正宗の樽酒だ。
 
「経営を考えるときの切り口には、他にもいろいろなものがあるんだ」

 漆塗りの枡に樽酒を注いでくれている由美ちゃんに向かって話しかけている。

「3Sと短期・長期の話は頭に入ったわ」

「今度はもう少し具体的な切り口にしよう。良く経営資源と言われるものだ」

「経営資源?いきなり難しそう・・・」

「それがそうでもない。まずは、人・モノ・カネという3つが基本と言われている」

「直接的な感じねえ」

「そういうこと。例えば、この店の経営も大きく分解するとこの3つになるよね。『人』は、大将と由美ちゃんだし、『モノ』といえば、店自体や道具や設備だね。そして、『カネ』は言うまでもなく、運転資金や利益などだ。そのどれもが経営にとっては欠かせないものだというのはわかるよね」

「ふーん。なんか簡単ね。人がいて、設備があって、お金があれば経営は完了ということ?」

「いやいや、経営資源という言葉を使っているだろう。これらは、あくまで資源だから、それだけでは何も生み出さない。例えば、こんな例ならどうだろう。

1人の男の手元に木片と金があるとしよう。これらは、資源としてあるが、このままでは何も生み出さない。でも、男が金を使ってノミなどの道具を買い、木片からゲタをつくる作業をすると他の人が買って使ってくれるかもしれないだろう。男が、その売上から、更に木片を購入し、たくさんのゲタを作り売るようになれば、まさに製造販売という生業となるよね。

人・モノ・カネを使って、人の役に立つ価値を付け加えることが事業の基本というわけだ」

「そうすると、経営について考えるときには、この3つについて検討して、付加価値を付けられるようにしていくのね」

「基本はそうなんだ。ところが、ゲタを作っても、他に便利な靴や安くてかっこいいゲタがあったらどうだろう」

「そうよ。それがわからないの。お客さんに買ってもらわなければ、付加価値も宝の持ち腐れよね」

「それそれ。あくまでも資源の変形にすぎないと言われてしまうよね。どんなに、素晴らしい技術で完璧なゲタを作っても、そのゲタを欲しいと思う人がいなければ売れないだろう。美術品としても、評価されるかどうかも怪しいよね」

「経営資源はあくまでも内部の条件でしかないから、市場を見なければいけないってことよね」

 由美ちゃんがいつの間にか先を行っている気がしてきた。

「参ったなあ。図星だよ。次は、マーケティング・ミックスだ。4Pというのは知っている?」

「確か、前に鳶野さんのビジネスプランでメモしていたんじゃないかしら」

「やっぱり憶えていたね。
『Product』(製品・サービス戦略)、『Price』(価格戦略)、『Promotion』(プロモーション戦略)、『Place』(流通戦略・チャネル戦略)の4つの戦略を検討する必要があるんだったよね。

一応説明すると、

『Product』は、ターゲットとする顧客のニーズにあった製品を作ることが原則だ。現実の大企業でも、自社の技術からしか考えられないメーカーというのは多いんだ。顧客からスタートしなければ博打と一緒なんだよね。

『Price』:もちろん、適正な価格を付けないと売れない。時には、赤字でも市場価格まで下げるというのものも経営判断の重要なポイントになるよね。

『Promotion』:どんなに顧客のニーズを捉えたと言っても、当の顧客がその製品・サービスを知らなければどうしようもない。そのために、広告や試供品・試食品提供などを行ったり、口コミなどで広めなければ売上は伸びない。

『Place』:どこで売るのか、どうやって顧客の手元、必要とするところまで運ぶのかなども必要だ」

「自社の経営資源を元に、いかに市場に近づけるかが勝負ということね」

「う、うん。まさしくその通り。そのためには、最近では自社から市場まで網羅した情報戦略が一番重要であるとも言われているんだ。人・モノ・カネに加えて『情報』も経営資源としているところも多くなっている。『人』の次に重要なのは『情報』だという企業やコンサルタントも多いようだ」

「人・情報・モノ・カネからマーケティングミックスね」

「そして、改めて重要なことは、自社のシーズからスタートしないということ。つまり、顧客ニーズをまず捉えて、そのニーズに応えるにはどうしたらいいのかを考えるんだ。その上で、自社のコアコンピタンス(シーズ)によって解決できないかという考え方をとらなければ、新しい事業は失敗すると思っていいだろうね。今の事業や自社のシーズを勉強するのは大切ではあっても、新しいことをしようとするなら、敢えてそんなことを無視して、まったく違った視点から顧客ニーズを探ることも必要だと思うよ」

(続く)

《1Point》
・人・モノ・カネ+情報

 経営資源として挙げられるものです。ただし、この中で変わることが出来るのは「人」だけです、当然ですが。つまり、モノ・カネ・情報を使って、顧客の役に立つ価値を提供することが、経営の基本でしょう。
 
・マーケティングミックス(マッカーシーの4P)
 ・Product(製品・サービス戦略)
 ・Price(価格戦略)
 ・Promotion(プロモーション戦略)
 ・Place(流通戦略・チャネル戦略)

 この内容については、以前出てきていますので、参考にしてください。
 ↓
マッカーシーの4P

(49)短期と長期

→(51)OEM