居酒屋で経営知識

7.モチベーションの理論

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

(前回:人間関係論の開花期に行われたホーソン実験について説明をしました。働く人達へ視点を移したという成果は挙げましたね)
 
「へい、いらっしゃい。亜海ちゃん、ジンさんが来たよ」

「はーい」

 すっかり居酒屋みやびの顔となった亜海ちゃんが、小さな身体を弾ませながら飛んできた。

「お待たせしましたあ」

「亜海ちゃんも、ほとんど毎日出るようになったんだね」

「えへへ。だってえ、ここのお客さん、みーんないい人だから楽しくって、マスターに頼み込んだの」

「いやあ、今となっては助かるよ。由美っペが辞めるときは、正直言って不安でしたからね」

 今年の春に、由美ちゃんが就職することになり、アルバイトとして来たのが、亜海ちゃんだ。今では、ほとんど毎日働いているようだ。
 
「大将も人の心を掴むのがうまいし、おだて上手な常連も多いですからね」

「おいおい、ジンさん。それは俺たちのことかい?」

 まさに、常連の大森さんが上機嫌で反応する。

 おだて上手・・・人間関係論の次は個々人の心に入っていく必要があるだろう。
 
 次の研修のテーマをどうしようか迷っていたが、モチベーション理論の代表的な理論を確認することにした。

「うん、みんなのおかげで次のテーマが決まりました。それじゃ、乾杯」

 大森さんも近藤さんも、キョトンとしたまま応じてくれた。
 
 数日後、研修当日となった。
 
 研修の進め方もだいぶ慣れてきた。
 
 研修を受ける人たちも、リラックスしてきたので、説明を最小限にして、グループディスカッションを中心とすることにした。


 科学的管理法から人間関係論へ移ってきたことは、たぶん、自然な流れだったのでしょう。

 人間関係論は、それまでの科学的管理法の「作業条件の改善(原因、手段)がただちに生産性の向上(結果、目的)をもたらす」というような単純な因果関係への反論となりました。

 つまり、作業環境の改善や生産性の向上への対価などでインセンティブを与えるやり方だけでは、人が仕事に取り組む動機づけにならないということがわかったわけです。

 現在なら、個人のモチベーションに注目するでしょう。これがモチベーション理論の始まりです。

 「科学的管理法」も、個人のモチベーションを上げるために、環境改善や金銭的なインセンティブを向上させたとも言えますが、「人間関係論」でそれだけでは駄目だと否定されてしまったわけです

 そこで出てきた代表的な考え方がマズローの「欲求5段階説」やハーズバーグの「モチベーション理論」です。
 
 これは説明するより図を出した方がいいでしょう。

・・・パワーポイントには、あらかじめ「欲求5段階説」のピラミッド型の図と「モチベーション理論」の上下に分割の要因を並べておいた。
 
 個人的に理論が似ていると思うので並べてみました。
 
 マズローの「欲求5段階説」は有名ですので改めて説明の必要はないかもしれませんね。

マズローの欲求5段階説
 
 低次の欲求である「生理的欲求」から「安全・安定の欲求」、「帰属・社会的欲求」、「自我の欲求」を経て、「自己実現欲求」へつながります。

 また、ハーズバーグの「モチベーション理論」は、「衛生要因」と「動機づけ要因」に分けていますね。

モチベーション理論

 マズローの言う低次の欲求やハーズバーグの衛生要因は、初期の段階では個人のモチベーションを上げ、生産性向上に繋がります。この段階での管理法としては、テイラーの「科学的管理法」で十分な効果が上がるとも言えます。

 ところが、低次の欲求や衛生要因は不満が解消されるレベルになるとモチベーションを上げるとは言えなくなってしまいます。

 それよりも、集団の中での自分の位置づけや評価、達成感などが強い影響を及ぼすことになります。

 こうして考えるとこれらの個人のモチベーションに関わるものは、科学的管理法→人間関係論という流れから整理されてきた理論である、と見ることができます。

 マネジメントとしては、それぞれの段階にある個々人に対して、どういうインセンティブを与えればいいのかを考えることが必要となります。

 たとえば、安全の欲求に対して、職場環境を改善してある一定の段階に到達すると社会的な欲求が高まってくるため、帰属意識を高くするような社内イベント企画をするというように具体的な行動につなげることが重要です。

・・・それぞれの欲求段階や要因の具体的な例を考え、それらに対する具体的な対策を検討するグループディスカッションを行い、まとめたもので発表を行った。


 
(続く)