居酒屋で経営知識
34.マネジメント基礎講座:ブルーオーシャン戦略
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「へい、いらっしゃい。毎度」
「暑いーとしか言いようがないですね」
いつものように亜海ちゃんが必死の形相で生ビールを運んでくる。
「冷たいおしぼりもどうぞお」
「ありがとう。ひゃー、冷たい。じゃ、一人でカンパーイ」
「今日もお疲れ様でした」
大将と亜海ちゃんが合いの手を入れてくれた。
「うまい!」
枝豆と冷や奴を注文し、やっと落ち着いてきた。
「そういえば、ジンさん。亜海から質問があるそうですよ」
「え?亜海ちゃん、何かあるの?」
「えへへ。最近ねえ、由美先輩の話を聞いていてお店の経営に興味を持ってるんですう。それでね、最近の牛丼やさんがどんどん牛丼を安くしているのは、なぜかなあって」
「確かに、元々安かった牛丼が最近価格戦争になってるみたいだよね。普段あんまり牛丼食べないんで詳しいことはわからないけど、大体350円くらいが常識だったのが、最近では250円を切ったりしているみたいだね」
「安いのはうれしいんだけど、大丈夫なのかなあって。もしかしたら、悪い肉を使ってたりして」
「レッドオーシャンに入り込んでしまったのかもね。牛丼界では巨人だったはずの吉野家も引きずり込まれているのかもしれない」
「うーん。ジンさん。レッドオーシャンってどういう意味。赤?」
「血で血を洗う真っ赤な海から来てるんだよ」
「気持ちわるーい。怖い海ね」
「そう言うこと。ちょうど、この間この話をしていたんだ」
今回は、戦略論の最後になりますが、「ブルーオーシャン戦略」についてです。
これまでの戦略に較べ、最近のものと言えますが、注目度が高いと言うことで取り上げます。
【基礎知識】
フランスなどにキャンパスを持つINSEADビジネススクールのW・チャン・キム教授とレネ・モポルニュ教授の共著のタイトルになった戦略です。
既存の競争市場を「レッドオーシャン」と呼び、血で血を洗う競争市場は結局価格競争に陥り、存続と繁栄を台無しにしてしまうと結論づけています。
それに対し、「ブルーオーシャン」は、新たな市場でまだ生まれていない未開拓で競争者のいない空間を言います。
つまり、この戦略は、この「ブルーオーシャン」を見つけて、まさにオンリーワンとして悠々と事業を行っていくことを目指しています。
【ブルーオーシャンの見つけ方】
ポイント:現在の市場の境界線を疑ってかかることです。着目点を顧客へ移動し、また、競合他社との競争から新しい需要を見つけ出すことに集中すると言います。
これらの新しい価値を見つけ出すことをバリュー・イノベーション(価値の創造)と呼んでいます。
【アクションマトリクス】
バリュー・イノベーションを行うためのフレームワークの一つです。
非常に単純なので色をつけましたが、特に意味はありません。
(1)取り除く(Eliminate):常識であるが取り除けるものは何か
(2)減らす(Reduce):大胆に減らすべきものは何か
(3)増やす(Raise):大胆に増やすべきものは何か
(4)付け加える(Create):これまでなかったもので新たに付け加えるべきものは何か
具体的な例がないとわかりづらいですね。
それでは、このブルーオーシャン戦略を社内のチームで勉強しながら開発したと言われる任天堂のゲーム機「Wii」でどんな感じだったか想像してみました。
あくまでも、あまりゲーム経験のない私が外部から見たものですので、内容についてのつっこみは無しでお願いします。
私でも知っている当時のゲーム市場は、ファミコン系列で開拓者だった任天堂が、ソニーのプレイステーションに市場を奪われている状況でした。
マイクロソフトのXboxなども含めて、高性能なグラフィックや機能満載のコントローラーなど主に10代や20代前半を意識したものになっていましたね。
そこで、負け組になりつつあった任天堂は、この「レッドオーシャン」市場から1人飛び出して「ブルーオーシャン」へ漕ぎ出す道を探し出すことになりました。
多くの検討がなされた結果だとは思いますが、導き出された方向性は、それまで高機能・複雑化したゲームから遠ざかっていた親世代、高齢者世代やそれ以外の「非顧客」として見られていた層も一緒に遊べるゲーム機でした。
このように、それまでの常識から抜け出すために「取り除く」「減らす」「増やす」「付け加える」ことを徹底的に検討することが「ブルーオーシャン」を見つけ出すための手法としています。
【戦略キャンバス】
これらを他社と比較するための「戦略キャンバス」というものも手法として開発されています。
これも私の個人的な感覚ですので、内容へのつっこみは無しでお願いします。
横軸に顧客へ提供する価値としての項目を取り、それぞれの顧客に対するメリットという評価を縦軸に取ったものです。
そこに「既存事業」を分析し、それぞれの価値に対する顧客側のメリットの高低をプロットします。
ゲーム機の例で言うと、「コントローラーのボタンの数」や「グラフィック性能」「処理性能」「オプション機能」「価格」「習熟時間」「対象顧客数」などについて考えてみてください。
Wiiはたぶんこの戦略キャンバスのプレイステーションやXboxの描くグラフと全く逆を狙った結果を提案したと言えると思います。
既存市場の提供価値と違った方向へ舵を切ることができたことが、ブルーオーシャン戦略で成功したと言われる所以でしょう。
【他の戦略との違い】
ポイントは、「非顧客」「業界の常識」などであり、それまで「市場」と考えていなかった場所を見つけ出すということになります。
大きく見れば、コトラーの「市場地位別戦略」の「ニッチ戦略(ニッチャーの戦略)」と取れそうでもあります。
ただし、「ニッチ」が小さな、隙間を探すのに対し、「ブルーオーシャン戦略」の市場は、あらゆる切り口を使って、大きな市場を目指しているようです。
つまり、中小企業やベンチャーの戦略として提示している訳ではないのです。
逆に、ベンチャーなどが、一気に大手企業を超える戦略とも言えます。
今回、任天堂の「Wii」を取り上げましたが、理容業界の常識を変えた「QBハウス」の事例が典型的とも言われています。
「牛丼やさんたちは、戦争になっちゃったわけね」
「それぞれ、単純に価格競争だけで戦おうとは思っていないと思うけど、まずは、安さで負けないようにして、客を呼び、他のメニューとの組み合わせで利益を上げていこうとしているかもしれないね」
「組み合わせって、お味噌汁とかサラダってこと?」
「そうだね。後は、ベースの牛丼にいろいろな味やトッピングを加えてバラエティを出し、若干高くても魅力を感じるようにしているようだね」
「そっか。牛丼単品だけだったら、たぶん、儲からないのね」
「亜海ちゃんの好きなマックだってそうだろ。100円マックをやってるけど、100円ハンバーガーだけじゃなく、ポテトや飲み物を頼んじゃうだろ」
「そうなの。ハンバーガーだけじゃ寂しいし、100円しか使ってないから、他も買えるしね」
「そこをどう組み合わせるとお客さんが買いやすいか、もしくはついでに買ってしまうかを考えるのが戦略になるんだ」
「えへへ。私も戦略の話に入れて貰っちゃった」
(続く)
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