居酒屋で経営知識

27.マネジメント基礎講座:コア・コンピタンス

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「へい、いらっしゃい。毎度」

「初夏の陽気ですね」

「ホントですね。あっという間に梅雨に入りそうです」

「今年の夏は節電モードですから、夏の暑さを再認識するかもしれませんね」

「ちょっと前までエアコンなんて無かったんですから、本当に必要なものを見直す良いチャンスかもしれませんよ。網戸や蚊帳が売れるんじゃないですか」

 亜海ちゃんが運んできた生ビールをグッと呷りながら昔の夏を思い出していた。
 
「夏っていえば、蜃気楼のたったアスファルト道をプールに行った風景を思い出します。プールから帰ると家で扇風機を回しながら昼寝をしていたような気がします」

「ジンさんにもそんな思い出がありますか。蚊遣りと浴衣、団扇を扇ぐお袋を包み込む蝉の声ってのが夏の雰囲気ですね」

「大将も詩人ですね」

「今年の夏はそんな昔を懐かしむことになってくるかもしれませんね」


コア・コンピタンス」という言葉を聞いたことがありますか?

最初に全員に質問した。ほとんどの人が頷いた。

さすがに聞いたことはあるようですね。それでは、具体的にわが社のコアコンピタンスとはなんでしょう。

今度は下を向く人が増えた。

うーん、具体的というと難しいようですね。

コア・コンピタンスを直訳で調べると中核となる能力や資産ということになります。

特に、企業においては、将来にわたって事業展開の要になる技術やノウハウなどを指すことが一般的です。

最近では、知的資産やブランドについてもコア・コンピタンスとして認識し、全社戦略に活かしている企業も増えています。

あなたの会社のコア・コンピタンスとは何でしょうか?

先ほど同じ問いですが、この問いにすぐ答えられるならば、その会社ではコア・コンピタンス経営を実践していると言えるのだと思います。

コア・コンピタンスの原点を軽く見てみましょう。

提唱者は、ゲリー・ハメル教授(ロンドン・ビジネススクール)とC.K.プラハラード教授(ミシガン大学ビジネススクール)です。

定義として出ているものを引用してみます。

「コアコンピタンスは組織内における集団的学習であり、特に種々の生産技術を調整する方法、そして複数の技術的な流れを統合するもの」 (1990年 Harvard Business Review)
(引用先:@IT情報マネジメント 情報マネジメント用語辞典
http://bit.ly/mD1PAx

「顧客に対して、他社には真似の出来ない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」
(引用先:グロービス「MBAマネジメント・ブック」)

「顧客に特定の利益を与える一連のスキルや技術」
(引用先:野村総合研究所
http://bit.ly/lVeVJa

これらの定義を眺めていても、ピンとこないかもしれませんね。

ハメル&プラハラードの書いた「コアコンピタンス経営」では、当時アメリカ市場を席巻した日本企業(キャノン・ホンダ・ソニーなど)を分析した結果としています。

つまり、日本企業の強みは、他社に真似の出来ない中核となる固有技術などに焦点を絞って、負けない市場で戦ってきたというのです。

それまで、競争市場での事業戦略として中心的な考え方だった、ポーター教授の競争戦略では、自社とライバル企業を徹底的に分析し、相手を打ち負かすというものでした。

ところが、コア・コンピタンス経営では、自社の強みを活かす市場を見つけ、また、作り出してオンリーワンとして君臨するという考え方になります。

これらのコア・コンピタンス経営でよく引き合いに出されている事例は以下のようなものがあります。(企業:コア・コンピタンス

・ソニー:小型化技術
・ヤマト(宅急便):配送技術
・シャープ:液晶技術
・フェデラルエクスプレス:物流管理

しかし、たとえば、ソニーは確かに初期のウォークマンなど小型化技術で中心企業となっていったことは間違いはないですが、その後は、ブランドをコア・コンピタンスと認識しているのではないでしょうか。

その証拠に、ソニー損保やソニー生命、ソニー銀行など技術やスキルのまったく異なる分野においても、積極的にソニーというブランドで参入してます。

シャープなどは、電卓の小さな液晶画面や電子手帳などで液晶を使っていたことから、積極的に液晶技術に絞って開発を進めてきたことは有名な話です。

いまでは、液晶テレビのAQUOS自体がブランド化していますので、AQUOSというブランドもコア・コンピタンスとして育てていっているのでしょう。


 昔の夏の思い出が続いた。
 
「スイカと花火はもちろんですが、前日に近所の池の近くにあったクヌギの木に砂糖水を塗って、朝早くカブトムシを捕りに行きましたよ」

「そうでした、そうでした。子供の頃は、人より早く行かないと取られてしまうから早起きしたもんですよ」

「食べ終わったスイカをそのカブトムシを入れた虫かごに入れましたね・・・」

「マスターもジンさんも虫の話ばかりしてるんだから」

「ハハハ、亜海ちゃんは虫取りなんかしないんだろうね」

「気持ちわるーい。うちの弟もカブトムシを近所で買ってもらって育ててたけど臭くて臭くて」

「カブトムシは買うもんなんですねえ」

(続く)


《1Point》
・「コア・コンピタンス」core competence

再掲します。

「コアコンピタンスは組織内における集団的学習であり、特に種々の生産技術を調整する方法、そして複数の技術的な流れを統合するもの」 (1990年 Harvard Business Review)

「顧客に対して、他社には真似の出来ない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」

「顧客に特定の利益を与える一連のスキルや技術」