25.PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス)
(前回まで:アンゾフの成長戦略について説明しました。市場と製品・サービスのマトリックスで4つの戦略がありましたが、覚えていますか?)
「それだけは避けなくちゃな。大将、長生きをお願いしますよ」
大将に長生きしてもらうためにも、無理な多角化はやめた方が良いことがわかったようだ。
「そう言えば、ジン。さっき、ポートフォリオがどうとか言っていたな。聞いたことがあるんだ。確か、株をやるときのテキストに書いてあったはずだ」
「そう言えばそうだな。株を買うときには、一つの銘柄だけ持っていたり、同じ業界のものだけを持っているとリスクが大きいという話だろう」
「それそれ。業界全体に及ぶ原因で株価が下がると、同じ業界の株は同じように安くなっちまう。そこで、できるだけ、他業種かつ複数社の株を買うことで、一気に下がってしまうリスクを減らすという説明だった」
「分散投資の考え方だな。それと同じことがビジネスでも言えるんだ。例えば、1種類の商品だけを扱っているとその商品が売れなくなってしまうと収入がゼロになってしまう恐れがある。それじゃあ、数種類を扱えばいいんだが、そこにもう一つ問題があるんだ」
「複数の商品を扱ってリスクを分散するということだろ。他に何があるんだ」
「種類が違っても、たくさんの商品を扱っても、すべてが旬を過ぎて売れなくなっていたら、やはりじり貧になってしまうだろう。つまり、商品には、『導入期』『成長期』『成熟期』『衰退期』という段階があるため、衰退期の商品ばかり扱ってしまってはいけないということさ」
「なるほど。それは確かにそうだ」
「製品とか、企業が行う事業自体にも生物のようなライフサイクルがあるという理論に基づいて考えられたのが、プロダクト・ポートフォリオ・マトリックスという手法なんだ。一般的にPPMと呼ばれている」
「それが、ポートフォリオつながりなわけだな。つまり、単純に製品や事業を複数持つだけではリスク回避になるわけじゃないから、それぞれ成長の段階が違うものを組み合わせると言うことになるようだな。でも、成長の段階なんてどうやって見るんだ」
「そのための手法がPPMということなんだよ。これも、マトリックスという名前がついているように二つの視点から見ていくんだ。この二つの視点を横軸・縦軸にして、また4つの箱を書いてみてくれ」
今度は雄二が由美ちゃんのノートに縦軸と横軸を2分割にしたマトリックスを書いた。
「横軸を相対的市場占有率(シェア)として、低い・高いに分ける。縦軸を市場成長率(成長率)として、これも低い・高いに分けるんだ。それぞれの箱には名前がついているのも特徴だ。
・シェア(低い)×成長率(高い)=問題児
・シェア(高い)×成長率(高い)=花形
・シェア(高い)×成長率(低い)=金のなる木
・シェア(低い)×成長率(低い)=負け犬
となっている」
市場成長率 |
高 |
花 形 |
問題児 |
低 |
金のなる木 |
負け犬 |
|
高 |
低 |
相対的市場占有率(シェア) |
「ビジネス用語とは思えないがおもしろいな。しかし、負け犬とは酷い言い方だなあ。この負け犬も含めて4つの段階の製品や事業を行えという理論なのか?」
「ははは。まさかなあ。負け犬事業と分類されたものは、先がないと判断されたわけだから、撤退を考えた方が良いというのが一般的だ。つまり、企業は、自社の現在の事業(製品)をこの視点で分類して、バランスが取れているかどうかを検討して、今後の戦略に生かす手法なんだ」
「イマイチピンと来ないぞ」
「それじゃ、もう一度最初から。
・(問題児)というのは、成長率が高いけれどシェアは低いということだから、経営資源を投入してシェアをアップできれば(花形)にできる。
・(花形)は、中心的な製品になるが、競争環境が激しいときでもあるので、大きな利益もあるけれど、設備や開発投資も大きい。
・(金のなる木)は、成長率が鈍っているため、投資は抑えられ、成熟しているため、余剰資金源になる。
・(負け犬)は、企業にとっては撤退すべき状態にあるが、何らかの障壁があって継続している事業である。
という説明になるんだ。ここでのポイントは、実は(金のなる木)での余剰資金を(問題児)に投入して、(花形)へ育て、
(花形)は次の(金のなる木)に育てていくという考え方にあるんだ。この3つのライフサイクルの事業や製品をバランス良く選択して、経営資源の配分を効率化することでぐるぐると回転しながら持続する企業にすることができるんだ」
「フムフム。まあ、大雑把な分類だけど、要は、八方美人のように、あっちもこっちもいい顔をせず、投資するところと回収するところ、そして撤退するところを明確にする事業分類というところか。例えば、今は経営的には良い状態だが、このままいくと金のなる木中心なので、負け犬事業ばかりになる可能性があるから、早いうちに有望な問題児を捜してきて、育て上げることを考えるということだな」
「立派な理解力だ。細かいところまで突っ込むと、シェアを売上ベースにするのか、数量ベースにするのか、とか、成長率の高低の基準をどうするかなど、その事業環境によって決めていかなければいけないこともあるけど、こんな考え方だ、と言う程度で良いだろう」
さすがに疲れてきた。
「大将。今日は久しぶりにちゃんこ鍋作ってよ」
「ジンさん。そろそろ来ると思いましたよ」
「ジン、良いところに気がついた。鍋の季節だよな。ここのちゃんこを食べないと冬を乗り切れる気がしない」
ちょっと、飲み直しの感じで、雄二と盃をあわせて、みやびの特製ちゃんこ鍋ができるのを待った。
(続く)
《1Point》
・プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)
会話の中で説明したとおりですが、メルマガではわかりづらいので表を書いてみてください。
この手法は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が開発した手法です。4つの象限に分類して検討するというベーシックでわかりやすい手法です。
当然、4つに単純化してしまうため、限界もあります。一番大きいと思うのは、負け犬事業に分類された担当部門のモチベーションの低下ではないでしょうか。
必死でがんばってきて「負け犬」だなどといわれては、まさしく撤退しか選択肢がなくなるのではないでしょうか。
多角化に向けて戦略を検討する時にも指標になるかもしれませんね。ただ、この分類では、各事業間のシナジーなどは考慮する視点がなく、どうもキャッシュの配分が中心となっているという点が、もう一つの限界だと思います。
前へ 続く |