居酒屋で経営知識

30.P/Lの構成

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

(これまで)
 近藤さんの会社の山口君の財務会計基礎講座ということで時々、みやびで会ったり、メールでやり取りしている。

(ここから)

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」

 いつもの定位置に座り店を見回した。
 年末が近づき、早めの忘年会なのか、賑わっている。

「ジンさん、うちの山口君はいかがですか」

「近藤さんの紹介だけのことはありますよ。勉強熱心ですよね」

「そりゃ、良かった。お酒どうですか?」

「あ、ありがとうございます」

 ぬる燗のお酒を一口飲むとさっと身体中に染み渡るようだ。

「近藤さん。これが先週やり取りしたメモですよ」

「貸借対照表と損益計算書ですね。先日のジンさんと山口君のやり取りを端で聞いてましたよ。ただ、貸借対照表の中身は割とちゃんと聞いてたんですが、損益計算書の時には私は帰ってしまったんですよね」

「あ、そうでしたね。鍋を食べ終わってからも、山口君が先に進もうというので、若干追加したんでした」

「損益計算書は・・・なるほど、これはよく見ますね。会社の経営報告会などでは、これを中心に説明していますね。私は、最後の純利益くらいしか気にしてませんが、売上高・売上原価以外にも結構いろいろあるんですね」

「そうですね。とは言っても、貸借対照表などより、理解しやすいですよね」

「売上高から売上原価を引いたものが売上総利益ですね」

「良く粗利(あらり)などと言うのがこれですね。ものを仕入れて販売する事業でしたら、売上総額から仕入れ総額を引いたものになりますので分かりやすいですね。正確に言うと、一定の期間で区切りますので、処理上のタイミングなどの規則はあるんですが、その辺は専門的になるので止めときましょう」

「もちろん、興味本位の話程度なんで、あんまり本気にならないでくださいよ」

「もちろんですよ。山口君にはその辺を説明しようと思ってますがね。売上総利益の次にくる販売費及び一般管理費はわかりますか?」

「たぶん、直接の原価じゃないんだから、商店だったら店の賃貸料とか、従業員・アルバイトの給料などだよね」

「そうですね。言い方を変えると売上を上げるために直接的にかかった費用ではないが、この事業を進めるために間接的にかかった費用ということになります。売れる、売れないにかかわらず、かかってくるので、固定費になります」

「その販売費及び一般管理費を引いたものが営業利益となるわけだね。その企業の営業活動で得た利益という考え方かな」

「その通りです。それで、その下を見てください。営業外の収益と費用が出てきます。つまり、本業以外で収益になる銀行などからの受取利息、持ち株の配当金などを営業外収益として加え、逆に、支払い利息などを営業外費用として表記し、営業利益から加減したものが経常利益(もちろんマイナスなら経常損失)となります」

「ふむふむ。ところで、まだあるんだね。特別利益、特別損失というのはどんなものがあるんですかね」

「営業外収益や営業外損益は、まあ、常にあり得るものですよね。銀行の利息などですから。それに対して、その期だけ臨時的に発生した利益や損失を言います。例えば、特別利益では、自社の使っていない土地を売却したり、長期間保有していた他社の株式を売却したりして出た利益などを言います。場合によっては、経常利益が目標に届かなかったり、損失になっていた場合に、資産を売ることで最終損益を調整する場合もあるようですね」

「そうすると、特別損失は固定資産や保有株式の売却によって、損が出る場合ということですね」

「そういうことです。災害で建物が損壊した等の場合も、特別損失に計上します。これらの特別利益・特別損失を加減したものが、一般的な税引前当期純利益(純損失)となりますね。税引前ですから、最終的に法人税等がこれから引かれ、当期純利益(純損失)となって損益計算書が完成します」

「うん、なるほど。これからは、会議でもしっかり損益計算書を見るようにしてみますよ。なんか、いい勉強になりました。ありがとう、ジンさん」

「いえいえ。近藤さんも今度山口君との勉強会に参加しますか?」

「いやいや、それでは足を引っ張ってしまうから、時々、ここでダイジェスト版で教えてもらいたいですね」

「了解しました。では、今日もちゃんこ鍋を頼みましょうか」

「もちろんだよ。黒さん。今日は、ジンさんと一緒に食べるから、多めによろしく」

「もう、準備してますとも」

 みんなが経営の中身に興味を持つようになってきたようで、いいことかもしれないと考えるようになってきた。これは、俺の使命だ、なんちゃって。

(続く)


《1Point》
・P/L(損益計算書)の構成は以下のようになります。基本は、会社計算規則によって決められています。

A 売上高
B 売上原価
C 売上総利益(売上総損失) C=A-B
D 販売費及び一般管理費
E 営業利益(営業損失) E=C-D
F 営業外収益
G 営業外費用
H 経常利益(経常損失) H=E+F-G
I 特別利益
J 特別損失
K 税引前当期純利益(税引前当期純損失) K=H+I-J
L 法人税等
M 法人税等調整額
N 当期純利益(当期純損失)