居酒屋で経営知識

31.P/Lの原則

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。ジンさん、山口さんがお待ちですよ」

「北野さん、お疲れ様です」

「先日、近藤さんに会いましたよ」

「聞きました。損益計算書を教えてもらったって、さっそく経営会議資料をにらんでましたよ」

「さすがですね。亜海ちゃん、まずは生ビールよろしく」

「はーい。おまちどおさま」

 いつもながら早い(゚_゚;)

「じゃあ、そろそろ忘年会のシーズンになるけど、お互い身体に気をつけて行きましょう。カンパーイ」

「うまいですねえ。さっそくですけど、近藤さんから損益計算書の胆になる考え方は、別途私に聞いてきてくれって言われたんですけど」

「なるほど、そうきましたか。山口さんなら、もう読み方はマスターしたと思うんですけど、作成するときの注意点も考え方は知っておいた方がいいと思うんです」

「そうですね。私もちょっと疑問があるんですよ」

「どんなことですか」

「まず、売上と売上原価とは言っても、ウチみたいに建設業だと会計年度を超えて工事が続くときも多いんです。そうなると、受注した時と竣工して代金回収完了する時が大きくずれるし、実際には下請け業者などにはすでに支払いが済んでいたりするとどのタイミングで売上や売上原価を計算すればいいのかなあって思ってたんです」

「それそれ。さすがですね。そこが損益計算書の胆ですよ。貸借対照表は、いわばある時点の状況を表現することが目的ですので、すべてが正確に網羅されていれば済みますよね。でも、損益計算書はそうはいきません。簡単に言うと、その計算によって、税金や出資者への配当金が決められるという直接の利害につながります。ところが、商売が複雑になってくると単純に計算が出来なくなりますよね。山口さんの質問がその最たるものです」

「そこなんです。会社の売上状況報告を見ると、基本的に竣工した時に売上高もそれに関わる原価も上げているようです。そうすると、単純に言うと、今年1件の工事しか受注していなくて、竣工が来年になると、今年の決算では、売上も売上原価もゼロとなるんですよね」

「そういうことですね。この場合は、貸借対照表に仕掛品などのような資産として計上されることになりますね。もちろん、従業員の給与などは売上計上が無くても経常的に発生しますから、販売費及び一般管理費や営業外収益・費用などが記載されて損失となりますね」

「それが原則なんですね」

「そういうことです。一般的に損益計算書の原則として、発生主義の原則、総額主義の原則、費用収益対応の原則などが言われます。。
特に発生主義という考え方は、その他に実現主義・現金主義との比較で説明されます。

発生主義の考え方は、主に費用の計上に関わります。収益に関わる個別の売上や売上原価は実現主義という考え方で、山口さんの言う例のように、工事の竣工時に満額計上することになります」

「つまり、収益に関するものは、受注時などの発生時点では無く、竣工時などの確実に実現した時点で計上するということですね」

「総額主義というのはなんですか?」

「簡単に言うと、代価から原価を引いて(相殺)差額だけを表示することを禁ずる考え方だね。売上は売上で総額を表示し、原価も同様に総額で表示しないと取引の規模が全くわからなくなってしまうからね」

「あ、それはそうですよね。費用収益対応の原則というのは、工事の売上高とその工事にかかった売上原価を対応させようという考え方ですか?」

「そのとおりです。特に、販売費及び一般管理費に関わる費用などは、個別収益と明確に関連づけできないので、期間で発生費用を計上する考え方につながっていると言われているんです」

「なんとなく、わかってきました。費用は先に、収益は後にという考え方ですね」

「そんなところかな。でも、気をつけなければいけないのは、税金徴収の考え方はもっとシビアだという点ですね。収益は税金の計算に直接関わるから、利益の先送りと判断されると追徴課税などになることがあります」

「それはどういうことですか?」

「費用ばかり計上して、売上は来期中心となると損失が出て税金が減ることになるから、税金を納めなくて済むように工事の竣工を遅らせるなどと言う調整が可能だと言うことですね。税務当局は、それを厳しく追及することになります」

「なーるほど。つまり、実現主義とか発生主義の判断に難しいところがあるから、そんなことが起こるのかもしれませんね」

「そうだね。さあ、こんなところで、肴を注文しないと大将の目が厳しくなってきたよ」

「あ、そうでした。大将、本日の刺し盛り一丁お願いします」

(続く)


《1Point》
・損益計算書の原則

 なかなかわかりづらいかもしれませんね。

 この辺については、いろいろな会計関係の説明サイトがありますので、興味があれば検索してみてください。

 参考に企業会計原則の条文部分のみ転載します。

「発生主義の原則」

すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。
前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。

「総額主義の原則」

費用及び収益は、総額によって記載することを原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。

「費用収益対応の原則」

費用及び収益は、その発生源泉に従って明瞭に分類し、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない。