居酒屋で経営知識

24.BCP再考(情報・コミュニティ対策)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「お待ちしてましたよ」

「ご招待ありがとうございます」

「ジンもしっかり奢られに来たな」

 GWの真っ最中は、さすがの「みやび」も休業としている。ところが、由美ちゃんから招待メールが入ってきたのだ。

「いらっしゃい」

「あ、由美ちゃん、今日はみやびの看板娘に戻ったんだ」

「えへへ。おじさんが、皆さんにお礼がしたいって言うから、それなら私も協力することにしたの」

 常連が集まっていた。大森さん、近藤さん、雄二、原島さん、そして、由美ちゃんだ。

「大将、なんか、申し訳ないですね」

「いつもお世話になっていますんでね。在庫一掃にご協力をお願いしますよ」

 時々、みやびはこうして常連を招待して交流会もどきを行っている。今回は、特にコアなメンバーだけを招待したようだ。

「北野。しばらく休みにしていたけど、うちの研修もそろそろ再開しようと思うんだがどうだ」

「原島さん。もちろんですよ。近藤さんのところで特別講義をしていましたが、先週で終わりました」

「ジンさんにはお世話になりましたね。原島社長のところでも、BCP対策はジンさんにお願いしてみたらどうですかね」

「近藤さんの会社の対策は機能したようですね。うちは散々でした。中部・関西地域に拠点が集中しているので、直接の被害は無かったんですが、取引先との連絡が取れなかったり、何よりも、阪神の地震でお世話になった東北の同業者の支援をしたくても、最近つながりが無くなっていたんで右往左往してしまいました」

「そうでしたね。原島さんの会社の親会社は、兵庫県が本社でしたね。先週のジンさんのBCP講座は、情報とコミュニティ対策だったので、一度聞いてみたらいかがですか」

 BCP最後の講座は、まさしく、普段のつながりを大事にすると言うことがメインだった。


さあ、ここまで「人・モノ・カネ」という視点から自然災害対策を再検討してきました。

最後に、個別対応でなく総合的でかつ事業復旧・継続のための2つのキーポイントについて考えてみます。

1つは、経営資源としての「情報」そのものについてであり、2つ目はコミュニティ活動です。

まず、情報そのものについての想定される事柄と対策のポイントは以下の通りです。

1)全社的な営業情報等の毀損・紛失・流出・使用不能が起こる

事業の根幹をなす顧客情報・案件情報・サポート情報などの保存や使用方法を再確認してください。

データの二重化やバックアップと共にセキュリティ対策がしっかりなされているでしょうか。

2)パソコンや基幹システム・サーバーが損壊することで業務システムが使用不能に陥る

会計システムや電子メール、サーバーを利用したグループウェアなど、現在の企業経営にとって、情報・通信システムは生命線とも言えるでしょう。

特に、サーバーが地震や水害・落雷・停電などへの対策をとられた施設に設置されているでしょうか。重要なサーバーについては離れた地域でバックアップをとることを検討しましょう。大手のデータセンターを利用することは一つの対策です。

3)業務用の図面や契約書・各種証憑が焼失などで無くなってしまう

紙ベースの重要書類は文書管理システムなどを利用してデジタル化する他、原紙とコピーを別々に保管するなどの保管ルールを整備しましょう。

次に、緊急時の互助・支援に繋がる各種コミュニティへの積極的な加入・参加の勧めです。

昨今、カルテルや談合・癒着などへの急激な批判を背景に、業界団体からの脱退、同業者との交流回避などがコンプライアンス経営の実施だと単純に考えている企業が多くなっています。

しかし、緊急時において頼れるのはまさに同業者や取引業者、近隣地域の仲間であることは、これまでの大災害のたびに報道されてきたところです。

例えば、新潟県中越沖地震では、自動車部品メーカーの工場が被災し、日本中の自動車メーカーが操業停止に追い込まれるという事態が起きました。

この時、各自動車メーカーが行ったことは、自社の技術者などを即座に派遣し、複数業者が一致団結して早期の操業開始を支援することでした。

自然災害の発生を防ぐことは不可能です。

それぞれの企業が、従業員・顧客・地域を守るための出来る限りの対策をとっていても、被災してしまえば1社で出来ることには限界があります。

すべての企業が同じリスクを抱えて事業を行っているのですから、いざというときに助けあいの基盤として、各種団体、コミュニティに積極的に参加し、災害時の互助の取り決めを取り交わしておきましょう。

これまで、企業が事業継続を図っていくにあたって、緊急のリスクとなる自然災害への対策を考えてきました。

まずは、起こることとその影響を予測すること、次に、被害を最小限にし、事業の復旧・継続を実現するための事前対策を実行することが喫緊の課題です。

のんびり構えていることができないことは明らかとなっています。

今すぐに、経営者自らが先頭に立って、具体的な行動を起こしてください。


 いつもの「みやび」ではあったが、やはり何かが変わっていく空気をみんなが感じているようだ。
 
 会話は、いつも通りでも、震災が起こっていない2ヶ月前とは思い描く未来の姿が変わったのだろう。

 大将が厳選した日本酒を並べ、魚介類を中心とした肴をつまみながら、新たな出発を誓い合った。

(続く)


《1Point》
・BCP (business continuity plan)事業継続計画

 東日本大震災という大きな災害を目の当たりにし、まさに、災害をテーマにしたBCPがどう役に立ったのかという思いから復習をしてみました。
 
 今更ながら、事前に対策を取るということに本気で取り組んだ企業がどれだけあったのか、その効果はどうだったのか調べて欲しいものだと思っています。
 
 確かに想定外だったのでしょう。大きすぎた津波とその被害に加え、福島第一原発の事故が復興に集中できない状況を継続させています。
 
 それでも、できるところから復興をし、事業再開をしていかなければいけません。そして、自然災害は二度度起こらないわけでもありません。
 
 常に、備える。それしか、事業を継続するすべはないのかもしれません。

以上は、「事業継続」をテーマとして私が書いたBCP講座から転載しました。
http://bit.ly/gkOim3

 今回の内容は、「第10回事業継続-地震災害等での情報・コミュニティ対策」の内容です。最終回分ですので、次回からは、通常の内容に戻るつもりでいます。
 
 少しでもお役に立てていれば、と念じています。

[チェックリスト]
□個人情報や営業情報のデータはバックアップ対策やセキュリティ対策がとられていますか?
□紙情報はデジタル化もしくはコピーの保管をしていますか?
□地域や同業者、各種団体へ積極的に参加し、災害対策を意識した協定等を結んでいますか?
□これまでの対策チェックリストはすべてチェック済みですか