居酒屋で経営知識

29.B/Sの項目の分類

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

 近藤さんの会社の山口君への財務会計基礎講座が始まった。とはいえ、基本はみやびでの飲みながらの話を後日メールで確認するという形で行っているので、あくまで言葉で伝えられるレベルの知識というところかな。

「ジンさん。ちゃんこ鍋準備OKだけど、もう少し待とうか?」

「大将、それはお預け状態になりますので出してください。今日は、細かい話はしませんから」

「はいよ。じゃあ、亜海、ガス台準備してくれ」

「はーい」

 亜海ちゃんがカウンターに準備したガス台に具材がたっぷり盛られた鉄鍋が載せられる。

「うわー。これが、超有名なちゃんこ鍋ですか」

 山口君が身を乗り出した。

「まずは食べてみないと先が進まないような気がするけど、食べ頃までちょっと時間があるので、B/Sをもう少しかじっておこうか」

「はい。よろしくお願いします」

「貸借対照表は左右に分かれ、更に右側は二つに分かれているよね」

「ええ。左が資産の部、右は負債の部と純資産の部ですね」

「資産の部には、事例でもあったように『現金預金』、『売掛金』『仕掛品』などの流動資産の他に、『建物・構築物』『土地』『特許権』などの固定資産、『新株発行費』などの繰延資産に大きく分かれます」

「質問を一ついいですか? 流動資産と固定資産への分類は、何か決まった一覧表などがあるのですか?」

「あ、そうだね。良い質問だよ。一般的に、『正常営業循環基準』という基準に当てはまるモノが、流動資産と流動負債に分類されるんだ。つまり、正常な営業取引のプロセスにある資産が流動資産に分類され、それ以外のものは、『1年基準』で分類されることになるんだ」

「正常な営業取引ですか?」

「例えば、土地や建物は、一般の会社にとっては、固定資産として分類されるけど、不動産業やリース業などでは、土地や建物自体が販売用であれば、固定資産では無く流動資産になるんだ」

「あ、なるほど。では一年基準というのはどうなんですか?」

「正常営業循環基準に当てはまらない資産については、1年以内に現金化や費用となるものは流動資産とし、1年を超えるモノは固定資産として分類されるんだ」

「なるほど、なるほど。これは、負債の流動と負債の分類でも同じと言うことなんですね」

「そういうことだね。ただ、負債というのは必ず金銭を支払わなければならない債務のことを言うので、固定負債の項目はあまりたくさん無いので分かりやすいかもしれないね。一般的に、『社債』『長期借入金』『退職給付引当金』などが項目となるんだ」

「あとは、資本金などの純資産の部となる訳ですね」

「そうだね。いきなりまとめたと思ったら、鍋がいい感じだからだね」

「そういう意味では無いんですが、やっぱり気になります」

「ははは。まずは、心を静めて、ほら目の前にある小さなすり鉢とすりこ木でごまをすってからだよ」

 二人でごまをするといい香りが上ってくる。

「わー、ますます食欲がわいてきます」

「さあ、食べようか」

「いただきまーす」

 ちょうどいい加減に煮立ってきた鍋をつつきながら、菊正宗の樽酒をチビチビとやり出すと山口君もうれしそうに真似をしている。

(続く)


《1Point》
【前回の訂正】
 前回の小説内の事例について、B/Sの資本金を記載する部分を「資本の部」と書いて言いますが、現在は「純資産の部」となっていますので訂正します。

 また、「当期未処分利益」も「繰越利益剰余金」と名前が変わり、決算書でのP/Lには標記されなくなりました。(「株主資本等変動計算書」で表現される)

注意不足でした、申し訳ありません。
(2006年5月1日新会社法施行による変更)

(28)B/SとP/L