居酒屋で経営知識

28.B/SとP/L

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」

「一気に冷えてきましたね」

「そうですよね。やっと、鍋が出そうですよ」

「我々は夏でも鍋でしたけど」

「まあ、ジンさんや大森さん達、常連さんくらいですよ。特に、うちの常連さんは、体力的にも強そうですからね」

「大将の鍋さえ食べておけば、暑さも寒さも乗り越えられるってことですよ。じゃあ、今日もいつもの鍋は予約して、日本酒もいいとこよろしくお願いします」

「えっと、ジンさん、生ビールはどうしますか?」

「亜海ちゃん。もちろん一杯目はエビスの生でいくよ」

「はーい。準備OKでーす」

 さっと生ビールのジョッキが出てくるのは気持ちがいい。

「それじゃ、食欲の秋にかんぱーい!」

 仕事の後はこれに限る。うまい。

「いらっしゃい。おや、近藤さんじゃないですか。ちょっと、ご無沙汰でしたね。東北行ってるって聞きましたが」

「ええ、黒さん、そうなんですよ。震災以降、東北地区の営業所が人手不足で、私みたいな年寄りまで駆り出されましてね」

「近藤さんは、インフラ工事のエキスパートですから、仕方が無いですよ。ええーっと、こちらは?」

「あ、そうそう。仙台営業所の新人さんで、山口君。本社に連れてきたんだけど、体育会系で楽しみな奴なんで連れてきたんですよ」

「皆さん、はじめまして。大義建設仙台営業所の山口です。近藤さんにこの店のことを聞かされていて一度来てみたかったので、無理言って連れてきてもらいました。よろしくお願いします」

「ほおー、さすが近藤さんが気に入った若者だね」

「山口君。みやびの大将で黒沢さん。今じゃ、看板娘の亜海ちゃん。それと、有鉄物産の名物営業マンで、コンサルタントの北野仁さんだ」

「山口君、よろしく。ジンです」

「はじめまして。良かった。どうしても会いたかったんです」

「それは、うれしいね。でも、近藤さんからあること無いこと吹き込まれたんじゃ無ければいいけど」

「おいおい、ジンさん。あることだけだよ。山口君は、見て通りいかにも営業マンなんだけど、今の仙台営業所の状況では、管理の業務をやらなければいけないようで、当面、本社とのやり取りをしないといけなくなってしまったんだよ。それで、今日も出張してきたんだけど、どこも忙しくて基礎知識を教えてくれる人もいない状況で悩んでいるんだ。そこで、いざという時のジンさん頼みに来たという訳だ」

「今の状態が落ち着くまではとにかく一人で頑張らなければいけないと思っているんですが、管理とか経理の知識は全くないので、自分で勉強しはじめたんです。でも、チンプンカンプンで悩んでいたんです。そしたら、近藤さんが、いい先生がいるよって教えてくれたんです」

「なーるほど。建設会社はどこも人手不足で大騒ぎですからね。東京オリンピックも決まって、さらに切羽詰まってきたってところですかね」

「ジンさん、その通り。よろしく頼みます。もちろん、飲み代はこっちで出させてもらいますから」

「うーん。飲みながらだとどこまで出来るかわかりませんが。まあ、メールでも復習するというような形にしましょうか」

「ありがとうございます、北野さん」

「ジンでいいよ。その方が落ち着くんでね」

「はい」

「じゃあ、山口君はジンさんの隣に座らせてもらって、まずは、乾杯といこうか。ジンさんよろしく」

「近藤さんとの再会と山口君との出会いに、乾杯!」

「かんぱーい!」

 山口君の個人講座スタートだ。

「ところで、山口君。基礎の基礎っていう話だけど、どんな話からスタートしようか。何かテーマある?」

「あのー。実は、B/SとP/Lってあるじゃ無いですか。決算までに読めるようにしておけって言われたんですが、眺めていても二つの関係がわからないんです。どうつながるんですか?」

「了解。決算書に使われる財務諸表についてからはじめよう。中身はここでやる訳にはいかないので、今日は、何を表すのかの話だけしておくね」

「よろしくお願いします」

「えーっと、そうだな。単純化した例で話そうかな。

今、山口君が商売をはじめるとしよう。

自分の貯金から100万円を引き出して、商売用の口座に入金し、この100万円で事業を始めます。事業開始をある年の4月1日としましょう。会社名は山口商店とします。

この時、山口君個人が出資して山口商店を創業したと言うことになりますね。

山口商店の財産の状況は、口座にある100万円ですが、これは出資されたモノですので、山口商店の資本金として考え、資本100万円となります。

この状況でB/Sつまり貸借対照表はどうなりますか?」

「預金(現金)は資産ですので、左側の資産の部に100万円で、右側の負債の部は特になくて、純資産の部に100万円ということですか」

「さすがにわかってるね。山口商店は次ぎに20万円で置物を仕入れました。この時は貸借対照表はどうなりますか?」

「現金が20万円減りますので80万円で、仕入れたモノは商品20万となるんじゃないでしょうか」

「そうです。この時は、まだ、資産100万円(現金80+商品20)、純資産(資本)100万円でバランスしています。

では、次ぎに、この商品が30万円で売れたとしましょう。資産はどうなりますか」

「売れたんですから、現金80万円に30万円が追加されて110万円、商品は無くなったんですから0円」

「その通り。そうすると資産が110万円となりました。ところが、資本は100万円ですから貸借対照表の左右がバランスしませんね。この時、追加されたのは利益10万円ですので、この利益を資本の部に追加します。一般的に未処分利益という項目で資本と分けて記載します。これで、左右はバランスしました。

山口商店は、この売買だけがこの年度の事業だったとすると、次の年の3月31日の年度決算時にB/S(貸借対照表)はどうなりましたか?」

「えっと、それだけですから、左側の資産の部は、現金110万円のみで、右側の資本の部は、資本100万円+未処分利益10万円=110万円となりますよね」

「そういうことです。この場合、わかることは、3月31日時点で、現金が110万円あって、その内訳は初めの資本金100万円と事業で生まれた利益が10万円ということだけですよね」

「ええ。まあ、単純な計算だけですから」

「そうですね。でも、この貸借対照表でわかるのは、3月31日時点の状況だけで、10万円の利益が、どうやって生み出されたのか全くわかりませんよね。そこで、P/L(損益計算書)の出番になります。

損益計算書は、この場合、商品が売れた時に記録されます。つまり、売上高30万円、商品の仕入額が売上原価となって20万円、未処分利益10万円となり、10万円の利益が生み出された売上と原価がわかります。これが、例えば、年度内に20万円の商品を22万円で5個売った場合はどうでしょう。B/S(貸借対照表)はどうなりますか?」

「利益額は一緒ですから、同じになりますね」

「そうです。ところが、P/L(損益計算書)はどうでしょう」

「22万円の商品が5個売れたので、売上は110万円。売上原価は、20万円×5個で100万円ですね」

「そういうことです。つまり、B/S(貸借対照表)は、決算時などのある時点で資産や資本、話には出ませんでしたが負債などがどうなっているかという一瞬を切り出した表となります。それに対して、P/L(損益計算書)は、決算期間などの一定の期間でどのような営業をして来たのかを累積して示しますので、考え方は理解しやすいですね」

「なるほど。B/S(貸借対照表)というのは、その時の状況の指標で、P/L(損益計算書)がその時までの経営成績を示すと言うことになるんですか。利益だけ見ると、B/Sでは、結果的にいくらあるのかしかわからないけど、P/Lではその中身がわかるということでしょうか」

「そういう理解でいいと思いますよ」

(続く)


《1Point》
・B/S(balance sheet)
貸借対照表
ある時点でどのような経営資源を保有しているかをしめす指標

・P/L(profit and loss statement)
損益計算書
一定の期間(通常1年間)でどれだけ儲かったかを示す指標