居酒屋で経営知識

58.2011年の忘年会

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

 少々飲み過ぎ食べ過ぎを感じながら目を覚ました。
 
 昨日は、会社の納会だったのだ。つまり、今日から年末年始の休暇に入ったわけだ。
 
 ベットの中でちょっと迷ったが、予定通り身体を絞ることにした。
 
 まだ外は暗い。
 
 スポーツドリンクで水分補給をすると、ゆっくりストレッチを開始した。身体はまだ夢の中だ。
 
 一通りこなした後、冬用のジャケットを羽織って走り出す。
 
 冷たい風を受けながら、いつもの隅田川テラスへ向かう。
 
 ほぼ1時間。犬の散歩に出てくる人が増え始める間を縫って帰宅。
 
 今日は、3時過ぎからみやびの忘年会に招待されているのだ。
 
 毎年、常連さんを中心に集めて開催している恒例行事だ。
 
 年末の大掃除は明日するつもりだが、忘年会の時間まで書棚やデスク周りを整理して過ごした。
 
「あ、ジンさん、みんな揃ってますよ」

「ええー?早すぎじゃない。よっぽど飲みたいのかもしれないけど」

「ぶつぶつ言ってないで早く座れ」

 雄二に促されて空いた席に腰を下ろした。

「えへん。えー、では、恒例の忘年会を開催します。今年も、皆様には、みやびを贔屓にしていただき、誠にありがたく、特に、今年のような大震災の年にもかかわらず・・えーと。本当に、お世話になりました」

「黒さん、固い固い。まあ、気持ちはわかったよ」

 大将の挨拶を大森さんがサポートして、拍手に変わった。
 
「それでは、近藤さんに乾杯をお願いします」

「それではご指名ですので。今年1年、いろいろなことがありました。特に3.11は多くのことを考えさせられました。来年は、まさに復興・再起の年です。皆様とさらに交流を深めながら、自分たちの出来ることで貢献していきたいと思っています。われわれのベース基地であるこのみやびのますますの繁栄と仲間である皆様の健康、そして新たな年への希望を込めて乾杯いたします。かんぱーい」

 みんな一気に立ち上がり、乾杯し合った。

 鍋の火をつけ、テーブルに載らないほどの肴をつまみに今年を振り返る忘年会のスタートだ。
 
原島「北野や鳶野、由美さんには随分お世話になったよ。うちの会社もまともな会社になってきたと実感するんだ。もう1年以上になるけど、この会社を任された時は、完全な左遷だと思っていた。社内も親会社からの一時的な天下りだと感じていて、全く心を開いていなかったのに、いまじゃ、毎日のように社長室に意見を言いに来てくれるようになった」

由美「原島社長の人徳ですよ。ねえ、ジンさん。私たちは、ビジネスの基礎知識を一緒に勉強させてもらったようなものだったわ」

雄二「そうそう。原島さんはすぐに社員と一緒に話し合いに参加したのが良かったんだと思いますがね」

ジン「社長が社員を信じ、方針を明確に示したのが最大の理由だと思いますよ。だからこそ、社員もそれまで何度も裏切られてきたという諦めから脱して、この社長は信じてもいいかもしれないって感じたんですよ」

原島「それを強力に後押ししてくれたのが君たちだ。感謝している」

大森「原島さん。ここに集まる奴らは、とにかくお人好しなんですよ。でも、タダのお人好しじゃあない。プロのお人好しってところかな」

近藤「ははは。大森さん、言い得て妙だ。私も、愚痴をこぼしながら飲んでいたのが随分昔の話だ。ここで、黒沢さんやジンさん、鳶野さん、そして、由美に応援してもらった。おかげで、天下りで肩身の狭い思いをしていたのが、経営革新のチームを任せてもらうなんて言う想像も出来なかった仕事ができた。今では、愚痴という言葉すら忘れました」

黒沢「私はタダの居酒屋の亭主ですよ。ジンさんたちとは違って、酒を選んで、肴を作っていただけですからね」

ジン「プロのお人好しかあ。来年の目標キーワードが出来たかな。少なくても、自分のメインの仕事を離れた活動でもプロと言われることを目指したいって思ってたんですよ」

原島「北野はすでにプロのお人好しかもしれないな。私も、社長職でのプロにならなければいけないけど、地域でのボランティア活動も始めてみたんだ。震災の現地には行けなかったけど、自分の街でも出来ることはたくさんあることに気づくことができた」

由美「二足のわらじを履くって言う言葉は、何となく悪い意味がある気がしてきたけど、これからは仕事だけじゃなくて、いろいろなところで自分の能力を発揮することが必要になってきているんじゃないかしら。二足のわらじを履くべき時代なんじゃないかな」

ジン「震災で人々は家族や近隣の人とのつながりの大切さを再認識したっていうよね。人はいろいろなつながりを持って生きてきているから、それぞれに積極的に関わりをもつことはこれからの生き方のヒントになるかもしれない」

雄二「最近はFacebookで小学校や中学校のつながりとか、趣味のつながりを見つけて、数十年ぶりに同窓会をやったり、趣味の集まりを始めたりする人が増えてるそうだ。ネットワークを作ったり広げるためのツールは揃ってきていると言えるかもな」

由美「ええっ?鳶野さんがFacebook?信じられないーい」

雄二「バカ言え。俺だって、時代の寵児を目指しているんだ。Facebookくらい出来なくてどうする」

黒沢「ここのメンバーはいつも揉めてるな。そろそろ、鍋もいいころだよ」

大森「あんたたちが来てくれて、俺たち爺さん連中もやる気をもらったことは間違いない。なあ、黒さん、近藤さん。毎日が楽しいよ」

雄二「大森さん、どうした?そろそろお陀仏かい。もう少し、この商店街をかき回してもらわないと困るんだけどなあ」

大森「こら!鳶野。人を死に損ないみたいに言うんじゃない。せっかく、気分良く感謝の気持ちを述べてるんだから素直に受けろって」

雄二「正直言って、照れくさいよ。なあ、ジン。俺たちだって、この爺さんたちのおかげで楽しんでいるんだから」

ジン「いつもながらに口べたなみやびの常連たちってとこですかね。大将はもちろん、大森さんや近藤さんを初めとする、昔からの常連さんがこの店の居心地の良さを作ってるんですよ」

由美「私も結局この店で働かせてもらったおかげで、今の仕事を見つけられたし、仕事自体も後押ししてもらっているわ」

大森「よし。もう一度、このみやびという場所と一人ひとりのがんばりに乾杯しよう」

 みんながうれしそうに立ち上がる。そして、来年に向かって、大きく乾杯をした。

「かんばーい!!!!!」

(来年も続く)


《1Point》
*今年お伝えしたテーマ一覧
(10) リーダーシップ概論
(11) 組織論の基本的考え方
(12) 組織形態
(13) ミッションとは?
(14) ビジョンと戦略
(15) 戦略の種類
(16) ドメイン(戦略ドメイン)
(17) SWOT分析
(18) 製品ライフサイクル
(19) 成長マトリクス
(20) BCP再考
(21) BCP再考(ヒト)
(22) BCP再考(早期復旧)
(23) BCP再考(資金対策)
(24) BCP再考(情報・コミュニティ対策)
(25) 経験曲線
(26) コンティンジェンシー
(27) コア・コンピタンス
(28) これだけは覚えたい経営戦略論
(29) アンゾフの経営戦略論
(30) PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)
(31) ビジネス・スクリーン
(32) マイケル・ポーターの競争戦略
(33) 市場地位別戦略
(34) ブルーオーシャン戦略
(35) 地産地消の視点
(36) 雇用
(37) 営業とマーケティング
(38) 外部ネットワーク
(39) ドメインと近視眼
(40) 診断士試験・集中戦略
(41) 診断士試験・内部統制
(42) 診断士試験・2次対策
(43) 診断士試験・2次対策(2)
(44) 診断士試験・2次対策(3)全般
(45) 診断士試験・2次対策(4)事例1
(46) 診断士試験・2次対策(5)事例2
(47) 診断士試験・2次対策(6)事例3
(48) 診断士試験・2次対策(7)事例4
(49) 里芋とブリ
(50) 八つの習慣
(51) 八つの習慣(2)
(52) 八つの習慣(3)
(53) 八つの習慣(4)
(54) 八つの習慣(5)
(55) 5つの質問
(56) 企業とは何か?
(57) 自社の強みとは

 上が今年の1月5日からの表題一覧です。

 今回の小説の中では、一年を振り返りながら単なる飲み会の描写となってしまいましたね。それもいいのかもしれないと思いながら書いています。
 
 確かに、今年の東日本大震災は多くの犠牲と教訓を残したと思います。
 
 多くの点で人災だとか言う人もいますが、まったくの天災であることは間違いありません。
 
 天災は忘れた頃にやってくるというのが真理なのでしょう。
 
 どんなに高い堤防を築いても、安全基準を作っても、きっと自然の力を超えることはありません。
 
「津波てんでんこ」というような昔からの言い伝えも、しっかりとその本質を考えながら残していかなければいけないと思っています。

 2011年もあと少しです。
 
 それぞれの一年をじっくり振り返り、もう一度、これからの生き方を見つめ直してみませんか。
 
 私にとって、今年はいろいろな意味で、転換期でした。
 
 皆さんはいかがだったでしょうか。
 
 今、もう一度、ゼロベースで自分のあるべき姿、「何をもって憶えられたいか」を考える気持ちが沸いてきています。
 
 来年は勝負の年です。\(^_^)/