居酒屋で経営知識
17.SWOT分析
【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」
「はーい、今、生ビール入れてまーす」
「亜海ちゃん、そんなに慌てないでいいっていってるのに」
「だって、お酒ってすぐ飲みたいものなんでしょ?」
「まあねえ。そりゃそうなんだけど、亜海ちゃんは慌てすぎ」
「はーい。じゃあ、慌てないようにしまーす」
「亜海はジンさんには素直なんだなあ。俺たちが言ったって聞かないくせに。なあ、近藤さん」
大森さんが不満そうに口をとがらせる。
「そんなこと無いよ。ねえ、亜海ちゃん」
「ええ。近藤さんって安心できるし・・・」
「こら、亜海。ってことは、俺だと安心できないって言うことか!」
「へへ」
みんなとビールで乾杯をした。
「お、早いなあ」
「いらっしゃい。鳶野さんも結構早いですがね」
「ジンはちゃんと仕事しているんかね」
「もちろんだ。定時内に仕事を終えて初めて、役割を果たしたってことだろ。ズルズルと時間をかけるってことは、自分にとっても会社にとっても損失だ」
「わかった、わかった。すぐに本気になるんだからな。ジンの悪いところだな」
「うん?それは俺の弱みかもな」
「やけに素直だな。気持ち悪いぞ。・・・そういえば、前回の研修では、ドメインを説明したな。そこで出ていたSWOT分析の説明も必要じゃないか?」
「そうなんだ。環境分析を既定の事実で話していたんで、早速質問がきたよ」
「だろ?俺にも来たよ。ドメイン決定のところにSWOT分析などって書いてあったろう。それ以外にも、外部環境分析と内部環境分析って書いてあったからよくわからないらしい」
「そうだな。ツールとしてもSWOT分析は説明と演習が必要だな。次回はこれでいこう」
二杯目のビールを頼み、雄二と乾杯をし、四方山話となっていった。
今回は、前回の戦略ドメインに付随している環境分析のツールとしてのSWOT分析を説明します。
SWOT分析は、多くの組織で利用されている非常にメジャーな分析手法と言えるでしょう。
自社のドメインを決定するときに採用されることも多く、また、マーケティングにおいて、市場の機会を発見する時などにも使われています。
これだけメジャーな分析手法ですので、企業にお勤めの方なら熟知されていると思われがちですが、私の経験するところでは、単にブレーンストーミングの整理方法程度になっているように感じます。
・「S」は自社(組織)の強み(Strength)
・「W」は自社(組織)の弱み(Weakness)
・「O」は外部環境の機会(Opportunity)
・「T」は外部環境の脅威(Threat)
上記がSWOTの分析項目であり、名前の由来です。
名前の由来からもわかる通り、組織においての内部環境分析(SとW)と外部環境分析(OとT)を同時に行うようになっています。このフレームワークのおかげで、外部環境の変化を捉えながら、内部の強み弱みの適応を考えることができるはずです。
SWOT分析は組織メンバー全員で行うことが多いと思います。
このように、ホワイトボードや模造紙などに4つの箱をフレームのように書くことが多いでしょう。(ホワイトボードにSWOT分析の枠を書いた)
強み・弱み・機会・脅威について、思いつくままにそれぞれのタイトルが書かれた箱の中に列挙していきます。
もしくは、大判のポストイットなどに各自が記入したものを貼り付けるなどの作業を行うこともあるようです。
ただし、何事にも順番があります。
(1)人口構造・政治状況・経済状況などの大きな環境(マクロ環境といいます)の鳥瞰的な視点から検討しようとする市場に向かって掘り下げるような意識で、「機会」と「脅威」を検討する。
(2)外部環境に加え、競合を分析し、自組織の「強み」と「弱み」を整理・検討する。
(3)外部環境・自組織の戦う市場における「機会」と「脅威」に対し、「強み」を生かし「弱み」を克服する方策を検討する。
(4)自組織における「強み」を生かすことができる「機会」を中心に検討することで前向きな戦略ドメインを決定できる。また、捉えたい「機会」に対し、「弱み」を克服するにはどうするかと検討する。など。
企業や組織にとっては、「機会」に「強み」で当たらせることが経営資源の無駄を省くためにも重要と言えます。
やったことがある方は、単純にSWOT分析を行ってはいませんか?
実は、SWOT分析にとって一番重要なポイントは、「本当にそうか?」と検討を繰り返すことにあります。
「強み」として挙げたものは本当に「強み」になっていますか?
「脅威」とした環境は、実は「機会」ではありませんか?
実際にやってみた方は必ず壁に当たると思いますがいかがですか。
これは「機会」なのか「脅威」なのか、「強み」なのか、「弱み」なのか。
たとえば、こんな例ではいかがでしょう。
あなたは玩具メーカーで経営計画を見直しているとします。
外部環境で必ず出てくるキーワードは「少子高齢化」ですね。
では、玩具メーカーでのSWOTにおける「少子高齢化」という人口動態は「機会」でしょうか、「脅威」でしょうか。
多くは、「少子」に注目し、玩具を購入する人口が減少するので「脅威」とするでしょう。
たぶん、「機会」を別に探すのではないでしょうか。苦しいですね。
でも、敢えてこの「少子」を「機会」と捉える考え方は無いのでしょうか。
「少子化」は、別の見方をすると、1人の子供にかける思いが強いとも言えます。両親に加え、祖父母の財布は1人の子供に向けて消費を産みますね。
よく「6つの財布」と言います。
彼らに対し、単純なおもちゃではなく、「知育」の玩具を提供することで、より付加価値の高い(価格も高い)市場とすることができるかもしれません。
また、「高齢化」を「機会」と捉える考え方はいかがでしょうか。
自社の「強み」であると思われる「安全な玩具を作る」技術や考え方を「高齢者」の使う道具などに採用できないでしょうか。新たな市場への進出に繋がるかもしれません。
このように使い方によっては非常に有効な分析なのですが、経営計画の前段を飾るだけの当たり障りのないSWOTとなってしまっては、企業の発展は望めませんね。
これらの検討のために、SWOT分析を更に進めた「クロスSWOT分析」というものもありますので、簡単に紹介します。
SWOT分析で挙げられた項目をクロスさせて、検討するフレームワークです。
・「機会×強み」=事業機会に対し、自社の強みを最大限に生かすにはどうしたらいいか?
・「機会×弱み」=事業機会に対し、自社の弱みで取り逃がしてしまうことを回避するにはどうしたらいいか?
・「脅威×強み」=脅威に対しても、自社の強みでチャンスに出来ないか?
・「脅威×弱み」=脅威と弱みが最悪の事態を招かないようにするにはどうすか?
のように検討していきます。是非試してみてください。
《1Point》
・SWOT分析
・「S」は自社(組織)の強み(Strength)
・「W」は自社(組織)の弱み(Weakness)
・「O」は外部環境の機会(Opportunity)
・「T」は外部環境の脅威(Threat)
(採用される場面)
・事業開始時において自らの戦う場所であるドメインを決定する時
・長期経営計画を見直し・策定する時
・マーケティング環境分析において市場の機会を発見しようとする時
・クロスSWOT分析
SWOT分析で抽出した各項目の内容をクロスさせて検討するものです。
・「機会×強み」=事業機会に対し、自社の強みを最大限に生かすにはどうしたらいいか?
・「機会×弱み」=事業機会に対し、自社の弱みで取り逃がしてしまうことを回避するにはどうしたらいいか?
・「脅威×強み」=脅威に対しても、自社の強みでチャンスに出来ないか?
・「脅威×弱み」=脅威と弱みが最悪の事態を招かないようにするにはどうすか?
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