居酒屋で経営知識
98.POSシステム
【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」
いつもの縄のれんをくぐった。
いつものカウンターに腰を落ち着ける。
「はい、ジンさん。まずは、ヱビスの生をどうぞ」
いつものタイミングで生ビールが置かれ、続いてお通しが出される。
「この一杯のために生きてる感じがするね。お、大将、アスパラがいいですね」
「今がいい時期ですからね。鶏肉とあわせて辛明太子をきかせてみました」
「うまいなあ。幸せだ~」
「ジンさんの幸せそうな顔を見ると私たちも幸せよね。おじさん!」
「由美っペの言うとおり。その上、経営の診断や具体的なマーケティングをやってもらってるんだから、お客さん以上のお客さんですよ。そろそろ私も隠居して、ジンさんにこの店の経営をしてもらいたいくらいですよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。この店の強みは、大将の目利きと料理の腕なんですから、無理ですよ」
「すぐとは言いませんよ。由美っペに料理のノウハウをたたき込みますから、ゆっくりでいいです」
「おじさん、何言ってるの。もう、最近すぐ引退だとか言い出すんだから」
数人のサラリーマンが入ってきたため、慌ただしくなった。
しばらくして、由美ちゃんがお代わりの生ビールを持ってきたのだが、すぐさま隣に座った。
「お客さんは大丈夫なの?」
「いつもキープの焼酎だから、あんまり手がかからないお客さんなの。それよりジンさん。あのお客さん達が話してたんだけど、ポスシステムって何かしら。ポスのデータでマーケティングするなんて言ってたの。マーケティングの関係らしいわね」
「POSシステムだね。流通系の人たちかな。ほら、コンビニなんて行くとレジで『ピッ』ってバーコードで読み取っているだろう?あのレジを使って商品や購入者などのデータを記録して、在庫管理やマーケティング分析の材料として使っているシステムをいうね。POSは、Point Of Salesの略で、日本語では販売時点情報管理などと言われている」
「販売してすぐにデータとして登録されると言うことね。でも、購入者のデータって言ったけれどそれはどうするの」
「一番良くあるのは、レジ自体に、購入する人の性別とか大体の年齢などのボタンがついているもので、レジを打つ人が、女性・20歳代などと判断して入力するみたいだね。自社のポイントカードを発行しているところだと、そのカードを機械に通すから、買った人と買ったものを確実に関連づけてデータ化することもできるね」
「そんなことをしてたんだ。単に、値段の確認の手間とか数字の打ち間違いをなくすためにやってるんだと思ってたわ」
「在庫管理も簡単になるんだ。店舗に入庫した商品のデータが登録されていれば、レジで通った商品を引いていくと在庫が常に把握できるよね。コンビニのチェーン店などでは、このデータを本部のコンピューターに集約するので、商品の動きがリアルタイムにわかるのんだ。だから、発注や配送依頼などを店舗でしなくても、常に在庫の少ないものが補充される仕組みをつくれるというわけだ」
「へえー。だから、アルバイトだけでも24時間営業をやれるのね」
「そうだね。それこそ、地域性がデータでわかったり、天候によって売れたり売れなかったりするような調査も簡単にできるんだ」
「コンビニがこれだけはやっているのも、そんなデータでのマーケティングを行っているからなのね」
「ただし、データだけに頼るのは限界もあるよ。おもしろい話では、ある女性向けの商品の購入者のデータを分析してみると結構男性が買っていることがわかった。そこで、マーケティング部門は男性に需要があると判断して男性向けのプロモーションを行うという企画書を上げたんだ。ちょっと変だと思ったマネージャーが、特に男性の購買率の高い地区の店へ行ってアルバイトに話を聞いてみたんだ。すると、簡単なことで、このあたりは若いカップルが多く、一緒に買い物に来るんだけれど、支払うのは男性が多かったということだった。つまり、購入を決定するのは女性だったけれど、データではそれはわからなかったと言うわけなんだ」
「あり得るわね。データに頼り切るのも考え物ね」
「そう。マーケティングをするものは、現場に行かなければいけないという言葉を証明する事例だね」
(続く)
《1Point》
・POSシステム(Point Of Sales system):販売時点情報管理などと略す
バーコード読み取りや顧客情報の入力が出来るようになったPOSレジなどを使い、コンピューターで情報の一元管理をするシステムを言う。
売れ筋商品・死に筋商品の把握や各店舗の在庫管理を集中的にすることが出来るため、スーパーやコンビニチェーンなどで利用されている。
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