居酒屋で経営知識
111.KFSを押さえる
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
商店街に提灯が下がっている。夏祭りの準備だ。
「よお!ジンさん。これから、居酒屋みやびへ出勤かい?」
大森さんが遠くから怒鳴っている。
「もちろんです!大森さんは、まだ、仕事ですか?」
「祭りの準備が忙しくてねえ。ちょっと今日は無理みたいだ。黒さんによろしく言っといて!」
「了解!」
商店街から駅に抜ける路地に入るとみやびの赤提灯と縄のれんが見えてくる。
「へい、いらっしゃい!ジンさん、毎度!」
いつものダミ声だ。
カウンターに腰を下ろすと亜海ちゃんが生ビールを持って飛んでくる。
「亜海ちゃん。そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「はーい。でも、外は暑いでしょう。早く涼んでもらわなくっちゃ」
「サンキュウ」
「あ、いらっしゃい。待ち合わせだったんですか?」
雄二が来た。
「お、ジンに出遅れたか。亜美ちゃん、俺も生ビール頼むよ」
飛んできた。
「乾杯!しっかし、こう暑いと何にもしたくなくなるなあ。ジンも、外回りじゃ大変だな」
「まあ、最近はどこへ行っても冷房が効いているからな。安い喫茶店も多いし、なんとかなるさ。ところで、どうなんだ、コンサル先は」
「まあ、若干行き詰まっているかな。メーカーの常なのか、自分の工場の合理化はがんばるんだが、他社や顧客の話になると定型的な話になってしまうんだ。何か、きっかけとなる分析とかないだろうか」
「めずらしいな。やけに下手に出てきてるじゃないか。気持ち悪いが、この前までの話からあんまり進んでいないみたいだな」
「そういうことだ。生産管理で止まっていると思うんだが、彼らは随分進歩したと思っている。それが歯がゆいんだ」
「なるほど。視点を変えてみたらどうだろう。同業他社や市場自体をもっと分析して、特に、トップ企業を調べるという課題を出して、勉強してみるといいかもしれない」
「いわば、ベストプラクティスだな。でも、放っておくと、生産ラインの研究になっちまうかもしれない」
「KFSを見つけ出すという目標にしてみたらどうだ」
雄二がうんざりした顔をする。
「また、アルファベットかよ。キーなんとかだな」
「Key Factor for Successの略で、あんまり日本語の用語は聞かないなあ。文字通りで考えれば、成功のためにキーとなる要因ということだな」
「それで、どうやって見つけ出しゃあいいんだ」
「市場分析ではあるんだが、ベストプラクティスを行って、その企業が成功している要因は何なのかを抽出するんだ。強みになっているのは何なのか。それをどういうやり方で発揮しているのかをつなげるといいだろう。『今、業界で一番成功しているKFSは何か』を見つけ出すんだ。そして、もうひとつ。顧客の声を集めるといいかもしれない。そうすると、企業側のKFSと顧客の声がどうマッチしているか、見ることができる」
「難しそうだな。ベストプラクティスは何とかなるが、顧客の声というのはどうやらせたらいい?」
「BtoBで企業相手なんだから、直接聞きに行ったらいいさ。いつもの営業マンだけじゃなく、技術者も入れたチームで巡回して、何を求めているのか率直に聞いてみることだな。自分たちの強みやトップ企業の強みに対する感想や『あったらいいな』を聞くんだ」
「外に目を向けさす効果はありそうだな」
「トップ企業のKFSと顧客の声、それに自社の強みを並べてみると、きっとあるべき姿と実力のギャップに気づくはずだ」
雄二がウンと頷いたのを見て、生ビールのお代わりを頼む。
「うーん、うまい。みやびのKFSは、それぞれの酒の特徴にあわせた絶妙な温度での提供に違いない」
「ジンさん、褒めすぎですよ。気は遣っていますがね」
「雄二。この顧客のニーズに合った効果的な戦略が、みやびのKFSだ、ということだ。わかったかな」
「わかったような気がしてきた。まずは、あいつらにやらせてみて、また相談するから頼むぞ」
「よし、じゃ、今日はおごりだな」
「なに!・・・そのビールで勘弁してくれ」
《1Point》
・KFS(Key Factor for Success)
事業を成功させるためにキーとなる要因
Key Success Factorとして、「KSF」ということもあるようです。使う身になるとややこしくて困りますね。
KFS自体は、当たり前といえば当たり前で、どんな企業でもそれを探して事業を行っているはずです。
ただし、KFSは不動のものではありません。
外部環境の影響を受け、また、顧客の嗜好の変化に応じて変化します。つまり、継続して成功をするためには、常に、このKFSの変化を捉える努力が必要というわけです。
ベストプラクティスを分析しているうちに、顧客ニーズとのギャップを見つけられれば、それが次のKFSかもしれません。
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