居酒屋で経営知識

(10):4つの原理(2)サポート

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「いらっしゃい。毎度。ジンさんと由美っペが来てますよ」

「また、二人のデートの邪魔をしちまったなあ。亜海。ビール頼むよ」

「はーい」

「鳶野さん。邪魔しちゃったって言いながら隣に座るのお?」

「気を遣うと、結局、自分だけ置いてけぼりにされるからね。また、予習なんてしてるんだろ」

「さすが。ひがみ根性は鋭いな。今週末は、由美ちゃんが参加できないって言うんで概略を話してるんだよ」

「そういうことか。じゃあ、俺は予習になるな。ま、そんな目で見てないで乾杯つきあえよ」

「乾杯!」とジョッキを合わせる。

「鳶野さん。空豆食べますか?」

「お、大将もちろんだとも。ちょっと腹にたまるものも頼むよ。腹減った」

「焼き鳥でも焼きますか?」

「あれ?みやびに焼き鳥なんてあった?」

「宴会コースが入った時には作るんですよ。普段は、串焼きはしないですがね。今日は、早い時間にコースが入ったんで多めに刺しておいたんですよ」

「そりゃいいや」

「ところで、ジンさん。次の原理はサポートよね。鳶野さんが焼き鳥食べてるうちに話してもらわないと進まないわ」

「そりゃそうだ」

「やっぱり、人を邪魔者にしているな。まあ、耳はそっちに向いてるからやってくれ」

「まずは、ラグビーでのサポートについてだけど、ラグビーって、前後半40分ずつで80分が試合時間になるんだ。これは、スキルフルラグビーの中で書かれているんだけど、その80分の試合時間のうち、1人のプレーヤーがボールを持っている時間はどのくらいになるか調べたらしい。すると、いろいろな試合で計測してみたけど、1分に満たないという結果が出たんだ。それが本当なら、あとの79分間は何をすべきかという問いになるんだ」

「うーん。確かに、1人のプレーヤーがボールを持ち続けるというのはないかもしれないな。すぐパスをするか、タックルされた倒されるか、蹴ってしまうか、あとは・・・あれか、密集の中でどこにあるのかわからない状況かな」

「雄二の言うとおりだね。じゃあ、自分がボールを持っていない時間をどう過ごすのかという点が重要だ。まず、当たり前だけど、今、ボールを持っているのが誰なのかを把握しなければいけない。その状況で、自分の役割を果たすために最適な位置に動き続ける必要があるんだ。つまり、今、自分がサポートできることは何か、次、自分にボールが回ってくる状況はどう予想できるかを判断し続け、位置を変えるんだ。

また、自分がボールを持った場合、その瞬間は自分が全体のリーダーになる瞬間なんだが、そのままトライというケースはほとんど無いはずだ。密集を作るのか、誰かにパスをすることになる。特に、パスを投げた場合には、もちろん自分の位置がボールより前だからスピードを落とすと同時に、次のプレーヤーがミスをした場合を想定し、後方へ走り込む動きを想定して位置を取る場合が多いということだ。

この自分がボールを持っている以外の行動は、すべてサポートということになるんだ」

「もしかすると、組織の前進というのは、その時ボールを持った人を前進させるために全員でサポートするということにつながるのかしら」

「そういうこと。組織の前進というのは、いかにも自分の役割に集中して、少しでもボールを先に進めるということばかり気にしがちだ。それだけじゃなく、他のメンバーが、ミスをした場合を想定したより思い切ったサポートと組織全体の動きを判断しながら一番いい状況で対応できるように準備をすることが必要なんだ」

「そうか。ビジネスで考えると自分の作業が終わったら次に回してそのままではいけないということだな。まずは、次の作業にミスがないように直接サポートする。そして、次に自分が対応する場合に備えて、準備するということにあると。まあ、わかったような気がする」

「下流へのサポートは、情報の伝達だけで考えると分かりやすいかもしれない。例えば、お客さんから直接聞いた営業担当者は、どんなに詳しく次の作業をする設計担当者に説明しても、お客さんのその時の反応や微妙な言い回しなどは伝えきれないだろう。それだけじゃなく、割り切らざるを得ないところもあり、下手をするとお客さんにとっては重要な点を後回しにしてしまうなんてことも良くある話だ。そこは、設計担当者の考え方や業務の途中の様子などを営業担当者が細かくチェックすることで少しでも防ぐことが出来ると思う。そこがサポートの一つということだ」

「なーるほど。自分の回したボールである情報や加えられている付加価値の状況をチェックするということだな」

「そう。そして、更に、他のメンバーは自分が動く前に、それらの進捗やサポートによる修正も把握することが重要だ。つまり、一番いい状況で対応できるような準備をすることが必要であり、これもサポートの一つなんだ。要は、人任せにしてサボる人がいないことが79分間のサポートなんだ」

「All for One.ね」

「2人とも的確にサポートしてくれるから助かるよ。それじゃ、ビジネスにおいて全員サポートを機能させる必要条件も考えてみよう」

「そうねえ。まずは、ラグビーのようにグランドでやっている訳じゃないから、情報の共有が大事じゃないかしら」

「俺は、良くあるピラミッド組織とか、人に任せられない上司のいる組織じゃ、ダメなんじゃないかと思ったな」

「2人ともいいね。雄二の言うように、他部門に対してもある程度の権限が持て、各自の責任に応じた自主判断が重視されるフラットな組織が必要になるだろう。もちろん、由美ちゃんの言う自分の関わっている案件・プロジェクトなどの状況がリアルタイムで把握でき、双方向のやり取りが出来るコミュニケーションシステムが必要だろうね。それと、それらのサポートを評価できる仕組みも必要だと思うんだ。特に、直接部門はある程度分かりやすいけど、間接的に関わる人についても評価できる仕組みが必要だと思う」

「間接部門の評価ね。結構難しいんじゃないか」

「ヒントだけ言っておくと、ちょっとしたサポートに対して、『ありがとう』って入れるだけの仕組みを作って、それを評価の対象とするということもあるよ。Facebookにある『いいね』を社内のイントラで使えるようにするとか、アナログで『ありがとう』って書いたカードを渡すところも実際にあるんだ」

「へえー。いろいろ考えると楽しそうね」

「仕組みって言うのは、一度つくっておしまいじゃなくて、常に進化させていく必要があるんだ。考えることが、ビジネスの基本だろ」

「そりゃそうだ。なるほど。亜海。お代わり」

「じゃあ、俺も。由美ちゃんも飲む?」

「もちろん。原理はあと二つあるけど、いけるかなあ」

(続く)


《1Point》
・ラグビーの4つの原理

(1)前進:個人ではなく組織の前進である
(2)サポート:チェックをし、準備をする
(3)継続:止まっているプレーは後退である
(4)プレッシャー:主導権は相手にある

 サポートについて書きましたが、ここでもわかるように、原理はそれぞれが独立している訳ではありません。

 前進を意味のあるものにするには、すべてのメンバーがサポートするという気持ちと行動が必要になります。

 前回の4つの原理(1)前進で漫画のスライドをつけてますが、ボールが次に渡るとその後ろに走り込むという単純なサポートで描いています。実際は、バックスプレーで描いているので、みんなが団子になることはないのですが、常にサポートをするというところだけは確認してください。

 次回を乞うご期待。