居酒屋で経営知識
(9):4つの原理(1)前進
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「いらっしゃい。毎度」
「大将。週末はありがとうございました」
「休みなんだから、いくらでも使っていいですよ。勉強は進みましたか?」
「ええ。メンバーがみんな気心しれてますので、やりやすいです」
「そりゃ、そうでしょうね」
「はーい。ジンさん、生ビールね」
「亜海ちゃん、サンキュー。また、生ビールの季節になってきたね。乾杯!」
「お疲れ様でした」
「うまい!生き返るよ」
「ジンさん、週末はお疲れ様でした」
由美ちゃんがやってきた。
「いやー、楽しかったよ。今週末は来られないんだって?」
「ええ、そうなの。あ、亜海ちゃんありがとう。じゃあ、ジンさん、改めてお疲れ様でした」
いつの間にか、由美ちゃんも生ビールをゴクゴク飲むようになってたんだなあ。
「え?ジンさん、何?」
「あ、いや。いい飲みっぷりになったなあって感心してたんだ」
「いつも、ジンさんのおいしそうな飲み方見てたから、自然にそうなるわよ」
「そういうことかなあ。まあ、いいや」
「それでね、ジンさん。今週末、参加できないから、どんな内容なのか、ちょっと教えて欲しいの。メインの4つの原理の話になるんでしょ」
「ああ、そうだね。ラグビーの4つの原理からどうビジネスの組織マネジメントに繋げるかと言うところだからね」
「きっと、一番の胆よね」
「そうかもしれないね。じゃあ、ざっと説明してみようか。原理の(1)は、『前進』だったよね」
「ええ。組織としての前進ということよね」
「それが一番のポイントだよ。この考え方は、業務のプロセスにおいて、個々がバラバラに進んでしまうと全体としての効果的な前進につながらないということにあるんだ。成果を考えるときに、途中での評価は組織として前進しているのかという問いかけが必要なんだ」
「ラグビーの比喩で、ボールは後ろに投げながら前に進むというのがあったわよね。それを、ビジネスの具体例にするとどうなるの?」
「そうだね。例えば、BtoBの受注生産型の仕事で考えてみようか。まず、営業担当者がお客さんから、何らかの課題を聞いてきたとするよね。このお客さんから獲得した課題というボールを会社に回して顧客満足というゴールにトライするという目標を達成するのが成果と考えるんだ」
「わあ、面白い。そういう比喩だとわかりそうね。この場合は、ボールが情報なのね」
「そう。営業担当者が情報を獲得したとき、この会社の業務プロセスを、営業→設計→製造→品質保証という簡単な流れとしてみると、設計以降の下流工程には何の情報も具体的な検討もないと言う点で営業が一歩前進していて、設計に情報を流したときは情報量と情報の質は劣ってしまっているよね」
「そうね。この場合、設計の担当者はお客さんの課題について、まだ詳細は掴んでいないから、遅れてついていくということよね」
「そうそう。そして、営業から設計にお客さんの困っている課題について解決策の検討依頼をするところで、ボールが設計に回されたという考え方をするんだ。同様に、設計で何らかの検討をし、対策案を考え、それを製造部門に製品での具体化を依頼するとすると、そこで製造部門にボールが回っている。こんな風に、継続するんだけど、組織として前進しているかどうかという判断は、最初に営業が課題を受け取った時より、周辺情報や価値を加え、解決につながるようなアイディアが出ていることが基準になると思うんだ。場合によっては、情報に抜けや間違いがあったり、検討したけど、実際には作れないような無理なアイディアだったとすれば、それは前進ではなく、後退しているか、ボールを落としてしまった状態と考えられる」
「おもしろーい。本当にラグビーでボールを回しているような感じに聞こえるわ。もし、いい検討をすれば、設計部門が前進して、更に製造部門にボールを回すのね。そして、使いやすくて課題を解決できるものを作れればここでも前進ということね」
「設計で検討したものを更に具体化し、よりよいものを作れるなら、更に全体の前進と言うことだよ。そして、更に、品質がお客さんの求める基準を超えていれば、大いなる前進だよね。例えば、それがお客さんに受け入れられて、契約成立となったら、いわばトライをしたという考え方になるよ」
「やったー。ナイストライ!」
「そこまで喜んでもらうと嬉しくなるね。でも、単純に回していいものを作るだけじゃいけないよ」
「え?そうは簡単にいかない状況があるのね」
「もちろん。ラグビーだって敵がいる訳だから、自分たちの都合のいいボール回しだけじゃ、タックルされて、ボールを奪われるのが関の山さ。つまり、ボールを回すというところとそのボールを出来るだけいい形で前進させるだけじゃなく、効果的なタイミングと正確さで次の部門へパスをする必要があるんだ」
「ああ、そうね。時間がかかりすぎたり、中途半端なまま回してしまえば、ライバルに先を越されるとか、次の部門がミスを犯すことになるかもね」
「由美ちゃんの理解が早くてまとめやすいよ。その通り!」
「えへへ。でも、比喩としてはよくわかるんだけど、実際にビジネスの現場ではどんな風にして、組織の前進に繋げればいいのかしら」
「ここでは、前に学んだことのある考え方が使えると思うんだ」
「何なに?」
「チェスター・バーナードの組織成立の3要素を覚えている?」
「ええ。共通目的・貢献意欲・コミュニケーションの3つよね」
「すばらしい。参ったね。つまり、組織の前進のためには、経営理論などの共通目的がメンバー全員に浸透し、向かう方向を間違っていないこと、一人一人が目的に向かって貢献する意欲があること、そして、常にコミュニケーションをとって、情報の修正や新たな情報の追加を行うことが条件となるんだ」
「すごーい。そうか。3つの要素によって、組織を成り立たせると言う考え方が、組織の前進のチェック要素になるってことなのね」
細かな説明は必要だけど、具体的なサンプルで説明できるようにすることが、この理論の必要条件かもしれないと気づいた。
特に、ビジネスの現場でのミスの原因を説明できれば、より分かりやすくなると思うな。
「ちょっと早いと思ったんですが、空豆が入ったんでゆでてみました」
「初物ですね。夏も近づきましたね」
「おいしい。ビールに空豆ね。もう少しするとお決まりの枝豆にバトンタッチかしら」
「そうだね。季節のパスワークも嬉しいね」
(続く)
《1Point》
・ラグビーの4つの原理
(1)前進:個人ではなく組織の前進である
(2)サポート:チェックをし、準備をする
(3)継続:止まっているプレーは後退である
(4)プレッシャー:主導権は相手にある
前進について、例を出してみましたが、文章だけでついて行けましたか?
以前研修講座用に作成した漫画がありますので、スライドショーでみられるようにしてみました。
実際には、みんなが後ろに回り込むのではなく、次のプレーのために分散するのですが、そこは単純化しました。
チェスター・バーナードの組織成立の3つの要素については、何度か出ていますので、バックナンバーか私のHPで確認してみてください。
例えば、以下のページがあります。
→http://bit.ly/12eQpty
→http://bit.ly/13WyOEI
単に、ボールを回すように成果を回すのではなく、常に、目標と成果について、すべてのメンバーが理解し、状況についてのコミュニケーションを取ることで、大きなゲインを達成できるのです。
そのためには、次なる(2)サポートや(3)継続が重要ともなるのです。
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