居酒屋で経営知識

86.顧客に聞け

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「へい、いらっしゃい。毎度」

 縄のれんは今日も快く受け入れてくれた。

「ジンさーん。入り口で何をブツブツ言ってるんですう?ビールが温まってしまうわ」

「あ、亜海ちゃん。サンキュー。最近、縄のれんの店が少なくなったなあって言ってたんだよ」

「亜海も不思議だったんですう。普通は布ののれんですよね」

「大将はなぜ縄のれんにしたんですか?」

「残念ながら、そんなに意味はないんですよ。師匠の店が縄のれんだったんで、自然にそうなりました。でも、布の奴よりしっかりしているのでいいですよ」

「そういや風でバタバタしないし、風通しもいい感じですよね。昔は開けっ放しの店が多かったから、ハエが入ってこないっていう人もいましたが」

「確かにハエが入らないようにっていうのはあったなあ。最近じゃ、ハエも減ってるけどね。おっと、いらっしゃい。毎度」

「北野さん、早いですね。早く着きすぎたと思ったんですが」

「新田さん。出先から直接来ましたんでね。夏になってくると、夕方会社に帰ることが減るんですよ。一日中、暑い外と冷房の室内の繰り返しで疲れる気がしますね」

「そうですね。営業の方は温度管理が大変だって言ってましたね」

「去年からの節電で、極端に冷えるところは減りましたが、暑さがなかなか引かないのでやっぱり大変ですよ」

「そうですね。今年も節電の夏が始まりましたからね」

 軽く乾杯し、最近の知的資産経営関係の情報交換をしていた。

「そういえば、ジンさん。前に、強みの抽出には、やはり定番のSWOT分析だって言ってましたよね」

「そうですね。軸がしっかりしているから、一番無難ということですがね」

「今悩んでるんですが、外部分析は割とまとまりやすいんですが、内部分析が明確に出てこないんですよ」

「それはやっぱり難しいですからね。自分の強み・弱みほど、本人が一番知らないって言うじゃないですか。それじゃ、こんな見方にしてますか?

・内部分析は外から見る
・外部分析は内からみる

ということで、自社の強み・弱みというのは外から見た評価と考えるんです」

「あ!なるほど。内部の人間だけで考えていると、外からの視点が持てないってことですか。そうすると、外部の視点というのは外から誰かに入ってもらうということですか?」

「それもできればいいかもしれませんが、難しいですよね。一番いいのは、お客さんに聞くことだと言います。アンケートができる状況なら、率直にいいところと悪いところを書いてもらうとか、まあ、直接聞いてしまうのがいいと思います」

「なーるほど。悪いところはなかなか言ってもらえなくても、いいところは集まるかもしれませんね」

「そういうもんですよ。重要なのは、弱みよりも強みですから、いいところだけ言ってもらっても十分ですよ。弱みの方が、自分でも見つけやすいですから」

顧客に聞け、ですね」

知的資産経営に限りませんが、顧客抜きに考えるものというのは無いんです。ドラッカーの言った言葉に、『企業の目的は顧客の創造である』というのがありますね」

「ええ、知ってます」

「目的からぶれないためにも、顧客視点を忘れないようにしてください」

「わかりました。さっそく明日、みんなにやり方を変える報告をします。確かに、お客さんに聞くというのはいろんな意味でいいかもしれません」

「自らを見直すには、直接聞いた言葉というのは大きいですよ。それと自分の強みを明確にするにはもう一つ方法があります」

「あ、それも是非」

「これもドラッカーの言葉からなんですが、フィードバック分析というのがあります。これは、すぐに結果が出る訳ではないので、長期的に見直していくツールとすればいいと思います」

「フィードバック分析ですか。なるほど」

「まずは、この数ヶ月、1年で何を達成したいかを書き出して、それを数ヶ月毎に期待と実際の結果を照合していくという作業を続けるというものです。ドラッカーはこれを死ぬまで続けたと言われています」

「うわー、すごいですねえ。しっかり目標や期待することを書き留めて、それを繰り返しチェックすると言うことですね。これはいいことを聞きました。自分でもチャレンジしたいですね」

「新田さんは確実にやりそうですから、怖いですね」

「そんなことありませんよ。飲み過ぎると怖いというのは時々言われますけど」

「そうですね。最近一緒に飲むようになって、酒豪ってこういう人かなって思ってますよ」

「あ、北野さんまで。北野さんに言われるとその気になってしまいますよ。それが危ない。自分の限界を超すと全く記憶が残っていないことがありますのでね。これだけは避けなければ仕事を失いそうです」

「記憶が無いだけで、たぶん変わってませんよ。そこは保証します。でも、飲み過ぎに注意というのは我々全員が気をつけなければいけませんね」

「はい。適量で楽しくいきましょう」

「じゃあ、改めてカンパーイ!」

(続く)


《1Point》
・フィードバック分析

「強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。何かをすることに決めたならば、何を期待するかを直ちに書き留めておかなければならない。そして、9ヶ月後、1年後に、その期待と実際の結果を照合しなければならない」
(P・F・ドラッカー「明日を支配するもの」P194 上田惇生訳ダイヤモンド社)

 テーマは「顧客に聞け」ですが、思わずフィードバック分析を出してしまいました。

 個人であっても、組織であっても、目標を決めて、その成果を定期的に把握・分析する地道な活動が、成長につながると思います。

「明日を支配するもの」のAmazonリンクを貼っておきます。

→(87)SFA