居酒屋で経営知識
36.製造業の原価計算
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いしま
す」
年末年始の休暇も終わり、通常の勤務になったとは言え、今週・来週は業界の賀詞交換会や顧客への新年の挨拶周りがほとんどで、正直落ち着かないのが恒例だ。
「へい、いらっしゃい。ジンさん、まだ、樽酒ありますのでどうぞ」
「へえ。この時期まで残るなんて珍しいですね」
「今年は、皆さん、休みが多かったですから、やっと、常連さんも来だしたところですのでね」
「では、改めまして、あけましておめでとうございます」
「本年もどうぞご贔屓にお願いいたします」
だるまストーブに当たりながら樽酒を枡で一杯。暖まったところで、定位置に座った。
「いらっしゃい。山口さん、あけましておめでとうございます。新年も東京ですか?」
「挨拶周りがありますので、昨日から東京に来ているんです。あ、北野さんもやっぱり来てましたね。あけましておめでとうございます。昨年はありがとうございました。本年もよろしくお願いします」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。さあ、まずは樽酒からいきましょう。それでは、乾杯」
「いいですねえ。大将、このお通しスゴイですね。お節料理ですね」
「みやび名物だよ。一人暮らしの常連にとっては、ありがたいよ」
「そうでしょうね。いただきまーす」
店の中は、新年会として仕事帰りに寄っている会社員のグループが多く、お節のお通しに驚きの声を上げながら、賑やかに祝っているようだ。
山口君も仙台でのお正月の様子を話しながら、杯を重ねていった。
「あ、新年早々ですが、メーカーの原価計算について教えてもらいたいんですが」
「それは、いいですね。これまで、どちらかというと小売店が分かりやすいので、商業中心でしたからね。でも、突然どうしたんですか」
「いやー、年始に地元で同窓会をしたんですが、そこでメーカーの友人がいて、彼のところは、注文生産が主で、我々なんかが買いたたくけど、大変なんだという話になったんです。その中で、価格を決める時に間接費の考え方が難しいというのがポイントだと言われたんです。確かに、材料費とか人件費などの直接費を計算するのは簡単だけれど、総務・人事・経理などの間接部門の人件費や経費もあるし、製造機械の損料とか、建物の費用をどう反映するのかと考え出したら、なんかとてつもなく難しくなってしまったんです」
「なーるほど。注文生産となると特に難しくなりますね。生産をする前に、顧客のニーズに合わせたコストを想定して、かつ他社との競争を意識しながら見積をしなければいけないですからね」
「そうなんです。買う側からすれば、こちらで仕様を決めますから、直接使われる材料費とか、大体どのくらいの人件費をかけて作るのかは評価できますけど、間接的にかかる費用とかは、会社によって全然違う訳ですからね。安けりゃいいと言っても、きちんとした品質や将来の保証を考えるとそれなりの設備や会社としての体制も必要ですから、それも何らかの間接費となる訳ですよね」
「そういうことですね。了解しました。製造業の原価計算について、簡単にまとめてみましょう。数日中に、まず、簡単なレジメを作りますよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「大概念だけ、ちょっと話しておくと、小売業などでは売上原価のほとんどは、他社からの仕入れ累計になるので分かりやすいけど、製造業だとこの売上原価の多くの部分が自社で発生するため、常に変動するとも言えますね。製造業での原価を製造原価と言い、材料費・労務費・経費に分類するのが原則です。そして、先ほどからの話のように、それぞれ、直接費と間接費があります。つまり、直接材料費と間接材料費、直接労務費と間接労務費、直接経費と間接経費と言うことになります」
「なるほど。損益計算書の売上原価の部分が、製造原価になる訳ですね」
「そうです。製造業の場合、この中身を明らかにするため、製造原価報告書というのが作られることが一般的ですね」
「そこがポイントになる訳ですね」
枡に樽酒のお代わりをしながら、新年は製造業の原価計算でスタートした。
(続く)
《1Point》
・製造原価報告書の一般的な項目を書き出すと以下のようになります。
1.材料費
(1)期首材料棚卸高
(2)当期材料仕入高
合計
(3)期末材料棚卸高
当期材料費
2.労務費
(1)賃金
当期労務費
3.経費
当期経費
当期製造費用計
期末仕掛品棚卸高
合計
当期製品製造原価
(35)謹賀新年2014←
→(37)活動基準原価計算(ABC)