居酒屋で経営知識

59.経営者の条件(12)強みによる人事

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。毎度」

「大将。今日は暑いよ~。亜海ちゃん、生よろしく」

「はーい。蒸し暑いですねえ」

「ジンさん、冷たいおしぼり、どうぞ」

「うわー。気持ちいい。夏に向かってますねえ」

 亜海ちゃんの速攻生ビールを呷りながら、冷たいおしぼりで額を拭った。確かに、蒸し暑い一日だった。

「お通しに、酢の物を用意したんですが、トマトも食べますか?」

「いいですね。真っ赤に熟したトマトですね」

「北海道の平取から入ったんですよ」

「平取のトマトですか。そのまま丸かじりします・・・・うまい。やっぱり、味が濃いですねえ」

「ジンさんが、トマトの話になると平取、平取って言うモンでね。平取って言うだけで仕入れてしまいましたよ」

「でも、当たりでしょ。正直言うと、平取にキャンプに行った時に、お祭りみたいなイベントで無料で食べ放題だったトマトが、うまくて、うまくて忘れられないんですよ」

「ジンさん。毎回同じ話聞いてますよ」

「やばい。俺も歳取ったかなあ(^_^;)」

 確かに・・・

「いらっしゃい。おお、由美っペか。ジンさんは着いてるよ」

 勉強会の打合せをすることになっていたんだ。

「じゃあ、まずは、乾杯」

「おいしいー。やっぱり、暑くなるとますますビールがおいしくなるわね」

「由美ちゃんの飲みっぷりも暑さを吹き飛ばしそうだ」

「ええ?ジンさん、どういう意味かしら。立ち上がって、腰に手を当ててグイッとという想像したような気がするわ」

「ピンポーン。だんだん、似合ってきたよ」

「もう。年頃の女子を捕まえて、オヤジのイメージをつけないでよ」

「由美っペは、ここでオヤジさん達の相手ばかりしていたからなあ・・・」

「あ、叔父さんまでそんなこと言ってるし。もう知らない」

 相変わらずのみやびの風景だった。

「ところで、由美ちゃん。今度の勉強会はファシリテーターを頼むよ」

「あ、ええ。そのつもりよ。次は、第4章の『人の強みを生かす』ね。人事の話が中心だから、興味深かったわ。ここは、日常的な課題として感じるところが多いから、意見が多く出そうね」

「そうだろうね。由美ちゃん自身は、この章を読んで特に気になったのはどんなところ?」

「そうね。やっぱり、ドラッカーの原理として『強み』よね。それを、組織人事というものの中で、どう生かし、何をしてはいけないかっていう視点で見ていたわ。個人経営などの小さな組織では、弱みが大きな問題になることもあるけど、ある程度の規模の組織になれば、弱みは全く無視してもいいって言ってると思うわ」

「うん、なるほど。最初の事例にも、リンカーン大統領の逸話が物語っているね」

「グラント将軍の話ね。酒好きという弱みを参謀から指摘されたリンカーン大統領が、その銘柄を他の将軍にも贈るように言ったというのは、強みに基づいて人選することを徹底するということだったわ」

「そうそう。リンカーン大統領も当初は弱みのない人を選んで失敗した経験で学んだと書いているよね」

→「大きな強みをもつ者はほとんど常に大きな弱みをもつ」(P103)

「ここの文章なんてドラッカーらしいわ。とにかく、組織というものは、人の弱みを意味のないものにしたという言い方で、徹底している」

「人事の厳しさという点で言うと、直接の同僚や部下とは親しくしないという記述もあるよね」

「ここは、ちょっと困惑するところね。それと、当時の欧米の人事考課制度について、日本の大企業が批判的だったことや日本の制度が人の弱みを重視しないと言っている点も、みんなの意見を聞いてみたいわ」

「確かに。終身雇用制度のおかげで、人を自由に動かせないため、常に組織の中で仕事のできる人を探し出すからだって言ってるね。理想から遠いけど、弱みには目をつぶって、強みを探し出している点は評価しているね」

「やっぱり、人事となると簡単に割り切れないかもしれないわね。うまくコントロールできるか、緊張してきたわ」

「由美ちゃんなら大丈夫さ。とにかく、みんなに語らせることが重要だからね」

「了解しました、北野先生」

「背中が痒くなるよ。じゃあ、お代わりいこうか」

「はい!」

 まだ、6月だが、確かに今年の夏がやってきた。次の成果を求めて、進んでいくしかないな。

(続く)


《1Point》
経営者の条件」ドラッカー名著集1 上田惇生訳 ダイヤモンド

http://amzn.to/rXd8ai

 この章の前半部分について話題に挙げています。

 強みによって人を動かすというのは、実際組織で人事について考えている身としては、難しいですね。

 仕事が先か、人が先か、という短期的な繁閑の中での人のやり繰りというのが、現実にあります。

 時には、この仕事はあの人じゃなければダメだということで、組織は変わったのに仕事は変わらないとか、とにかく、忙しいので異動させるとか、皆さんの周りでもよく聞きませんか?

 今回、話題にしていませんが、後半で、「『手放せない。いなくては困る』という声に耳を貸してはならない」という部分があり、この辺も明確に指摘しています。

 気になる方は、P122当たりを読んでみてください