居酒屋で経営知識

58.経営者の条件(11)貢献への焦点

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

 ドラッカー読書会が続いている。

「ブライアン看護師の原則については、随分と意見が出ましたが、そろそろ時間も押していますので、残りの部分へいきましょう」

 ファシリテーターをしている雄二が、似合わない敬語で先へ進めている。由美ちゃんと目が合うと同じことを感じているようだ。

「次のページ以降でチェックが付いた方は?ええっと、では、桑原さんでしたね。いかがですか」

「私は、91ページのゼネラリストにチェックをつけました。何となく、スペシャリストが狭い領域で、ゼネラリストは広い領域を担当する程度で考えていましたが、ここでの定義になるほどと思ったんです」

→「ゼネラリストについての意味ある唯一の定義は、『自らの知識を知識の全領域に正しく位置づけられる人』である。(P91)

「ゼネラリストとスペシャリストの違いについて、何か考え方が変わりましたか?」

「ええ。ここで言っていることは、スペシャリストであっても、自分の専門としての成果を組織全体、もしくは、その関係するプロジェクト全体への貢献として仕事ができるのがゼネラリストで、本来、すべてのスペシャリストがゼネラリストになる必要があると言うことではないでしょうか」

「え?そんなことまで書いてるとは思わなかったけど」

 隣の席から疑問の声が上がった。

「でも、複数の専門知識を持っているだけではダメだと言ってますよね。そのうえで、貢献を考える人は、専門分野を全体に位置づけると解説しています。つまり、知識社会における組織の中で貢献するためには、象牙の塔の中で自分だけの研究をしている人を良しとしていないようです。すべての知識労働者は、それぞれの分野での専門家として、他のメンバーへの貢献となるように成果を伝達し、役立ててもらうことを考えなければいけないんだと思います」

→「しかし自らの貢献に責任をもつ者は、その狭い専門分野を真の全体に関係づけることができる」(P91)

「なるほど。まだまだ、読みが浅かったです」

「次の方は?どうぞ」

「はい。次の話になりますが、貢献に焦点を合わすことで、基本的な能力を身につけることができると言っていて、つまり、実際の業務で貢献を考えることが成果のための能力アップにつながると言うことですよね。ここで、業務を通じたトレーニングというか、能力のブラッシュアップの仕方が書かれているのが新鮮でした」

「能力のトレーニングやブラッシュアップというとらえ方自体が素晴らしいですね。この部分で、気になった方はいますか?」

→「われわれは貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、チームワーク、自己啓発、人材育成という、成果をあげるうえで必要な四つの基本的な能力を身につけることができる。」(P93)

「コミュニケーションについて、上司から部下への下方へのコミュニケーションは不可能だと言っているのが、ええ?という感じでした。普段から、コミュニケーションを取るために、上司は部下との個人面談や飲み会に誘うように言われていますよね。でも、それでは、『部下は上司がいうことでなく、自分が聞きたいことを聞き取る』ことになるだけだと言うんですね」

「ええっと、それだと、どうすればコミュニケーションを取れるんですか?」

「たぶん、ここで言っているのは、コミュニケーションを取ろうとして自分の意見を言おうとするのが違うんじゃないでしょうか。たとえば、『あなたに期待すべきことは何か』とか『あなたの知識や能力をもっともよく活用できる道は何か』と聞くんですね。そうすると、部下は自ら貢献することを考えて、上司とのコミュニケーションにつながっていくんです」

「難しい表現ですね。上司から部下へコミュニケーションを取ろうとすると、どうしても、自分の考えを押しつける結果になり、ところが、部下は、自分の都合のいいように解釈するとも取れますね。つまり、相手のすべきことを相手に考えさせることで、一方通行でない議論につながるんじゃないでしょうか。上司も、部下の考えている貢献でいいのかを考えることになりますから、自分の考えを押しつけることが出発点にならないということが重要なのかもしれません」

 なかなか議論が白熱した。

「先生。ここでも会議についてがありますが、ここをチェックしました」

「そうですね。どんなところが気になったんですか」

→「したがって成果をあげるには、会議や報告書やプレゼンテーションから何を得るべきかを知り、何を目的とすべきかを知らなければならない。」(P97)
→「会議を成果あるものにするには、会議の冒頭に、会議の目的と果たすべき貢献を明らかにしなければならない。」(P98)

「成果については、こんなところですが、その他に、司会と発言の両方をすることはできないというのは考えさせられました」

「ほう。どう考えたんでしょう」

「よく考えると、この勉強会でも、鳶野先生は司会をして、実際の発言には入らず、全体の方向をコントロールしていますよね。これは、勉強会だからではなく、目的をもった会議においては、必要条件なのかもしれないと気づいたんです。議論に加わって発言する人が議長役をしてしまうことは多いと思います。特に、自然とトップが議長になるとすると、議長が最終決定者になりますから、下手に反論もできないです」

「なるほど。司会も、普通は会議の議論には加わらないですよね。我々はファシリテーターと言って、単に司会進行だけじゃなく、目的への道筋を明確にして、かつ、参加者が脱線しないようにコントロールする訓練を受けています。つまり、これが、会議の成果のために必要な役割だと思っています」

 確かに、勉強会も目的を明確にし、成果をあげるようにコントロールが必要だということで、会議についての考え方と同じなんだと気づいた。

(続く)


《1Point》
「経営者の条件」ドラッカー名著集1 上田惇生訳 ダイヤモンド

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 貢献に焦点を合わせるということについて続いていますが、皆さんにとっての貢献とはなんでしょうか。

 なかなか明確な答えを出すことが難しいとは思いますが、常に問い続けることが一番重要であると感じています。

 コミュニケーションについてのところで言っているように、伝えることがコミュニケーションではないんです。相手に考えさせ、相手の考えを引き出すことがコミュニケーションにつながるということなんだと思います。

 あなたは、あなたの組織で、相手に考えさせるような問いを伝えていますか?それをやってみたらどうでしょう。