居酒屋で経営知識

57.経営者の条件(10)ブライアン看護師の原則

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「鳶野先生。私が気になった部分は、三つの領域における貢献という部分です」

「亀田君。どうして、そこが気になりましたか?」

「はい。普通、貢献というと『直接の成果』への貢献を言われると思います。会社での評価においても、中心は自分の担当する役割において最大限の成果をあげるための貢献を見ていると思います」

→「なすべき貢献には、いくつかの種類がある。あらゆる組織が三つの領域における成果を必要とする。すなわち、直接の成果、価値への取り組み、人材の育成である」(P81)

「それは、よくわかります。では、ほかの二つの貢献については、今後、評価の対象にすべきと考えますか?」

「そうですね。評価をするのは難しいと思いますが、組織の役割として価値への取り組みと人材の育成は必須なので、取り組んでいるかどうかという点での評価をすべきかもしれません」

「深山君は同じ意見ですか?」

 同じフレーズにチェックしていた深山君に発言を求めてみた。

「ええっと。評価はできるんじゃないでしょうか。価値への取り組みというのは、一つには顧客ニーズとして優先順位をつけた価値に対し、いつまでに、何をするかをあらかじめ設定しておけば、それの到達度として評価することは可能です。それは、人材育成でも同じだと思います」

「そうか。深山の言う通りかもしれません。個々人の評価というより、組織評価やもしかすると組織長の評価項目とすればどうでしょう」

 亀田君が追加で発言し、次の発表者へ続いた。

→「貢献に焦点を合わせるということは人材を育成するということである。人は課された要求水準に適応する。」(P83)
→「貢献に焦点を合わせるということは、責任をもって成果をあげるということである。」(P84)

「この二つは同じ言葉を説明していますが、初めの方は、人材を育成する点を挙げ、二つ目では変化に対応するということを言っているようです」

「なるほど。ブライアン看護師の原則の事例を挟んで同じことを言っていますね。このブライアン看護師の原則との関係はどう考えますか?」

「これは、貢献とは何かについて、組織すべての関係者に正しい判断を示す問いになっているんでしょうね。そういう意味で言えば、三つの領域をそれぞれ考えることでなくても、このような問いが組織全体に示されていると、組織メンバーが常に貢献に焦点を合わせることができるという事例ではないでしょうか」

 「ブライアン看護師の原則」とは病院において、「それは患者さんにとっていちばんよいことでしょうか」と問い続けたブライアンという看護師が病院全体の指針となった例でした。難しい問題が起こった時、「この答えに、ブライアン看護師は満足するだろうか」という合言葉の元、更により高い貢献を目指す答えを探し出すのが習慣になっていたと言います。

「ブライアン看護師の原則は、みんなにとってのビジョンの再確認になっているのだと思います。つまり、このような問いは、まさにマネジメントが示すべきもので、常に互いに声に出して確かめ合うことで視点と水準を高めるのでしょう」

→「さらには組織内の人たち、つまり上司、部下、そして他の分野の同僚に対し、『あなたが組織に貢献するためには、私はあなたにどのような貢献をしなければならないか』『いつ、どのように、どのような形で貢献しなければならないか』を聞けるようになる。」(P90)

 更に議論は深まってきて、歩みはゆっくりとなっている。

(続く)


《1Point》
「経営者の条件」ドラッカー名著集1 上田惇生訳 ダイヤモンド

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 貢献へ焦点を合わせることは、非常に中心的な部分でしたので、先に進むのを止めてみました。

 ブライアン看護師の原則についての部分は本書で読んで欲しいと思いますが、重要なところですので、以下に転記します。

 新任の病院長が最初の会議を開いたとき、ある難しい問題について全員が満足できる答えがまとまったように見えた。そのときひとりの出席者が、「この答えに、ブライアン看護婦は満足するだろうか」と発言した。再び 議論が始まり、やがて、はるかに野心的な、まったく新しい解決策ができた。
 その病院長は、ブライアン看護師が古参看護師の一人であることを知った。特に優れた看護師でもなく、看護師長をつとめたこともなかった。だが彼女は、自分の病棟で何か新しいことが決まりそうになると、「それは患者さんにとっていちばんよいことでしょうか」と必ず聞くことで有名だった。事実、ブライアン看護師の病棟の患者は回復が早かった。
 何年か後には、病院全体に「ブライアン看護師の原則」なるものができあがった。みなが「目的とするものに最高の貢献をしているか」を常に考えるようになっていた。
 今日では、ブライアン看護師が引退して10年が経つ。しかし彼女が設定した基準は、彼女よりも教育や地位が上の人たちに対し、今も高い要求を課している。

(同書P84)

 このような問いをみんなが口に出し、常に確認し合う組織は継続していくでしょうね。ミッションやビジョンを掲げていてはいても、トップやそれぞれの上司が本当にその言葉を大事にしているかどうかは、みんなが感じていると思います。

 掲げるだけではダメです。全員が日常の中で口に出すようにリードしなければ、お題目でしかありません。

 あなたの組織では、どうですか?