居酒屋で経営知識
(80):経営戦略の基本:PPM(2)
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
(前回まで)
亜海ちゃんにBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の開発したPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)について、説明しています。
事業について、市場成長率と相対的市場占有率でどのような段階にあるのかを判断します。
その分類が以下の通りです。
(市場成長率を『成長率』、相対的市場占有率を『シェア率』とする)
(1)花形製品:成長率『高』、シェア率『高』
(2)金のなる木:成長率『低』、シェア率『高』
(3)問題児:成長率『高』、シェア率『低』
(4)負け犬:成長率『低』、シェア率『低』
(前回からの続き)
「でも、ジンさん。負け犬に分類されたら撤退も検討すると言うのはわかるけど、他の分類についてはどう使っていくのかしら」
「説明してなかったけど、事業には一般的にライフサイクルがあると言われているんだ。新たな製品を生み出していくとすると、
開発期→導入期→成長期→成熟期→衰退期
というライフサイクルを描いていくという考え方なんだ。つまり、これをPPMに当てはめると、開発期は別にして、
導入期→成長期 →成熟期 →衰退期
問題児→花形製品→金のなる木→負け犬
というように対応できるわけだ。
逆に言うと、「問題児」を早く「花形製品」に育てるために、キャッシュを産んでいる「金のなる木」の資金を重点的に投入するという決定を行う考え方を提供するとも言えるんだ。わかるかな」
「あ、それぞれの事業は、ライフサイクルの段階の違うものを扱うことで分散投資になるとも言えるわけね」
「そうだね。とはいえ、問題点も多い考え方ではあるね。今のライフサイクルの考え方だって、同じような形で成長し衰退するわけでは無いだろ。なかなか芽が出なかったり、いきなり売れ出したり、逆に、急に売れなくなるなんてことも、いろいろな要因でありえるから、単純に事業戦略として採用するのは難しいと言われている。また、
・4つに分類するため、高い・低いの評価しかなく線引きが難しい。
・「負け犬」と評価された事業を担当する従業員のケアをどうするか。
・あくまでも既存事業しか評価できず、新規事業を位置づける方法が無い。
などの問題点が挙げられているんだよね」
「わかるわあ。私だって、『負け犬』なんて言われて、やる気が出るわけ無いもの。経営者がその時点での現実的な判断をするためツールで使うくらいにして、社員に公開しない方がいいんじゃ無いかしら」
「そうだろうね。一つには、多角化した事業を評価する時に使うということが多いみたいだ。多角化は失敗する確率も高いと言われているから、投資を増やす事業と縮小・撤退の事業を明確にせざるをえないんだと思うよ。そこで、思い切りよく選択と集中をするために使われるんだろうね」
「そうかあ。でも、すっきりしたわ。ありがとうございました。あ、今、生ビールのお代わり持ってきますね」
「あ、お願い。大将。今日もちゃんこ鍋にしたいので、準備お願いします。それまで、鮭トバかじってます」
「はいよ。そういえば、ジンさんは、最近北海道へ行ってないんじゃないですか?」
「そうなんです。休暇に石垣に行ってしまったこともありますけど、仕事があまり動いてないんですよ。でも、そろそろ昔のお客さんの顔でも見に行こうとは思ってます」
「今度、ついでがあったら、何かうちで扱えるような乾き物見繕って来てもらえませんか?もちろん、すべて買い取りますので」
「そういえば、大将も、最近、地方周り出来てないんじゃ無いですか?」
「そうなんですよ。最近、休みの日に和食教室の講師をやったりしてて、ゆっくり食材や酒を見て回る時間が無くなってしまって。それで、ジンさんにお願いしようかなあって勝手に考えていました。出来れば、北海道で最近人気が出ているようなものも調査して来てください。もちろん、調査のための飲食代はうちの経費で処理しますんで」
「おいしい話ですね。まあ、今度行って、いいモノを見つけた時は、買ってくるか、仕入れ先を調べてきますよ」
「よろしくお願いします。これで、気になっていたことがすっきりしました」
「あ、マスターもすっきりしたなんて、ジンさんのおかげで、2人ともすっきりさせてもらいましたね」
「あ、ほんとだ。ジン様様です」
「もう、おだてるとその気になりますよ」
「ははは。じゃあ、鍋の支度に入ります。亜海。ガス台準備して」
「はーい」
(続く)
《1Point》
前回書ききれなかった分ですが、PPMの問題点と考えてもらって結構です。
とはいえ、線引きをよく考えた上で、一度、自社の事業について見直して見るきっかけにはなると思います。負け犬に分類されても、簡単には撤退できないどころか、それが、メインの事業だったりするかもしれません。
その時は、冷静にいろいろな視点から事業の見直しをしてみてください。
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