居酒屋で経営知識
(76):経営戦略の基本キーワード(1)
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
今夜は残業で遅くなったのが良かったようで、みやびを一人で貸し切りにしてしまった。仕事をあがった亜海ちゃんとカウンターで経営談義をするというのも面白い経験だ。
「亜海ちゃんがそんなに飲めるとは思わなかったよ」
「へへ。いつもはお仕事ですから」
「亜海にはほとんど毎日出てもらっているんで、友達との飲み会も行かせてやれてないんですよ。すまないなあと思ってますよ」
「そんなことないですよ。ここで働いているおかげで学校へも行けるし、就活も出来るんですから、感謝してまーす」
「そういえば、亜海ちゃんもそろそろ就活本番になるんじゃないの」
「今年は、結構スタートが遅くなっているので助かってます。それより、ね、マスター」
「ジンさん、実は、ここの常連さんが外資系の企業の日本法人社長と仲が良くて、そこに亜海を紹介してくれたんです。正式にはもちろん就活の時期になってからなんですが、結構いい筋になっているっていうんで、そこへ行くかもしれませんね」
「へえー。そりゃ、おめでとう」
「早いですう。まだ、内々定も出せない時期なので、下手に人に言うとダメになるって脅かされてます」
「あ、そりゃまずい。聞かなかったことにするよ」
「そうだった。亜海に叱られちまうな。口にチャックをしておくよ」
「安心してるといけないので、いくつかは受けてみようと思ってます」
「そうだね。いろいろな会社の話を聞くこともいいと思うよ」
「と言うわけで、ジンさん次の話いいですか?」
「え?あ、そうか。経営戦略の話が途中だったね。基本事項だったよね。じゃあ、良く出てくる言葉の説明でいいかな」
「お願いしまーす」
「そうだなあ。シナジー、ドメイン、成長ベクトル・・・アンゾフマトリクスかな。とりあえずは、このくらい話しておくね」
「うわー。やっぱりカタカナ語ばかりなのね。でも、シナジーっていうのは、良く聞くわ。他は、ドメインもインターネットで聞いたことがあるわ」
「なるほど。シナジーってどんなときに聞いたの」
「えっと。良く研究室の教授が使っているわ。たとえば、他の研究室の研究生と一緒にやるんだから、シナジーを発揮させろとか、他の分野の人とシナジーが出ていないとか、かな」
「言葉としては同じだから意味も同じと考えていいだろうね。日本語にすると相乗効果と言われているけど、まさに、既存の資源を組み合わせて1+1が2ではなくて、3とか4にするような効果を目指すということを言うんだ」
「経営戦略でのシナジーって、たとえば、他の会社を買収して売上をそれぞれの実績を足したより上回るような効果を上げるっていうことになるのかな」
「さすがだね。大きいところから来たね。確かに、M&Aを戦略として考えた時にも、このシナジー効果がどれくらいあるかというのが大きな意思決定の条件になるね。一般的に言うと、経営資源を有効に活用することを言う言葉で、分類すると、投資シナジー、生産シナジー、販売シナジー、経営管理シナジーに分けられると言われているんだ」
「うーん。ちょっと難しくなってきたわ」
「投資シナジーというのは、工場とか機械設備への投資や研究開発投資を検討する場合、既存の設備を共有したり、他の研究成果を共有することで二重投資を避け、より効率的な投資効果をだすことを言うんだ。
次に、生産シナジーも同じように生産設備とか、原料などを他社や他事業部門と共有することで得られるものだね。中小企業同士で組合を作って、設備を共有するなんて言うのも一つだね。
販売シナジーは、文字通り、販売の経路(チャネル)やブランド、広告を利用して効果を狙うことが考えられるね。
経営管理シナジーとなると、経営者とか、専門管理者のもっている経験とか、ノウハウを生かすものと言われている。
分類はどうあれ、それまで別々で行ってきたものを一緒にしたり、組み合わせたりして、より効率的な運用によってより大きな成果を上げるという考え方だね」
「分類はいろいろあるけど、大学で使っているシナジーと言う言葉と一緒と考えていいのね」
「そういうことだね。企業が、新しい事業を始める時に、いかに既存事業とのシナジー効果があるかという視点で考えることが重要と言われているんだ。つまり、まったく関係のない事業を始めてしまうと、既存の事業の足を引っ張ったり、単に、別会社を作っただけと同じことになってしまい、共倒れになってしまうことがありえるんだ。出来るだけ、シナジーを発揮できるものが多くあると、多角化する意味が出てくると考えられるんだね」
「なるほど。新しい事業を始める時も、既存事業の強みを活かせるといいと思うわ」
「おお。その通りだよ。シナジーが効果を発揮するのは、まさに強みを活かせるところにあると思うよ。さすがだね」
「えへっ。誉められるとうれしいな」
「次は、ドメインだね。亜海ちゃんの知ってるドメインって何?」
「インターネットでドメイン名ってあるわよね。確か、メールアドレスの@以下をドメイン名って言うって聞いたわ」
「そうだね。インターネットのドメインというのは、謂わば住所のことだね。たとえば、gmail.comというのは、gmail.comという家があると考えて、その前、つまり@の前が、そこに住んでいる個人名となるわけだ」
「わー、そうなんだ。そうかあ。よくわかるわ。そうすると、経営戦略のドメインもその住所のようなもの?」
「考え方は一緒だけど、そうだな、活動領域とでも言うかな。自分の良く口にする説明は、『誰に、何を、どのように』提供するかを明確にした活動領域と言ってるんだ」
「誰に、何を、どのように、というのね。ちょっと住所とは違うわね」
「『誰に』、というのは、まさにターゲットとする顧客は誰かということで、『何を』は、その顧客のニーズであり、『どのように』がそのニーズを満足する商品・サービス・手段という関係なんだ。つまり、これが、企業が戦う製品・市場分野であり、活動領域ということになる」
「住所と言うよりは、戦場かなあ。戦場じゃ、過激かなあ」
「考え方は戦場でいいと思うよ。実際、企業はそこで他社などと戦うことになるわけだからね」
基本的なキーワードを説明するのは、結構難しいものだ。亜海ちゃんのコメントも結構ドキッとさせられる見方があるので、まさにシナジー効果を生みそうな気がした。
(続く)
《1Point》
経営戦略論で出てくる頻出用語をピックアップしてみました。
特に、シナジーは日常的によく使われますので、分かりやすいとは思いますが、企業経営に関して言うと、多角化をテーマにした場合に、必ず、このシナジーを考えてください。
もちろん、中小企業診断士の2次試験では、企業が多角化を目指していたり、多角化経営がうまく言っていないという事例があったら、シナジー効果の視点が「必ず」必要です。
また、ドメインという考え方も、私は何度も何度も取り上げていますが、企業が存在する意味であるミッションと共に、必ず明確にするべき視点です。
現在のドメインと目指すべきドメインという比較で考える場面も多いと考えられます。
企業についての事例が出されたら、この企業のドメインはどこか?と書き出してみることが重要です。
つまり、この企業のこの事業は、誰に、何を、どのように売っているのか、これからどうしたいのか?という視点です。
それが明確でないと、企業診断は出来ません。
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