居酒屋で経営知識

81.知的資産経営報告書作成の流れ

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

北野先生

先日はありがとうございました。
大森会長とも再度お話をさせていただき、具体的に知的資産経営の指導をさせていただく企業もしくは個人店舗を紹介いただくことになりました。

つきましては、半端な指導にならないよう事前に勉強させていただきたいと思います。

先生も書かれている『知的資産経営が中小企業を強くする』を購入し準備していますが、できましたら早い時期にご指導願えないでしょうか。

お忙しいところ、ご無理を言いますが、なにとぞご配慮をいただきたく、よろしくお願いします。

新田 拝

 みやびで飲んだ数日後、堅苦しいメールが送られてきた。
 もちろん、全面協力する予定なので、さっそく週末の時間で調整し、勉強会をすることにした。

 ただ、みやびで由美ちゃんや雄二に迫られることになるとは思っていなかった。

「ええー。私の知らないうちにそんな話になっていたの?もちろん、私も参加させてくれますよね」

「あ、別にかまわないけど、中小企業診断士の受験前だろう。直接に受験対策になるならいいけど、具体的すぎるから時間的に難しいと思うよ」

「うーん。そう言われると・・・そうよねえ。でも、内容は絶対に後で教えてね」

「まあ、そういうことだな。俺も受験生だし諦めるが、経過は教えてくれよな。試験が終わったら、俺の会社の指導を頼むってのもありだろうな」

 雄二の参戦だ。

「雄二も由美ちゃんも、今は受験生として頑張るとして、知的資産経営については、これからメジャーにやっていくから、晴れて診断士になったら一緒にやればいいだろう」

「了解。約束ね。早く試験終わらないかしら。さすがに疲れが出てきたわ」

「由美ちゃん。ちょうど2ヶ月前になるから、そろそろ受検指導校の模擬試験を受けてみたら。気分転換になるし、他の受験生と顔を合わせることでやる気が出ると思うよ」

「そうね。いくつか有名どころを調べたんだけど、2つくらい受けてみるつもりよ」

「じゃあ、俺の学校の模擬試験も受けてみろよ。一般の受付を今週やってるぜ」

「鳶野さんと直接対決ね。忘れないで申し込むわ」

 ところで、中小企業診断士の仲間と共同出版した「知的資産経営が中小企業を強くする」では、中小企業基盤整備機構のマニュアルに準拠しているため、ある意味一般化されている。

 今回、商店街の個店を対象にすることからかみ砕いて再検討しておく必要があるだろう。

 新田さんにあらかじめ示しているのは、

(1)事前準備:商店街の状況や対象個店の扱い製品の状況などはあらかじめ調査しておく。時間を掛けないですむようにカスタマイズしたヒアリングシートを作っておく。

(2)経営者ヒアリング:ヒアリングシートに基づいたヒアリングを行うが、信頼関係が重要なので、まずは、これまでの歴史や思いを十分に聞くことから始める。

(3)分析と方針決定:できるだけ、経営者の思いを中心に強みを見つけ出す。事前の業界情報などを加味し、方向性を見えるようにしていく。

(4)作成:知的資産として抽出した強みがいかにして生み出され、育ってきたのかというストーリーを大事にし、これからの維持・強化などへ繋げていく。

(5)検証・承認:過去~現在~将来のストーリーの整合性を検証し、経営者の承認をもらう。

(6)開示・フォローアップ:具体的な開示方法や対象など慎重に検討し、計画的なフィードバックを行うようにする。

というアウトラインだ。

 大森さんが話をつける店がどんな店なのかによって味付けを変える必要があるだろう。
 
 
(続く)


《1Point》
知的資産経営報告書作成の流れ
 一般的な流れを以下に抜粋しておきます。

事前準備>
 ヒアリングを進めていくに当たっての既知の情報を整理し、あらかじめヒアリングシートなどに記入するなどし、経営者等に対し、必要以上の負担感を持たせないことがスムーズに進めるコツの一つである。

確認と整理>
 対象企業においては、まず、経営者ヒアリングを行うことが重要なポイントとなる。
 この中で、「知的資産経営報告書」を「誰に」「何のために」作成するのかについて共通認識を確認し、スケジューリングや役割分担を行う。
(1)これまでの経営哲学、経営方針、戦略を確認する
(2)これらに基づく「過去~現在」の投資実績と業績を確認する
(3)現時点でステークホルダーに開示している企業概要をまとめる。過去に作成した企業概要や企業紹介パンフレット、企業史などの資料を整理・活用することも必要である。

分析と方針決定>
(1)自社の強み・弱み、収益の機会・脅威について整理、把握する
(2)自らの強みの源泉となっている知的資産を的確に認識・評価すると共に、それに対する脅威と脆弱性の分析(リスク分析)を行うことが必要である。
(3)経営の方針を明確にし、管理指標として知的資産の業績向上への寄与を表す指標(知的資産KPI)を特定する(見える化の技術)

作成>
(1)「過去~現在」のストーリー化
価値創造の源泉である知的資産を「如何にして生み出され蓄積してきたか」という視点で記述する。
(2)「現在~将来」のストーリー化
「その蓄積したものを如何にして維持し、強化(獲得)し、業績に繋げていくか」といった将来の計画に一貫性を持たせる。
(3)開示方針の確認と報告書の整合性確認
「誰に」「何を」開示するのか。対象者のニーズとの整合性を確認する。

検証・承認>
開示方針との照合、分析から戦略方針までのストーリーの整合性などを検証する。また、経営者の最終的な確認と承認を行う。

開示・フォローアップ>
具体的な開示の方法やスケジュールを決定する。また、開示後の問い合わせ対応やフィードバックによる今後の対応を決める。

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「知的資産経営が中小企業を強くする」

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