居酒屋で経営知識

74.期待値・分散・標準偏差

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「あ、ジンさん。いらっしゃい。そういえば、先日は由美っペを花見に誘っていただいてお世話になりました」

「いえいえ。受験勉強だったはずなんですが、やっぱり花見宴会になってしまいました」

「あいつも、真面目すぎるところがありますので、たまには息抜きをさせたいと思っていたんですよ。助かります」

 先日の花見では、1時間ぐらいは勉強できるかと思ったが、マーケティングの基礎のさわりで終わってしまった。まあ、予想されたことではあるが。

「はい、ジンさん、エビスの生でーす。私も、連れて行ってもらえば良かったなあ。もう、桜散ってますもんねえ」

「亜海ちゃんは花見しなかったの?ごめん、ごめん。元々、中小企業診断士の受験勉強のつもりだったからなあ。声をかければ良かったね」

「私も診断士の勉強しよっかなあ」

「亜海。やめてくれよ。由美っペだけでも大変なのに、ジンさんがうちに来なくなっちまう」

「ははは。大将、大丈夫ですよ。これでも喜んでやってるんですから。飲む方はきっちりやってますし、時々、奢ってもらう理由に使えますしね」

「まあ、ジンさんがそう言っていただければ気が休まりますが」

「マスターもジンさんも心配しなくても大丈夫よ。こう見えて、勉強は全然続かないから」

「オイオイ。何を自慢してるんだか。亜海ちゃんも好きなことなら続くはずだよ・・・」

「へい、いらっしゃい。あ、鳶野さん。先日は、由美っペがお世話になりました」

「まあ、ちょっと、診断士の心得なぞを教えただけだから、飲み代タダにしてくれとは言わないが、一品サービスくらいかな」

「雄二、いい加減にしろよ。心得どころか、飲んでただけじゃないか」

「ジン、もう来てたのか。冗談、冗談だよ」

「まったく」

「鳶野さん、大丈夫です。由美っペにはジンさんはタダにしても、鳶野さんからは倍付けにしてって言われてますから」

「な、なにー。そんなバカな」

「あ、雄二。あの時のつまみ代、由美ちゃんに払ってないだろう」

「し、しまった」

 一週間ぶりの冗談話だ。雄二も生ビールを注文し、乾杯をした。

「なあ、ジン。花見の時、偏差とか分散とか言ってたろ。やっぱり、あれが気になってな。マーケティングのテキストだと、あんまり具体的に出てないんだが、試験問題には良く出るって言ってたよな」

「そうだな。もし計算が出るとすると、マーケティングより、直接『財務・会計』の問題で出てたかもしれないな。投資案の検討をするときの問題として出しやすいから、確か、俺が受けた時の2次試験で計算した記憶がある」

「やっぱりそうか。財務・会計なら計算問題が出ても仕方がないな。で、そうなると、一応、その計算方法なんかは、教えてくれないのか?」

「ん?それは、教えてくださいと言うべきところじゃないのか」

「まあ、そうだ。ジン殿、是非ともよろしく」

「生ニシンが入ったらしいから、報酬に焼いてもらうかな」

「友達とは思えない言葉だな。でも、生ニシンとは珍しいから焼いてもらうか。大将、よろしく」

「よろこんで!」

「焼き上がるまでに教えてくれよ」

「相変わらずだな。まあ、俺もその方がゆっくり食べられそうだな・・・」

「・・・そうだなあ。投資案の検討で良く出ると思うんで、期待値・分散・標準偏差とセットで覚えておいた方がいいだろうな」

「期待値・分散・標準偏差だな。で、どんな関係なんだ」

「たぶん、投資案同士を比較する問題の場合、期待値で比較するのが一番簡単な出され方だな。ただし、リスクを見るために、分散や標準偏差を計算することになると思う。例えば、期待値が同じ案件のどちらを採用するかという問題が典型だろう。その際に、分散や標準偏差が小さい方を選ぶことになる」

「ところで、ジン。その計算はどうするんだ」

「うん、ま、そうだな。期待値というのは、条件毎に期待できる収益とその条件が起こる確率を掛けたものの合計ということになる。例えば、

A条件の起こる確率20%:その際の収益100円
B条件の起こる確率70%:その際の収益60円
C条件の起こる確率10%:その際の収益20円

の場合、期待値は、それぞれに収益×確率を足したものだ。

つまり、

期待値=(100円×20%)+(60円×70%)+(20円×10%)
   =64円
   
64円がこの案件から期待できる収益ということになるんだ」

「うーん。そうか、ギャンブルの考え方にあるな。それに分散とか標準偏差ではどう見るんだ」

「なるほど。ギャンブルではよく使うかもしれないな。投資で回収できる平均的な収益ということになるからな。ただし、リスクの視点からすると、最悪の収益や最善の収益が期待値から大きく離れているかどうかも問題だ。つまり、期待値が同じものだったら、最悪の場合や最善の場合との差が非常に多いと期待値から外れる可能性もより大きくなると考えるんだ。分散と標準偏差というのは、期待値から外れる可能性を比較するものと言える」

「リスクとは予想から大きくぶれることを言うからな。意味はわかった。それで、分散と標準偏差の違いは何だ」

「基本的には同じだ。ただ、分散の計算式を見るとわかるが、二乗の計算で出すので、金額が大きくなるとものすごくでかくなる。そこで、それをルートの計算で小さくしてやるのが標準偏差の計算だと考えると分かりやすい」

「了解」

「さっきの案件を使って、分散を求めるとこうなる。

まず、各条件での収益額と期待値の差を取り、それを二乗したものにそれぞれの起こる確率を掛けて合計する。

つまり、

分散={(100円-64円)二乗×20%}+{(60円-64円)二乗×70%}+{(20円-64円)二乗×10%}

  =464円(二乗)
  
まあ、元の数字が小さいのでいいが、実際には単位も二乗されていることになり、期待値の64円と直接比較できないというのもわかるよな。

それで、標準偏差はこの分散の値を平方根で開くんだ。

標準偏差=√(分散) *分散をルートで計算する
    =√464円(二乗)
    =約21.5円
    
これが分散と標準偏差の値になる。

これだけだとよくわからないが、他の案件と較べるときは、この値が小さい方がリスクが低いと判断するんだ」

「なーるほど。二乗とルートが絡むから、電卓が使える二次試験用だな。これは練習しておかないと間違えそうだ」

「そういうこと。テクニカルには、電卓のメモリーボタンの使い方を練習することも必要だ。結構慌てて電卓の使い方を失敗する人もいるからな」

 
(続く)


《1Point》
・期待値:考えられる条件の変化を加味して出される
 *生起確率:全体で100%となること
 
 (期待収益×生起確率)+(期待収益×生起確率)+・・・

・分散:期待値からのばらつきを表します
 {(期待収益-期待値)×二乗×生起確率}+・・・

・標準偏差:分散の平方根。分散が二乗されるため期待収益との比較が出来ないため、標準偏差にすることが多い

 √(分散)