居酒屋で経営知識

100.打ち上げ

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「いらっしゃい。ジンさん、毎度。みんな集まってますよ」

 今日は、中小企業診断士の2次試験が終わった打ち上げパーティーをみやびで行うことになったのだ。

「いやー、みんなが集まるのって久しぶりだね。田中君、由美ちゃん、雄二、とにかくお疲れ様」

「疲れたー。でも、とにかく、ジンさんの言うように最後まで諦めず取り組んだわ。まあ、もうこうなると結果はどうでも良いって思える」

「俺もだ。細かい点は気になるけど、とにかく、事例企業をよくするにはどうしたら良いのかって何度も繰り返しながら取り組んだよ」

「北野さんの言うように、経営者の言葉や気持ちを忘れるなって言うことが、良かった思っています。でも・・・難しいですねえ。自信は全くないです。でも、やり切ったって言えますから」

「田中君。それで良いんだよ。結果は後からついてくるさ」

「私も田中のがんばりには驚いたよ。これからは、彼に影響された仲間がどんどん受験するって言ってるんで、会社としても最大限支援しようと思っている。1次で落ちてしまった木村、小川も来年リベンジだと気合いを入れていたしね」

「原島さん、それはいいですね。やっぱり、自分たちで学ぼうっている意識が高まると、企業にとっても良い文化になりますよ」

 今回、雄二、由美ちゃんと原島さんの会社の田中君が1次試験を突破し、2次試験にチャレンジしたのだ。みんなの集中力はすごかった。

「じゃあ、ジンさん。改めてみんなで乾杯しましょう。音頭をお願いしますよ」

「おっと、大将、了解しました。それじゃあ、まずは、皆さんの健闘をたたえて乾杯しましょう。かんぱーい」

( ^_^)/□☆□\(^_^ )

「うまい。これを待っていたよ」

 みんなうれしそうだ。

「発表は12月だから、これからどう過ごすかだね」

「まあ、これまで仕事を最小限にしちまったから、取り戻さんとな。社員に随分助けてもらったよ」

「雄二の会社でも、社長が受験したんじゃ、社員が受けるって言い出すんじゃないのか?」

「勉強会をしているメンバーはやる気だな。うちでも、原島さんのとこのように支援するよ。確かに、この勉強は経営の基礎を学ぶには良いと思ったよ」

「確かに、仕事を考え直すにはいいと思うよ」

 原島さんがふと気づいたように質問した。

「受験生として、診断士の勉強をしていて実務に役に立ったというのはどんなところだろう」

「そうねえ。ジンさんから口酸っぱく言われた、ドメインの明確化かしら。自分の会社のドメインを改めて考えたわ」

「なるほど。ドメインというと戦う場所だと言ってたよな」

「原島さん、さすが。戦略ドメインとも言いますが、誰に・何を・どのようにするのかという3つの要素を考えることで明確化するのが一般的です」

「それは、俺も社員に口酸っぱく言わせてもらっている」

「僕は、基本に戻ってミッションを意識しました。診断士の試験でも、創業者の思いって、結局はその企業の本来のミッションなんだって感じたんです。そうやって考えると、原島社長の言っているミッション経営もわかってきた気がしたんです」

「なるほど。やっぱり、この試験は基本を見直すにはいいのかもしれないな。ミッションを目指し、ドメインを明確にする意識が高まれば、会社を動かしやすくなるのは間違いない」

「原島さんの経営者としての方向性はしっかり社員に伝わってますよ」

「北野。お前のおかげだな。社員達からもまた北野達の研修を受けたいという声が増えている。大変だけど、また頼むぞ」

「それは大歓迎ですよ。研修メニューも今度打ち合わせさせてください」

「原島さん。ちょっとお願いがあるんですが」

「鳶野、どうした。真面目な顔をして」

「いつも真面目ですよ。いや、その研修なんですけど、うちの社員も一緒に参加させて貰えないでしょうか。今の仕事がどうしても内向きなんで、外向きに成果を上げつつある原島さんの社員と一緒に勉強すると良い刺激になるんじゃないかと思うんですよ」

「あ、雄二、それは面白いかもしれない。原島さんの会社にとっても良い刺激になるんじゃないかな」

「北野の言うとおりだ。それは、こちらからもお願いするよ」

「異業種交流会にもなるな。なんなら、由美ちゃんの会社からも参加してみたら」

「面白そう。人事に話してみるわ」