居酒屋で経営知識
(74):意思決定論
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「へい。いらっしゃい。ジンさん、毎度」
「いい季節になりましたね」
「少し前まで、店に入る人たちの表情は暑さにぐったりという感じでしたけど、やっぱり、ジンさんと同じようにみんな明るくなりましたね」
「更に今年は秋を感じるのが早かったですから、夏バテも回復してるでしょうね」
「はーい。ジンさん、生ビールお待たせしました」
「亜海ちゃん、サンキュー。じゃあ、食欲の秋に乾杯!」
「ジンさん。秋と言えば、キノコも欠かせませんので、鰆の山椒焼きに舞茸焼きを添えて出そうかと思ってるんですが試してみますか?」
「もちろんですよ。それじゃ、ビールはこの1杯にして日本酒にします。今日のお薦めありますか?」
「今日は、李白の特別純米ひやおろしが入ってますよ」
「あ、いいですね。今度、出雲大社に行こうと思って調べてたんです。行く前に飲めるなんて思ってませんでした」
「食中酒としてしっかりした酒を造ってますからね」
李白は李白酒造という島根県松江市の蔵元の酒なのだ。
鰆と李白を待つ間、生ビールを傾けながら、iphoneに目をやると野田君からメールが入っていた。
『北野先生
2次対策で企業経営論を復習しているのですが、意思決定論の4つのサイクルというのがありますが、PDCAサイクルとは違ったものと考えるべきなんでしょうか?似て非なるものというのが、結構多いので確認したいと思いました』
中小企業診断士の2次試験は財務会計以外で知識を直接問われる問題少ないと言える。そのため、切り口をいくつか持っていることが重要で、それで対応する方が抜けやダブりを防ぐことが出来る。そう、受験生には伝えていた。
『野田君
PDCAサイクル自体は品質保証や生産管理の手法ですが、問題解決に使うことも可能です。意思決定論の4つのサイクルとは、視点が違ってはいますが、大枠のプロセスとしては同様と考えて使ったらいいと思います。
再確認として整理すると、
【PDCAサイクル】
(1)Plan(計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する
(2)Do(実行):計画に沿って業務を行う
(3)Check(点検・評価):業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認する
(4)Action(処置・改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて処置をする
【サイモンの意思決定論】
(1)情報活動(inteligence activity):問題の発掘、発見の過程
(2)設計活動(design activity):実現可能な代替案の設計、分析の過程
(3)選択活動(choice activity):代替案の選択
(4)検討活動(review activity):選択活動で選択した結果の検討
となりますので、完全に1対1と考えると若干違います。これは、当然ながら日々の継続的な業務の改善プロセスと経営を左右する意思決定プロセスの違いですね。
意思決定においては、いきなりDO(実行)とはならず、当然ながら問題の分析に基づく決定すべき実行案を検討することが必要です。
しかし、大枠で考え、意思決定におけるDO(実行)は代替案(選択すべき実行案)の設計であると考えて、問題に取り組めば抜けやダブりを防ぐことが出来ます。
切り口はあまり細かく考えず、いくつかのパターンで覚えることが重要です』
ざっくりと返信を作成したところで、鰆が焼けたようだ。
「あ、山椒の香りがいいですね。また、李白がスッと流してくれますから、相性バッチリです」
「ジンさんのお墨付きですから、さっそくお品書きに書かせていただきますよ。亜海。お品書きを回収して、筆と墨を持ってきてくれ」
ここでは、お品書きを毎日大将が筆書きしているのも好きなところなんだ。それも、竹の皮なので味がある。
「秋の夜に 墨書きされた 鰆焼き。なんてね」
「え?ジンさん、もしかして俳句ですか?」
「俳句の詠み方もわかりませんので、雰囲気だけですよ」
「ジンさんも多趣味というか、人生の達人ですよね」
「大将。誉めすぎですよ。どれもこれも中途半端で、今のなんて俳句になっているのかどうかもわかりません。口から出任せですよ」
「会社の仕事、コンサルタントの仕事、食や酒の知識、スポーツマン、地域活動、各種ボランティア。私が知っているだけでもジンさんだけ1日が40時間くらいあるんじゃないかって思いますよ」
「ますます、恥ずかしくなってきました。なんとか、バランスをとって、迷惑をかけないように頑張っているだけですよ」
気恥ずかしくなって、鰆に添えられた舞茸をうっかり落とすところだった。あぶない、あぶない。
(続く)
《1Point》
ここ数回は、中小企業診断士の受験当時のテキストを見返しながら書いています。若干昔のテキストになるので、法律改正などが影響しない経営理論などを中心に眺めていました。
今回の意思決定論は、あまり記憶に残ってなかったのですが、割とページを割いて書かれていたので、念のため取り上げてみました。
詳細の説明はしてませんでしたが、それぞれの簡単な説明を入れておきます。
【サイモンの意思決定論】
(1)情報活動(inteligence activity):問題の発掘、発見の過程
現場での発生型の問題もありますが、組織の構造的な問題など表面に現れにくい問題を発掘することが重要です。そのためには問題意識をしっかり持つことです。
(2)設計活動(design activity):実現可能な代替案の設計、分析の過程
問題を発掘したらそれを解決するための代替案を複数検討する必要があります。一つしかないなら、意思決定の必要はありませんからね。
しかし、一つしか見つからない場合、それしかないと言うより、問題の掘り下げが足りない場合が多いと思われます。反対意見とその対策案が必要です。
(3)選択活動(choice activity):代替案の選択
まさに意思決定です。最善のものを選択しますが、組織としての方針に沿ったものであることが重要です。
(4)検討活動(review activity):選択活動で選択した結果の検討
ここが本来重要な部分です。PDCAでも何でも、結果を検討し、次の意思決定にフィードバックすることが必要です。
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