居酒屋で経営知識

38.外部ネットワーク

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「毎度。生ビールですね」

 縄のれんをくぐるたびに大将のだみ声が迎えてくれる。
 
 もう何年になるだろう。
 
「ジンさん、何をにやけてるんですか?」

「あ、いや、大将の声に聞き惚れてたんですよ」

「またまた。会社で何かいいことありましたか?」

「ほほー。ジンさんにめでてえことがあったって?」

「大森さん。また、あることないこと言わないでくださいよ」

「あることはあるんだろ。言っちまいなよ。楽になっちまいなよ」

「大森さん!何か変だ。言い方も変だし・・・」

「すまねえ。やっぱり変かね。どうも、商店街の活性化がうまくいかなくてイライラしてるのかもな。参ったよ。また、ジンさんにお出まし願いたいんだよ」

「ま、ま。大森さんもジンさんにビールくらい飲ませてあげてからにして」

「あ、すまん、すまん。亜海。ジンさんにビールって、もう来てたかい。じゃあ、カンパーイ」

 完全に大森さんのペースだ。
 
「ところで、大森さん。商店街がまた揉めてるんですか?」

「なーに、今に始まったことじゃないさ。ただ、この前、ジンさんたちに手伝って貰って、商店街の日常的なイベントを考えたんだが、メインの数店舗が反対し始めたんだよ」

「メインって、洋菓子店と肉屋さんでしたか」

「そうそう。あの店は、連日大賑わいでテレビに出たりしてるんで、なんとしても核にしたいんだが、全く違う業態の店が多いからうまくいかないなんて言ってるんだよ。ほら、うちなんて、一般消費者というよりプロの工務店が中心顧客だからシナジーなんてでないなんて、コンサルから仕入れた言葉を使いやがっているんだ」

「多様だからこそ、ネットワークで仕事をすることで増殖していくんですがね。全く違う世界の例ですけど、中小企業の製造メーカーが地域の多様なメーカーとあらゆるネットワークを広げて、各社では対応できない技術・品質・納期に対応しているんですよ。通常ならライバルになるような企業ともお互いの取引も含めたネットワークを繋げていくと思いもかけない広がりができるんです」

「へえー。メーカーのネットワークね。そりゃ、全く違う業態とはいえ、一度見学させて貰おうかね。洋菓子屋や肉屋も実際の成果を見れば考えが変わるかもしれない」

「自分の店だけでは、どんなに流行っている店でも顧客は限られてしまいます。それこそ、大流行のスイーツでもそのうちに普通の商品になってしまいますから、流行のスイーツ目当ての顧客は、いつしかやってこなくなってしまうかもしれません。商店街の強みは、開発された大ショッピングセンターには、絶対無いような業種や小さな店などにあると思うんです。だからこそ通常顧客としてターゲットとしない人も呼び込める潜在力があるんですよ」

「潜在力ね。そこだな。それがわかれば随分前向きになるんだがな」

「今まで来たことがないようなお客がふらっとやってきたり、変な注文されたら、それこそチャンスかもしれません。そんな、商店街の変化を取り上げる活動を地道に進めてください。さっきのメーカー群は東大阪市にあるんですよ。知り合いの社長がいますので見学の件、聞いてみてもいいですよ」

「そう来なくっちゃ。変なことに気がついたら書き込む運動ももう少し大々的に進めてみるよ。間違いなく最近客層が換わっているから、何かあるように思えるんだ」

「了解です。次の理事会に出席しますから、進めましょう」

「うん、元気が出てきた。よっしゃ、今日は獺祭でいこう。奮発だ」

「うちの店にも変化が出てきたかもしれないですね。またもやジンさんに感謝しますよ」

(続く)


《1Point》
 今回も中小企業白書の事例を参考にしました。
 
 外部のネットワーク、それも地元で顔をつきあわせることができるネットワークというのが胆かもしれないと思っています。
 
 今は、バーチャルでネットワーク型の業務を行っている例も出ますが、やっぱり地縁やフェイスツーフェイスの付き合いの中でつくられるネットワークの方が将来があるように思えます。
 
 まずは、地に足をつけた事例中心でいきましょう。
 
【事例:地元企業160社とのネットワークを活かし、柔軟な受注体制の構築に成功した企業】
 (出典:2010年版中小企業白書 事例2-1-4)P94
 
大阪府東大阪市の株式会社○○製作所(従業員50名、資本金1,200万円)は、1949年の創業以来、切削加工を行う企業である。

同社は、東大阪市という地の利を活かし、160社の企業とネットワークによって、素材調達、精密機械加工、熱処理、表面処理、組立まで一貫した受注生産を可能にしている。また、同社は、固有技術、生産技術により特注品から汎用品の生産まで幅広い生産体制を築いている。

顧客の需要が多様化する中、広げてきた取引先とのネットワークを用いて、他社の協力を得ながら自社単独で対応できない技術や納期等の注文に対応している。

同社の○○△△社長は、

「東大阪市では、多くの企業が営業部門を持たず、来る仕事をこなしている状況であり、東大阪市としてPRや営業力を高めていかないといけない。そのためには、当社のように自社で営業部門を独自に確保できるような規模の企業を、コア企業として受注力を高め、受注した案件を営業力のない小規模零細の企業に割り振るというような仕組みを充実させることが重要ではないか。」

と語る。