居酒屋で経営知識

33.営業キャッシュフローの計算

(前回まで:新年の営業部で、ジンの部下の山野綾にキャッシュフロー計算書の説明をしました。その後、2人でみやびへ飲みに行くことに・・・)

 商店街から路地に入って、若干暗い中に、暖かい灯りが漏れているのが、いつもの居酒屋みやびだ。
 
「いらっしゃい。やっと来ましたね。ジンさん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。・・・あれ、あ、年末にいらっしゃった部下の方でしたね。本年もよろしくお願いします」

 大将に続いて、由美ちゃん、常連の大森さん、近藤さんと新年の挨拶を交わした。
 山野綾も続いて挨拶をしている。
 
「年末に初めて来て、また来たいと思っていたのでうれしいです。山野綾です。本年もよろしくお願いします」

 とりあえず、いつものカウンターに2人で腰を掛けた。

「山野さん、生ビールでいい?飲めるんだったよね?」

「一緒でいいです。あんまり量は飲めないですが」

「大将。彼女も生でよろしく」

 いつもに比べて出てくるのが遅いなあと思っていると、業を煮やしたのか、大将がお通しを先に出してきた。

「由美っペ。生二つ大至急でな」

 しばらくしてジョッキが二つ並んだ。大将や常連のみんなにも向かって、おめでとう乾杯をした。
 
「おいしい。寒いから最近ビールは飲まなかったんですが、やっぱりおいしいですね」

「ここでは、ビールの温度管理もばっちりだしね。店の中が暖かいし、冬は乾燥するから本当は冬もビールの季節なんだよ」

「さすが、北海道仕込のビール党ですね」

「ははは。ビール党か。実は日本酒党が真の顔なんだけどね」

「へえー。私は日本酒はあまり飲んだこと無いんです」

「後で、大将においしいの紹介してもらうから」

「うれしい!」

 山野綾は、ジョッキの生ビールを大事そうに飲んでいた。
 
「そう言えば、北野さん。飲んでる席ですから、さっき言ってたキャッシュフロー計算書の件はいつか教えてくださいね。損益計算書とバランスシートで簡単に計算できるって言ってましたよね」

「そうそう。でも、ここは飲み屋だけど、しょっちゅう経営講座の会場になるんだよ・・・そうだ。由美ちゃん」

 さっきから顔を見せない由美ちゃんに声をかけてみた。

「はい。注文ですか?」

「いいや。ほら、去年、キャッシュフロー計算書の作り方教えるって約束してただろう。山野さんからも質問されているんだ。一緒に聞く?」

「いいんですか?」

「もちろん。そのかわり、ノートとペンは持ってきてくれるね」

 急に元気になったように、筆記用具を取りに跳ねていった。由美ちゃんが戻って、椅子を隣に持ってくると始めることにした。

「まず、キャッシュフローのうち、営業キャッシュフローを作ってみよう。ここに、診断士の問題に出ていた製造業の計算問題を持ってきたんだ」

貸借対照表と損益計算書サンプル

 2人が、簡略化した2ヶ年分の貸借対照表金額と損益計算書をながめている。
 
「キャッシュフローというのは、要は、損益計算書の利益額に含まれている実際には現金支払いをしていない金額を足して、現金として受け取っていない(回収していない)金額を引くという計算をすればいいんだ」

 由美ちゃんが資料をのぞき込みながら聞いてきた。

「この中に、支払っていないのに売上から引かれているものと入金していないのに計上されているものがあるって言うことなのね」

「簡単に言うとそうだね。考え方だけでいいと思うから、ややこしいことは別の機会にしよう。 まずは、税引前当期純利益をスタートにして、足すものと引くものを考えよう」
 
 山野綾が閃いたように口を開いた。
 
「損益計算書の減価償却費はそうね。後はどうかしら。人件費も支払っているし、利息とかも支払っているものよね」

「正解!減価償却費は自己金融効果を持つとも言われるんだ。つまり、損益計算上はコストとして計上されるので減税効果もあるということだね」

 山野に刺激されたように由美ちゃんも見つけ出す。

「こっちの貸借対照表に売掛金や受取手形があるわ。これは、まだキャッシュとして回収されていないわね。支払手形や買掛金なら、キャッシュの支払いはまだということね」

「そう言うことなんだ。貸借対照表には、キャッシュ化とのずれがあるものが多いんだ。ただ、なぜ2年分出しているかわかるかな?」

「ええ?増えたかどうか比較するためなの?」

「たとえばね。売掛金というのは、いつ支払があるかというのは契約で決められているのだけど、必ずしも決算の年度にすべて回収できるわけではないのはわかるね。そうすると、売掛金に計上されている金額には、前年度の売上になっているけど回収されていないものと、当年度の未回収が一緒になっている可能性があるんだ。ただ、キャッシュだけで考えれば、当年度の未回収額から前年度の未回収額を引いたものが当年度のキャッシュを増減させることになる」

「そうすると回収が進んで前年度より当年度の売掛金残高が減るとキャッシュは増えて、更に売掛金残高が増えるとキャッシュは減ると考えるのね」

「そういうことだね。買掛金などの仕入債務は逆に考えればいいということになる」

 山野が再度加わってきた。
 
「棚卸資産はどうなるんですか」

「これは売れていないから売上には上がらない。でも良く考えると、すでに作っているものだから、仕入コストは発生しているはずだよね。つまりここにも実際のコストが隠れている。支払のキャッシュが減る要件になる。つまり、棚卸資産が増えれば、利益は変わらないけれど、キャッシュは減っていると考えられる訳だね」

「あ。製造業だったら、製造コストには作っている人たちの人件費も入ってるんですよね。給料は毎月払っているけど、作ったものが売れないと損益計算では売上原価に入らないからその給料分はキャッシュが減っているのね」

「そうなんだ。そこが良く利益操作に使われたりするようなんだ。キャッシュフロー計算書を作ることによって、そんなことにも気づくことができるんだ」

 ここまで話してから、演習問題を使って実際に計算してみせることにした。

(続く)

《1Point》
営業キャッシュフローの計算

 中小企業診断士の2次試験の定番となりつつあるキャッシュフロー計算です。
 
 直接法・間接法がありますが、通常は間接法でやることになります。直接法が問われたことはありませんし、考え方を理解するためにも間接法がいいのではないかと思います。
 
 実際の計算については、別途ホームページへの転載の際に載せるつもりですので一週間後くらいに下のリンクより確認ください。

 文章式として一番簡略化したものは以下の通りです。
 
 (営業キャッシュフロー)=(税引前当期純利益)+(減価償却費)-(売上債権の増加額*)-(棚卸資産の増加額*)+(仕入債務の増加額*)-(法人税等支払額)
 
 *印がついたものは、それぞれ前年度からの増額金額を使います。減額の場合は金額に(-)をつけて計算してください。それぞれ反転することになりますね。