居酒屋で経営知識
54.八つの習慣(5)
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「最後の習慣か。その前に、もう一杯」
雄二が菊姫のお代わりをし、それなら時間的にいい頃だろう。
「大将。鍋、よろしく。雄二の勉強会ももうすぐ終わりますので」
「待ってました。ジン、よく言った。鍋の季節だよなあ。そして、みやびのちゃんこが食べられれば、言うこと無し」
「了解。それにしても、お二人。よくこんなザワザワしたところで勉強できるなあって感心しますよ」
「机に向かって勉強しても身につく話じゃないんですよね。なあ、雄二。そう思わないか」
「ジンの言うとおり。知識で動くと言うより、その言葉から自分が何を感じるか、そして、何を行動に移すかだから、飲み屋で仕入れるのが一番、だと思うけどな」
「そういうところは、さすがに経営者らしくなってきたな」
「お、ジンに誉められた。それじゃ、最後の習慣をやっつけちまうか」
菊姫を注ぎ合って、一息継いだ。
「最後の8つ目は、『私は』ではなく『われわれは』を考える、だ」
「自分よがりじゃいかんという警句か?」
「トップが考えるべきことは、自分のニーズと機会じゃなく、組織のニーズと機会だと言うことを厳格に守る必要があるからだ。だから、常に、われわれは、と言うことで、本当に組織について考えた結果なのか、自ら振り返ることになる。聞く人にとっても同様に伝わるだろう」
「われわれは、こうすると言えば、組織の代表として言っているというわけか。そりゃそうだな。俺はこれをしたいんだと言うんじゃ、社長のわがままか、となってしまう。一番分かりやすい習慣だ」
「それ故、厳格に守るべきだと言っている。習慣化するとは、考えなくても、行動や言葉に表れると言うことだな」
「当たり前のようで、実はなかなか出来ないことなのかもしれないな。よっしゃ。即実行と宣言して、鍋を待つか」
「うーん。おまけもあるんだけどな」
「おまけ?9つ目ということか。結構、ドラッカーもお茶目なんだな」
「聞け、話すな」
「わかった、わかった、聞くよ」
「いや、ドラッカーがおまけとして言ってるんだ。『聞け、話すな』ってな」
「聞け、か。つまり、それは、社員に押しつけるんじゃなくて、まずは、声に耳を傾けろということか」
「もちろんそうだろう。いや、それだけに限らんな。組織の外に対してもそうだ。顧客の声、取引先の声、そして、無関係と思われる人の声にも、自らの考えを押しつける前に、耳を傾けることだと思う。ドラッカーの言葉を拡大解釈すると、8つ目の『われわれ』を、顧客を含めた『われわれ』であったり、取引先を含めた『われわれ』として考え、口に出すということに繋がるんじゃないだろうか。『われわれは』と話し出すためには、『われわれ』に入れた人たちを知らなければいけないだろう」
「なーるほど。われわれは8つの習慣に取り組むために、われわれを考え、そして、われわれの鍋を食べようと締めたいな」
「いいだろう。ちょうどいい感じに煮立ってきたな。われわれの未来に乾杯!」
いつの間にか、ほとんど満席の店内のあちこちに、鍋の湯気が立ち上っていた。
(続く)
《1Point》
・八つの習慣
(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)「私は」でなく「われわれは」を考える
今回で、8つの習慣すべての話が完了しました。
ドラッカーは成果を上げるのは習慣だから、身につけられるんだと何度も何度も語っているのです。
そこまで言ってくれているんですから、悩んでないで習慣化して身につけましょう。
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