居酒屋で経営知識

(70):人事考課

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい。いらっしゃい。ジンさん、おっ、鳶野さんも毎度」

「生!」

「はーい。今やってまーす」

 注文の前に注ぎだしているので、さすがに早い。

「はーい。お待たせしました。生ビール二丁」

「乾杯!」

「うめー。亜海の注ぎ方がいいのかね」

「わあ、鳶野さん、ありがとう。うれしー」

「亜海ちゃんは、ビール会社の生ビール研修に参加してマイスター資格も取ってるんだから大したもんだよ」

「そうだったな。泡の出来が違う気がするよ」

「大将はアルバイトもやる気にさせる名経営者だからな」

「そうか。大将に人事部長をお願いしたいモンだ」

「そんな無理ですよ。私は会社に入ったことがないんですから。好き勝手やってるだけでみんなが助けてくれるんですよ」

「そこがすごいんですよ。この間、原島さんが人事で悩んでいた時も大将は頷いていましたからね」

「あ、見られてましたか。盗み聞きするつもりじゃなかったんですがね」

「盗み聞きなんて、それどころか、その後原島さんと人の評価の問題で盛り上がったじゃないですか」

「なになに。俺の知らないところで、人事の決め手を見つけていたんだな。それこそ、俺に教えてくれよ」

「雄二。そんな決め手なんてないよ。原島さんは、自分が人事にどこまで関与するか悩んでいたんだが、その後は、実際に働く人をどう評価すればいいのかという話になったんだ」

「評価ねえ。そういえば、中小企業診断士の企業経営理論でも、人的管理の章がキーポイントだって言われてたな。俺の試験の時には、まさに、人事考課が出てた記憶があるぞ」

「1次でも、2次でも出る可能性はあるテーマだよな」

人事考課って言う言葉は、うちに来るお客さんも良く言ってますが、正直言って我々にはピンとこないんですがね。難しい理屈なんですか?」

「そうですね。日常生活では出てこない言葉かもしれませんね。でも、大将だってアルバイトを使ってますから、日常行っていることと大きく変わらないと思いますよ」

「ジン。そうは言っても、数人くらいしか使わない個人経営の事業と組織として大きくなった会社じゃ、全然違うだろ。まあ、ボーナスでも払うとなるとそれなりに査定するのかもしれないが、育成とか開発の側面は無関係だろ」

「お、さすがに診断士だな。人事考課の目的を2つで考えているな」

「えっと。誉められたが、いざ目的が2つと言われても説明できない」

「自分で言ってるよ。整理すると、人事考課の目的というのは、公正に評価するという面とモラールの向上を図って組織全体の活性化につなげる面があると言われている。それを整理して、

(1)査定・選別の側面:職務遂行能力や目標に対する実績などで評価し、昇給やボーナスなどに結びつける

(2)育成・開発の側面:個人の能力を開発し、活用していく

とされているんだ。最近は、特に、育成・開発の側面に重点が置かれていると言われている」

「あ、そうだったような気がするな。受験勉強の記憶が蘇ってきたぞ。そういえば、目的を2つの側面で見た後、3つの原則と3つの考課要素というのがあったな」

「その中身を思い出せるか?」

「確か、こうだった。

人事考課の3つの原則は、

(1)考課の対象期間を厳守する:これは、対象期間以前の失敗や成功に引っ張られて評価するなということだったな

(2)職務遂行能力を考課の対象にする:これは、個人の思想とかプライベートな部分で評価するなということだ

(3)事実に基づいて客観的に評価する:これも、噂話とか、他人の評価によるなということだ

と覚えている。

そして、3つの考課要素は、

(1)業績考課
(2)態度(情意)考課
(3)能力考課

だったと思うが」

「完璧だ。今日は、参った」

「あれ。ジンに言ってなかったかな。うちの会社でも、中小企業診断士にチャレンジさせているんで、俺も定期的に講師をしてるんだ。実は、人的管理は今やってるんだ」

「そうだったか。それでも、さすがだな」

「鳶野さん、ジンさん。お話は聞かせてもらいましたが、やっぱり私には想像できないですよ」

「言葉じゃなくて、行動ですよ。大将のところでは、何人も同時に評価する必要はないですけど、日々、しっかりと目標と成果を評価して、その上、自己啓発も自ら進めるような雰囲気とシステムを作っているようなものです。だから、前の由美ちゃんでも、亜海ちゃんでも、自分から積極的に取り組むんですよ」

「そうそう。大将は、人を誉めるのがうまいからね」

「それも1つかもしれないなあ」

(続く)


《1Point》
 人事関係をもう少し整理します。

 前回はドラッカーからですが、やはり、診断士受験生読者が多いので、テキスト的な内容も追記することにしました。

 最後に出てきた考課要素ですが、簡単に説明を入れておきます。

(1) 業績考課
業績というのは、ある一定期間に出した仕事の成果です。仕事をどのくらいやり遂げたかという量と、その仕事をいかに効率的、効果的にこなしたかという質や職務基準に対する達成度などが考課要素となります。

(2) 態度(情意)考課
態度(情意)考課では、責任性、規律性、積極性、協調性などが考課要素となります。仕事を遂行していく過程でどのような取組み姿勢を示したかをみます。つまり、業績考課は結果をみますが、態度(情意)考課はプロセスを見るということになります。

(3) 能力考課
能力考課では、業務知識、技能、判断力、企画力、理解力、実行力、折衝力、部下育成などが考課要素となります。

また、この時、能力には、2つあることに注意しましょう。

「発揮能力」と「保有能力」です。