居酒屋で経営知識

72.マーケティングと戦略

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「わー咲いてる、咲いてる。ジンさん、このへんどう?」

 約束通り花見にやってきた。

「いいねえ。花の下はほとんど埋まっているけど、逆にこのくらい離れた方が全体の桜がよく見える」

「その上、周りがうるさくなくて勉強しやすいって言うんだろ」

「雄二の言うとおり。少なくても2時間くらいは我慢できるだろう。その後で乾杯するとして、まずは座ろう」

 公園の桜を眺められる小高い丘の中腹にうまい具合に東屋があったので、そこに陣取った。
 
 由美ちゃんは桜色の薄手のセーターを着ている。

「由美ちゃんと桜がいい感じで重なるね。春らしいや」

「へへ。ありがとう、ジンさん」

「まあ、由美も大人になったことは認めよう。それより、勉強しないと飲めないんだろ。早くやろうぜ」

「花より団子か。雄二にとってはどこでもよかったか」

 雄二のお預けを食ったような顔にキャッキャ言いながら、由美ちゃんが学習ノートを広げだした。
 
「まずは、質問に答える形にしよう」

「じゃあ、私から。ちょうどマーケティングのおさらいをしているんだけど、マーケティング戦略にとってはマーケティングミックスが目的だと考えてもいいのよね」

 いきなり雄二が口を挟んだ。

「おいおい。マーケティングというんだから外部環境が中心だろう。企業内部が中心のマーケティングミックスを目的にしたらおかしいんじゃないか?」

「雄二がいいことを言ったな。なるほど。まあ、用語の定義になるかもしれないけど、試験対策上は一応整理しておいた方がいいだろうな」

「鳶野さんの言うことはわかるけど、私のテキストに載っている用語解説にはそう書いてあったの」

「たぶん、由美ちゃんが見ているのは『マーケティング戦略』で、雄二の言うのは『戦略的マーケティング』のことだと思うよ。語順だけなので若干曖昧になりがちだから、確認しておこう」

「まったく。3文字略語ばかりか日本語までわかりづらくしているのは、試験の難易度を上げるためなのかと疑うな」

「まあ、仕方がない。たぶん、歴史的な変遷もあるんだろう。一般的に由美ちゃんの言う『マーケティング戦略』では、ある程度作れば売れた時代に製品(サービス)、価格、流通、プロモーションをきっちりやれば良かったんだ。つまり、内部的な検討でこれら4Pを計画するのがマーケティング戦略ということができたんだ」

「つまり、私の言っているのは、外部環境にあまり左右されない戦略レベルということね。それじゃあ、戦略的マーケティングになるとどう変わってくるの」

「簡単に言うと外部環境への適応を検討することで、全社的な視点での検討になるから、いわば企業経営と同等と考えてもいいかもしれない。俺が良く言っている、企業のミッションから始まり、ビジョン達成に向けた戦略ドメインの検討を経て、全体戦略・部分戦略へつながる戦略策定フローが戦略的マーケティングに当たるんだ」

「なるほど。環境分析をして策定した戦略ドメインを目指してマーケティング戦略を立てていくフロー全体を戦略的マーケティングというわけだな」

「雄二の理解でOKだ。だいたい雰囲気はわかるかな」

「そうね。マーケティング全体のフローの中で、内部検討するための戦略がマーケティング戦略ということでいいのね」

「そんなところだ」

「よし。じゃあ、次は俺の質問だな・・・」

 
(続く)


《1Point》
・戦略的マーケティング

 全社的なマーケティングを検討することを言います。
 このメルマガでも何回か出てきている戦略策定のための構造的なフローを言うとも言えます。
 
 戦略策定のための構造的なフローは初期の頃にホームページに図示しています。興味のある方は以下のリンクページにありますので確認ください。
 →http://bit.ly/HFroJT
 
・マーケティング戦略

 ここではマッカーシーの4Pを基本手法としています。
 
 こちらも以前にホームページで開設していますので参考にどうぞ。
 →http://bit.ly/HFrt0f