居酒屋で経営知識

14.ビジョンと戦略

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求
めている。

(前回まで:ミッションの概念と本気でミッションを考えるこが重要であることを提示しました)

「いらっしゃい。毎度」

 縄のれんの向こうには、いつもの大将と常連の顔があった。
 
「いやー、まだまだ寒いですねえ。節分とはいえ、冬はこれから本番かもしれませんね」

「ジンさん。あんまり若い人が寒い寒いって言わんでくれよ。俺ら、年寄りは暗示に弱いからな」

「大森さんが年寄りなんて思ってませんから」

「うーん。そういわれるとうれしいね。じゃあ、言ってもいいや」

 他愛もない会話。焼き物、揚げ物、鍋物から作られる暖かい空気と混じり合って居心地ができあがっている。
 
「今日は獺祭の生、入れておきましたけど、どうします」

「もちろん、それ行きましょう。それと、栃尾の油揚げね」

「ハイよ」

 昨日の研修では、雄二の協力でミッションとビジョン、経営戦略の関係についての内容に入ってきた。
 
 原島社長にとっても重要な部分なので、原島さんのスケジュールに合わせて日程調整を行っている。
 
 獺祭のふくよかな香りを感じながら、次への展開を考えていた。


 前回、ミッションを原島社長に読み上げてもらいました。
 
 皆さんは、どう感じましたか。社長自ら思うところもあったようです。これから、改めてミッションの見直しをされるようですので、この研修では次の段階へ進みます。

 このミッションとともに並ぶ言葉に「ビジョン」がありますね。

 企業によっては、「ミッション・ビジョン」と一緒にしてHPに載せている例もあります。

 ただし、これは明確に分けるべきだと思います。

 「ミッション」は、前回見たように、「存在意義」であり、社会に対する使命の表明でもあります。

 それに対し、「ビジョン」とは、テレビジョンやビジュアルと同語源であるように「見える」ということがポイントです。

 「未来を見えるようにしたもの」つまり、「あるべき姿」を言葉にしたものが「ビジョン」ですので、より具体的である必要があります。

 「ビジョン」が明確であれば、戦略を立て、段階的な目標を決めることができるはずです。

 たとえば、「ミッション:社会に貢献する」 と大雑把であっても、「ビジョン:すべての都道府県でわが社の製品を手にできる」と明確となれば、たとえば、すべての都道府県庁所在地に出店するとか、大手チェーンに卸すなど、様々な戦略が生まれます。

 ところが、「ビジョン:みんながわが社の製品を愛してくれるようにする」となっていた場合はどうでしょう。
 
 どうなった場合にみんな(誰?)が愛してくれている姿なのか、イメージできますか?

 そうです。「ミッション」を見据え、具体的にあるべき姿を描いたものが「ビジョン」なのです。

 この会社にもビジョンという言葉はあったので、ミッション同様、経営幹部に読み上げてもらった。

 さて、「ミッション」や「ビジョン」については理解できましたでしょうか。

 これらについては、経営者や経営層が決めるものと言えますが、現実に事業を行うには、「戦略」を考えなければいけません。

 これは、経営者だけでなく、従業員すべてを巻き込んで決めていかないとうまく機能しないものです。少なくとも、自分の役割に関わってきます。

 それでは、戦略とは具体的にどんなものなのでしょうか。一言で言えるのでしょうか。

 一般的に、戦略とは「成長戦略」・「競争戦略」・「撤退戦略」の3つに分けられると言われています。
 
簡単に説明してみましょう。

「成長戦略」:企業がどのような方向へ成長していくのかを示す戦略
 →今後、戦略論の詳細で出てきますが、アンゾフの成長ベクトルなどが有名ですね。

 この考え方は、既存の製品を中心にするのか、新製品を投入するのか、また、その対象市場は既存市場か、新規開拓市場なのかなどで自社の成長の方向を考えるものです。

 「競争戦略」:これは文字通り競争するための戦略です。
 →特に、ポーターやコトラーの競争戦略などが有名です。
 
 自社の強みを活かし、また、自社の置かれた立場を検討して、他社の優位に立つことを検討するものです。

 「撤退戦略」:会社を清算すると言うことではなく、個々の事業から撤退する戦略となります。
 →事業撤退は非常に大きな犠牲を払うことがあります。社会的にもそれまでのお得意様に迷惑をかけることになるかもしれません。
 
 ところが、撤退に対しての体系づけられた戦略は無いというのが現実です。

戦略策定のための構造的なフロー
      
 一般的な構造図が上の図です。
 
 まずは経営を、全体的な構造や具体的な戦略策定をフローで概観してみると判りやすいかもしれません。

 次回から詳細の説明をいたします。


 
「ジン、昨日はお疲れさん」

 雄二が到着した。

「雄二もうまくなったもんだ」

「誉めても奢らんぞ」

 概念的な内容が続くので、説明やディスカッションに持って行くのが難しいと思っていた。しかし、研修を受ける側が積極的になっているので、思った以上に効果的に進んでいるのだ。

 獺祭の生酒で乾杯し、栃尾の油揚げをあっという間に平らげた。