居酒屋で経営知識

46.パンデミックとは(2)

(前回まで:インフルエンザパンデミックについての話となっていました。)

「今日は仕事どころじゃないなあ。ジンさん、具体的な対策を教えてください」

 由美ちゃんが商店街の集まりで、新型インフルエンザ対策の話を聞いてきた。大将も、まったく認識が無かったこともあり、どうしたらいいのか、検討しようと思う。
 
「推測ではありますが、現在のところ、新型インフルエンザに有効なワクチンが開発できて一般に行き渡るまでに1年くらいはかかると言われています。一度流行し出すと約2ヶ月間継続して、第2波、第3波と断続的に1年続くというのがシナリオの基本です」

「すると、1年間はこの新型インフルエンザ中心の生活になると言うことですか?」

「たぶんそうなるでしょう。この新型インフルエンザの特徴は、(1)感染力が非常に強い、(2)免疫を持っている人がいないため大流行となり、かつ致死率が非常に高いと思われる、(3)飛沫感染のため、他人との接触を断つことが最大の防御、(4)潜伏期間は無症状のため、グローバル時代においては全世界流行の危険性が高い、などが言われています。

 そうなると、流行し始めたときにどうなるか予測してみましょう。
 
(1)学校などは休校となる、(2)企業等も出勤者が激減する、(3)外出をしなくなる、(4)重病者や瀕死者が増えるが対応できる医療機関や医者が激減してくる、(5)食料品なども、出荷、配送、販売などすべての工程で人的能力が激減する、など次々に連鎖反応を起こすでしょう」

「自分を守るために一番いいのは、自宅から出ないことだと言っていたわ。でも、食べなければいけないし、仕事もしなければいけないわよね」

「だから、一つ一つ対応を考えなければいけないんだ。個人としては、まず、食料品の確保や感染した場合の対応だし、企業においては、事業の継続をどうするかだよね」

「ジンさん。でも、外出できなければ食料品なんかどうすればいいの。会社に行けなかったら、どうやって生活費を稼げばいいの」

「例えば、個人ならできるだけ食料の備蓄を進めるということが一つだし、新型インフルエンザ対策を進めているスーパーの通信販売にあらかじめ登録しておくこと、外出しなければいけないときのために、しっかりしたマスクをあらかじめ買っておくなどは必須事項だろうね。

 大手スーパーなどでは、すべて屋外で販売する訓練をしたりしているところもあるようだよ。企業側では、もっと複雑な対応が必要だね。
 
 まず、考えなければいけないのが、人手を必要とする重要業務をどうやって継続させるか、誰が来られなくなっても代替できるような対策がなされているかなどだ。最悪事業停止せざるを得なくなったときに、どこまで耐えられるかを検討しておくことも必要だね」
 
「うーん。居酒屋なんてどうしようもないですよね。客が来ない、材料が入らない、もしかしたら自分が感染するかもしれない・・・店をたたむしか無いんですか」

「大将、だから、悲観的に考えるのはやめましょう。大事なのは、少なくとも自分たちが感染しないことを優先することと、この店を必要としている人たちがたくさんいると言うことです。乗り切るにはどうするか、その上で、困っている人たちに何ができるかですよ。きちんと対策をとっている人の方が少ないに決まっています。そうすると、そんな人たちにできるだけおいしいものを安全に提供できれば、居酒屋の強みを発揮できますよ」

「そんなことできますか?人と接しないで居酒屋はできないでしょう」

「そこは緊急時ですよ。重要なのは、仕入をどうするかでしょう。最低限必要な食材を安定して供給してもらえるように、今付き合っている取引先と連携して、大流行時にも対応できるシステムを作っておくんです。例えば、あらかじめ大流行時の対応を契約で取り決めて、優先して食材を提供してもらうようにし、新型インフルエンザ対策をとっているルートのみを通過してくるようなルールをあらかじめ作っておくんです。受発注の仕組みや納品のやり取りも対面の必要がないようにしておいた方がいいでしょう。
支払も銀行へ行かなくてもいいようにインターネットなどを利用できるようにしておくことも重要です。あらかじめ、取り決めしておくことと、きちんと機能するように訓練しておくことも重要ですね。そのルールで何度かやってみると言うことですね」

「大変だなあ。でも、ジンさん。仕入がいくらできても客は来ませんよね」

「大将。そこからは、経営ですよ。マーケティングです。困っている人がたくさん出てくることがはっきりしているんですから、それにどう対応できるかですよね。例えば、スーパーや商店は通販システムで食材を各家庭に配送することや屋外でなるべく危険が少ないようにして販売することを考えています。

 みやびは、調理することが強みですから弁当という手もありますよね。晩酌のつまみセットを作って、ガラス越しに販売したり、商店の通販システムに加えてもらって、注文に応じて作っておくと定期的に、配送会社がピックアップに来て持っていき、販売代金は契約口座に定期的に入金されるようにすることなども考えられます」
 
「ジンさん。そうですよね。うちができることを考えなければいけないんですよね。よし、由美ッペ。今週末、取引先と勉強会をやろう。それまでに、ジンさんに基本的な情報を教えてもらっておこう」

「大将、そうですよ。勉強会に私も参加しますよ。当然、パンデミックになったら、みやびにお世話になるつもりなんですから」

(続く)

《1Point》
ちょっと長めですが、個人での対応についてです。

・「咳エチケット」
○ 咳やくしゃみをする際には、テイッシュペーパーなどで口と鼻を押さえ、他人から顔をそむけ、1m以上離れる。
○ 呼吸器系分泌物を含んだテイッシュを、すぐに蓋付きの廃棄物箱に捨てられる環境を整える。
○ 咳をしている人にサージカルマスクの着用を促す。

・「個人での買い置き物品例」

 流通が停滞してしまったり、外出が不可能になってしまうなど、新型インフルエンザの流行時には食糧や日用品が調達できなくなる可能性が高いです。万が一の時、流行が過ぎ去るまで家族で籠城することが可能なように、できれば2ケ月分くらいを備蓄しましよう。

●食料品
□米、切り餅、麺類 (長期保存ができる主食類を準備)
□砂糖、塩、醤油
□インスタントラーメン、レトルト食品(カレー、おかゆ、みそ汁など)、フリーズドライ食品、乾物、乾燥保存用食品
□缶詰 (家族全員が倒れても調理せず、簡単にとれるもの。果物缶は糖分、水分もとれ有効。魚、コンビーフなどのタンパク源となるもの、コーン、大豆などの素材缶も便利)
□粉ミルク、離乳食 (乳児がいる場合)
□缶ドロップ
□チョコレート、キャラメル
□ジャム、ゼリー状栄養補給食品 (少量で糖分も高く高力ロリー。高熱時食べる力がなくなってもとることができます)

●飲料品 (ライフ・ラインが止まった場合、また高熱時の脱水症状の予防にも)
□ミネラルウオーター
□ペットボトル飲料
□スポーツドリンクなどの粉末飲料
□水 (万がーの場合のため備蓄しておくことをおすすめします。生命維持に必要な飲料水の量は一人1日3リットル程度です。)

●日用品・医療品
□常備薬 (胃腸薬、ビタミン剤など)、持病の薬など
□解熱剤 (アセトアミノフェンを確認)
□包帯やガーゼ、外傷治療薬(通院できないため。軽いケガなども自宅で手当します)
□ゴム手袋 (汚染されたものを捨てたり、扱わなければならない時のために)
□マスク(どうしてもの外出のために。マスクは使い捨て。多めに用意)
□うがい薬
□水枕、冷却枕、保冷剤、解熱シートなどの冷却用品(高熱時のため。ライフラインが止まり氷がない、冷やせない場合も想定)
□洗剤・漂白剤
□消毒用アルコール (汚染されたものの消毒に)
□カセット・コンロ、ボンべ
□懐中電灯、乾電池 (電気、ガス、水道などのライフラインが止まった時を想定)
□ビニール袋 (汚染されたマスクなど、密閉して捨てるために必要)
□洗濯ロープ (ウイルス感染を防ぐために洗濯物は室内干しに
□トイレット・ペーパー、ティッシュ・ペーパー、生理用品
□ウェット・ティッシュ
□ペット・フード (ペットがいる場合)
□多少の現金 (社会経済機構が混乱してクレジットカードが使用できない場合も)

厚生労働省 新型インフルエンザ情報

国立感染症情報センター インフルエンザパンデミック